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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 エルフの里

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(7)綻び

 コレットとシオマラの様子を見て、どうするべきかと話し合った一同だったが、結局まずはロマナに話を通すことになった。
 そもそも世界樹を守るための結界は、森全体ではなく周辺にある分だけでいいのだ。
 わざわざ森全体を結界で覆っているのは、あくまでも森の管理をしているエルフたちのためにある。
 そのため、エルフが結界を望まないのであれば、今のままでも構わないという結論になるかも知れないということが考慮されたのである。
 もっとも、考助たちがロマナにその話をすると、以前のように人が入り込まないように結界で守ってほしいという事になった。
 ただし、その結論を出すまでに、ロマナがコレットやシオマラと同じようにすすけた感じになったり、他のエルフたちがしばらくフリーズしたのは、予定調和といったところだろう。
 そうしてエルフたちから許可を得た考助は、早速セウリの森に張るための結界の準備を始めるのであった。

 結界を張る作業は、頼まれたからといってすぐに「ハイッ!」と出来るものではない。
 どういった結界が必要で、そのためにはどんな魔法陣を使う事になるのか、きちんと計算したうえで作成しなければならないのである。
 特に今回は、ユッタが元々創ってある結界を補強するための結界を作らないといけない。
 それを全て無視した結界を張ることも出来なくはないのだが、はっきりいえばかなり無駄なことになる。
 主に魔力的な面で。
 もっとも今回考助は、維持していくのがエルフたちになるので、魔力というよりは聖(精霊)力をメインに起動する物を考えていた。
 結界を張るために必要な魔方陣を維持するのには、どうしてもそうした力が必要になる。
 もし使うのがヒューマンであれば、少しでも軽減できるように考えるのだが、今回はエルフたちなので、そうした面は多少排除している。
 何しろ生まれたときから精霊魔法を使えると言われるエルフだ。
 個人個人が持つ精霊力に関しては、他の種族とは比べるべくもない。
 メンテナンスをするのには、魔法陣やその他の知識が必要になるが、単に力を供給するだけならエルフであればだれでも出来る。
 ついでにいば、ユッタが張っている結界が正常に働くようになれば、考助が作った結界は必要なくなる。
 期間を数値に直せば百年以上はかかる計算になるが、長寿のエルフたちにしてみれば、自分の寿命の範囲内だ。
 そこから考えればさほど大きな負担とはいえない。
 考助がそれらの事を全てエルフたちに話した結果、それで構わないというお達しが出たため、考助は本格的にセウリの森に結界を張る作業に取り掛かるのであった。

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 一目で多くの財産があると分かる屋敷の一室で、その主がとある報告を受けていた。
「それで? 結果はどうだったんだ?」
 主の言葉に、報告者は一つ頷いてから話し始めた。
「ほぼ予想通りの結果になりました」
「・・・・・・ほぼ?」
 そういって眉を寄せた主に、報告者は一つ頷いてから続ける。
「はい。何しろ調査しているのも、過去に『道』を通ったのもヒューマンでしたから。エルフほどには正確に『道』を覚えておくのは不可能です」
 その報告に、主は座っていた椅子に改めて深く腰を落ち着けた。
「・・・・・・そうか。やはり『協力者』を失ったのは痛かったな」
「はい。出来ればもう少し情報を引き出したかったのですが」
 報告者の言葉に、主は首を左右に振った。
「それは今更だな。それよりもいくつかの『道』が見つかっただけでも良しとするべきだろう?」
 問いかけというよりも、同意してほしいがための確認と理解した報告者は、小さく頷いた。
「ああ、済まない。報告の途中だったな。それで? 使える『道』はどれくらいだ?」
「報告によれば、大体事前に聞いていたものの、六割から七割程度、といたところです」
 その報告に、主は「六割か・・・・・・」と呟いて椅子の背もたれに完全に背中を預けて目を瞑った。
 しばらくその体勢だった主は、首を左右に振った。
「何とも微妙な数字だな。それに、そもそも里には行けないのだろう?」
「はい。その辺は『協力者』も慎重だったようで、一度も案内されたことはないそうです。もっとも一度程度案内されたからといって、完全に『道』を把握することなど不可能でしたでしょう」
「それはそうだろうな」
 報告者の言葉に、主は頷いた。
 主としてもその報告は元々予想していた通りだった。
 エルフたちの里までたどり着けるような結果が得られるとは露ほども考えていない。
 それに、主の目的はあくまでもエルフではなく、セウリの森にある豊かな資源だ。
 どちらかといえば、主にとってエルフは厄介な存在でしかない。
「・・・・・・まあ、いい。それよりも今は『道』を把握することに全力を傾けるべきだろう?」
「はい。そのように指示しています。『道』の近辺でどの程度の材が得られるのか、今後はそちらに重点が移っていく予定です」
「うむ。頼むぞ」
 主の短い返事に、報告者はこれ以上は留まるべきではないと判断して部屋から出て行った。

 報告者が出て行ったあとに、主はパイプに火を付けて燻らせた。
 すぐに主の口から白い煙が吐き出される。
 長めに息を吐きだした主は、ポツリと呟いた。
「さて、既に賽は振られた。あとはどう出てくるか」
 主にとっては、セウリの森に根を張るエルフたちが、今回の件で表に出て来て貰った方がいい。
 例えそれが、エルフとの争いとなったとしても、である。
 いままでセウリの森にひとの手が入らなかったのは、結界の存在が大きかった。
 それが今は綻びが出来ている。
 主は、もし自分がセウリの森を上手く開発できるようになれば、後世に名を残すことが出来ると確信している。
 そのために長い時間をかけて、色々な絡め手を取りながらここまで来たのだ。
 ようやく見つけたその綻びを、慎重に、けれども大胆に大きくしていくことが必要だと主は考えている。
 焦っては元も子もない。
 主にとって敵は、何もエルフたちだけではないのだ。
 そうした者たちに、動きを感づかれてはならない。
「・・・・・・いっそのことエルフ共が表に出てくれれば」
 そう言った主の言葉は他に誰もいない部屋の空中に拡散して、聞く者は誰もいないのであった。

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 結界の作成を始めた考助だったが、コレットは既に塔の里へと帰っている。
 代わりにシルヴィアがセウリの森の里へと来ていた。
 聖力に関しては、シルヴィアが一番詳しいので、何か役に立てることがあるかもしれないという事で呼ばれたのである。
 ただし、魔方陣や結界に関しては、当然というべきか、ユッタや考助にはとてもではないが及ばない。
 どういう形にするか話し込んでいる両者に割り込めるほどの者は、里には他にいなかった。
 そのため、シルヴィアやシュレインは、里の中でエルフたちとの会話を行っていた。
 いくらエルフが排他的な種族とはいえ、シュレインやシルヴィアは考助の仲間として一括りにされているので、嫌な顔をされることはない。
 それらの会話の中で、シュレインにとってもシルヴィアにとっても有意義なことを聞けていた。
 長寿なエルフがどういった考え方を持っているのかというのは、二人にとっても興味深かった。
 特にシュレインにとっては、ヴァンパイアとの考え方の違いを比べるうえでもエルフたちとの会話は参考になっていた。
 そんなことを数日続けていた二人だったが、ついに考助からユッタとの話合いが終わって結界を張る準備を始めるという連絡が入ったのであった。
出そうかと迷った主ですが、結局出すことにしました。
でも、出番は・・・・・・。
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