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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 エルフの里

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(6)ユッタの結界

「そろそろ本題に入って頂きたいのですが、いいでしょうか?」
 放っておくといつまでも脱線したままになりそうなので、考助がユッタにそう申し出た。
 言われたユッタも「そうですね」と頷いてから話始める。
「考助様の権能の一部は魔法陣だとお伺いしましたが、間違いないでしょうか?」
「? 神の権能となるかどうかはともかくとして、得意分野だという自覚はあります、かな?」
 唐突なユッタの質問に、考助は首を傾げながら答えた。
 その考助の隣では、コレットとシュレインが額に手を当てている。
 魔法陣を使ってあれだけの事が出来ているのに神の権能でなければ何なのだ、と考えているのだ。
 口には出さなかったが。

 二人の様子を見て微笑んだユッタは、ただ単に頷いて続けた。
「その考助様にお願いがございます」
「お願い?」
 世界樹からお願いされるようなことなど何かあっったか、と考助は首をひねったが特に思い当たることは無かった。
 話の流れから魔法陣が関係していると思われるが、何か長年この世界に存在し続けて来たユッタの助けになることがあるとは思えなかったのだ。
 だが、そんな考助に対して、ユッタは一つ頷く。
「はい。現在この森は私が創った結界によって守られています」
「そうですね」
 今回は転移門で来たが、以前にこの森を訪ねてきたときは外から街道を通って来たのだ。
 その際に結界を目の当たりにしているので、そのことは考助もよくわかっている。
 むしろ考助には、なぜ今その話をユッタがしだしたのかが分からなかった。
「ただ、今はその守りが薄くなっています」
「えっ!?」
 ユッタの言葉に驚きの声を上げたのは、考助ではなく、シオマラだった。
 さらに、コレットも驚きの表情になっている。
「ああ、そうでしょうね」
「ええっ!?」
 加えて考助が納得したように相槌を打つと、コレットも驚きの声を上げる。
 シオマラは既に声も出ない、といった感じだった。
 考助のその態度に、ユッタは感心したような顔になっていた。
「流石ですね。お気づきでしたか」
「むしろ、二人が気付いていなかったことの方が驚きなんですが・・・・・・」
 考助の言葉に、ユッタが困ったような顔になった。
「この二人だけではありません。里の皆も気づいていないのですよ」
「え!? だって、実害が出ているのではありませんか?」
 驚く考助に、ユッタは首を左右に振った。
「確かに森に侵入してくる者は増えていますが、今のところ里の者たちで対処できる範囲内で済んでいます。ただ、それも時間の問題かと・・・・・・」
「でしょうね」
 力強く頷いた考助に、ユッタはホッとしたような表情になった。
「話が早くて助かります。・・・・・・盲目的に信仰されるとこういう時に困ったことになるのですよね」
 ユッタがそう言いながらエルフ二人を見ると、考助も納得したような顔になる。
「そういう事でしたか」
 そういったあとで考助は、深々と溜息を吐いた。

 既に現人神となって十年以上たっている考助は、人々から信仰されること自体は否定しない。
 ただそれとは別に、盲目的に信仰されても困ることがあることはよくわかっている。
 エルフたちからの安産信仰などは、その最たるものだろう。
 もっとも信仰というのは、人々の間で自然に発生するものだと考えている考助は、敢えてそれを否定するつもりはない。
 ただし、だからといって考助自身にどうすれば安産になるのか、と問われても困ってしまう。
 そんなことは考助に聞かれてもわからないので、答えることが出来ないからだ。
 盲目的な信仰というのは、そういう事も起こり得るという事だった。
 ユッタの場合は、それがさらにややこしくなっている状況だった。
 セウリの森の里は、長い間ユッタがその力で創って来た結界によって守られてきた。
 だが、いくら世界樹が創った結界とは言っても完璧というわけではない。
 ユッタが持つ力以上の力で攻撃されれば破られるし、弱点が無いわけではないのである。
 ところが、エルフたちにとっては、長い間神のような存在として崇められてきた世界樹ユッタにはそのようなものはない、とさえ思われている。
 それがユッタの言った「盲目的な信仰」ということになる。
 それは、コレットとシオマラの二人の反応を見ればよくわかることだった。

「なるほどのう」
 考助から説明を聞いたシュレインが、納得したように頷いている。
 コレットとシオマラの二人は、未だに回復していない。
 それだけ受けた衝撃が大きかったのだ。
 二人を見て、そのままでは話が進まないと考えたシュレインが、そのまま気にせず質問してきた。
「それで? ユッタ殿は、結界が緩んでいると分かっているにも関わらず、何故それを放置しておる?」
「すぐには直せないからです」
「なに?」
 即答して来たユッタに、シュレインは首を傾げた。
 そのシュレインに、考助はフォローを入れた。
「ユッタが創っているこの森の結界は、自然物の配置によるものが大きいんだよ。で、前の事件の時には、森の奥まで入り込めるいくつかのルートが知られてしまっている、と」
「ああ、なるほどの」
 考助ほどではないにしろ、魔法陣や結界に詳しいシュレインが納得したように頷いた。
 契約の守護者といわれるヴァンパイアは、そうした方面も強いのが普通なのだ。
 勿論、ヴァンパイアの中には、不得意な者もいるのだが。

 考助とユッタからの断片的な情報で状況を理解したシュレインは流石といえた。
「一度入り込まれた道は、木々の配置を変えないと再び結界としての役割は果たせない。だが、木々の配置を変えることなど、それこそ数十年単位で行わないといけない、というわけかの?」
「素晴らしいですね。その通りです」
 シュレインの考察にユッタが手放しでほめたが、褒められた本人は首を左右に振った。
「この程度は、ある程度知識があれば思いつくじゃろう? ・・・・・・というわけでもなさそうかの」
 シュレインは一度そういったが、放心状態から立ち直りつつあるコレットとシオマラを見てため息を吐いた。
「本来であれば、エルフたちが気づいて穴が開いた部分を補佐できればいいのだろうけれど、この状態だと無理そうだよねえ」
「だの」
「そうなんです」
 考助の半分呆れたような言葉に、シュレインとユッタが大きく頷いた。
「それで、コウスケの力を借りたい、というわけかの?」
「はい。そうです」
 シュレインが視線を向けると、ユッタが再び頷いた。
「将来的には、以前と同じように私の力だけで維持できるようにするとしても、しばらくは他からの補佐が必要になります。その部分を現人神に対処していただけないかと」
「そういう事なら喜んで」
 考助にとっても利がある話に、すぐに頷いた。
 何しろ、本当の意味で長い間をかけて創られた結界に触れることが出来るのだ。
 そんな機会などまずないだろう。
 自身の趣味の意味でも、転移門で繋がった里を守るという意味でも、考助にとっては必要なことなのである。

「それはまあいいとして、エルフたちへの説明はどうするのかの? まさか、何の説明もせずにことを進めるわけにもいくまい?」
 考助とユッタの間で話がまとまるのを確認したシュレインは、コレットとシオマラを見ながらそういった。
 シュレインのその言葉を聞いた考助とユッタも苦い顔でそちらを見る。
 三人の視線の先には、二人のエルフが何ともばつが悪そうな顔になっているのであった。
ただただ盲目的に信じちゃだめですよ、というお話でした。
特にこの世界の神様の場合は。
今まで散々神々は万能じゃないですよ~、と知らされているにも関わらずコレットがこの反応ですから、普通のエルフたちの場合は・・・・・・。
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