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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 エルフの里

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(4)謝罪

 何となく話が脱線しかかった気がしたので、考助は視線をロマナへと向けた。
「それで? 話したかったことはそれだけじゃないですよね?」
 考助の問いかけに、ロマナは首を左右に振った。
「勿論、別の目的もありますが、一番話したかったのはそのことです。貴方がたのおかげで里がいい方向に変化が起きていると」
 このロマナの言葉に嘘はない。
 閉塞感が漂っていた里に、考助たちが訪ねてきたことと転移門の設置で一気に良い風が吹いてきた。
 里を代表する者として、現状を伝えることで感謝の気持ちを伝えたかった。
「里の者たちを代表して、感謝いたします」
 そう言って頭を下げたロマナに、考助とコレットは一瞬視線を合わせてからコレットが一つ頷く。
 コレットのその表情は、既に過去の事は過去の事と割り切っている顔だった。
 それを確認した考助も安心してロマナに向き直った。
「その感謝は受け取りますが、まだ安心するのは早いですよ?」
「と、言いますと?」
 考助の言葉に疑問の表情になったロマナに、考助はさらに付け加えた。
「妊娠した者が出たからといって、無事に出産出来るとは限りません。その後の事もありますし。問題はまだまだあります」
「それは勿論その通りですね。里でも最大限の対応がされています」
 子供が出来にくかったエルフにとっては、妊婦というのは一番に大事にされる。
 勿論、むやみやたらにちやほやするというわけではないが、最優先に守られるべき対象とされるのである。

 塔の里でも似たような風習があるが、子供が以前より比べて多くできるようになった今でもそれは変わらない。
 子供というのは、出来るまでも大変だが、出来てからもさらに大変だということは誰もが分かっているのだ。
 いくらエルフとはいえ、いきなり大人になって生まれてくる者は誰もいないのだから。
「子供は宝。それはどこの里でも変わらないでしょう」
 考助たちの会話をそれまで黙って聞いていたリレースが、大きく頷きながら口を挟んできた。
 リレースは、塔にある里の代表として誰よりも注意深くその変化を見守って来た一人だ。
 塔に移り住む前の過去と比べて、変わったこと変わらなかったことを一番強く肌で感じていた。
「そうなのでしょうね。私もこの里に来るたびに、そう感じています」
 そういって頷くロマナの表情は、どこか羨ましげでもあり、また淋しげでもあった。
「無事に子供たちが生まれてくれば、そちらの里でも同じことになるのではないのですか?」
「そうですね」
 なんとなくロマナの表情の意味を悟ってそう助言した考助に、ロマナもハッとした表情で頷いた。
 今から無用な心配していても仕方がないと思い直したのだ。

 考助の言葉で気を取り直したロマナは、付け加えるように続けた。
「私たちの里はまだまだこれからです。余所をうらやんでいても仕方ないですね」
 その言葉に、他の者たちは余計なことは言わなかった。
 誰かに同意してほしかったのではなく、誰かに聞いてほしかった言葉だと理解していたからである。
 そのことを察したロマナは、若干顔を赤くした。
「いや、お恥ずかしい。この年になって、まだ誰かに愚痴を聞かせることになるとは思っていませんでした」
「どんな立場だろうと、どんな年齢だろうと、話せる相手がいるというのは良いものですからね」
「そうですね」
 リレースの言葉に、ロマナも気を取り直したように頷いた。
 そして、ロマナはその視線を考助とコレットに向けて言った。
「コウスケ様、それからコレット・・・・・・いえ、コレット様。厚かましいお願いとは思いますが、一度お二人で我々の里を訪ねていただけないでしょうか?」

 ロマナのその言葉に、考助とコレットは再び顔を見合わせた。
 どちらも純粋に驚きの表情を浮かべている。
 考助はともかく、コレットが里を訪ねると余計な波風が立つだろうと予想してので、コレットは転移門が繋がった以降はセウリの森の里を訪ねたことはない。
 そのコレットに合わせていたわけではないが、考助もこれまで一度も訪ねてはいなかった。
 わざわざロマナが進言してまで里に用事があるとは思えなかったのだ。
 そんな二人の思いを読み取ったのか、ロマナが続ける。
「先程もお話した通り、私の里ではお二人の噂が広まっています。ついでに、この里で起こっていることもです。この機会に是非とも里を訪ねてほしいのです。むろん、無理強いをするつもりはありませんが・・・・・・」
 そういったロマナは、視線をコレットへと向けた。
 過去の事があるので、下手に連れて行ってもそれが逆効果になることもある。
 ましてや、今のコレットはお腹に子供を抱えた状態なのだ。
 幾ら安定期に入ったからとはいえ、無理をさせては元も子もない。
 加えると、子宝の象徴となっているコレットが、流れてしまったということになってしまうと、今までの良い状態が一気に悪い方へ傾きかねない。
 そのため、ロマナはコレットに無理をさせるつもりはない。
 だが、里の事を考えると来てほしいという思いもある。

 ロマナのそうした思いを察した考助は、一つため息を吐いてからコレットを見た。
「コレット、どうする?」
 考助としてはどちらでも構ないのだ。
 だからといって、コレットを無茶させるつもりは毛頭ない。
 里の事情は里の事情と切り捨ててしまうのも別に構わない。
 既に過去の事は割り切っているとはいえ、里を訪ねることでコレットに悪影響を与えるくらいなら最初から訪ねない方がいい。
 コレット次第だと視線を向けた考助に、そのコレット自身は苦笑をした。
「コウスケ、色々と気にしすぎよ。ロマナがここまでして来てほしいということは、そういうことなのでしょう?」
 考助にとっては意味が分からないことをコレットが言ったが、言われたロマナはすぐに分かったらしい。
 苦笑して頷いていた。
「コレット様にとっては、白々しいでしょうけれどね」
「ロマナも気にしすぎよ。私はもう気にしてないわ。今まで行っていなかったのは、あくまでも里を刺激しないためだもの」
「そう言って頂けると・・・・・・」
「謝罪はもういいわよ」
 コレットは手を振って、再び頭を下げようとしたロマナを遮った。
「それで? いきなり今日というのも難しいでしょうから、いつがいいかな?」
 考助が今日一日空いているのは分かっているが、セウリの森の里の準備が出来ていないだろうと、さっさとコレットが話を進める。
「お二人がお時間を取って頂けるのであれば、私どもは明日以降のいつでも構いません」
「そうだねえ。それじゃあ、明日でいいんじゃない?」
「あら? コウスケは大丈夫なの?」
「まあね。特に重要な要件があるわけではないし」
 探せばいくらでもやることはあるが、どれもこれも優先度が高いというわけではないのだ。

 あっさりと決まった里の訪問に、ロマナは深々と頭を下げて退出していった。
 考助たちがいる部屋を出て行く際に、足早になっていたのは、二人の訪問を早く里に伝えるためだろう。
 そんなロマナを見送った考助たちは、しばらくとりとめのない会話を続けるのであった。

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 考助が管理層に戻ってエルフの里であったことを皆に伝えると、シュレインが予想外なことを言い出した。
「ふむ。それ吾も行っていいかの?」
「シュレインが? 別に構わないと思うけれど、何かあった?」
「いや、何。こと子供に関しては、エルフもヴァンパイアも似たようなところがあるからの。なにか参考に出来れば、と思っての」
 ヴァンパイアにとっては、エルフと違って子供が出来ないことはさほど重要ではない。
 勿論、ヴァンパイアとて不死ではないのだから子を作る必要性はあるのだが、種の保存といった意味ではさほど重要ではない。
 それこそ、はるか過去から甦ったプロスト一族の例を見てもわかる。
 ヴァンパイアとして、どういった方針で進めていけばいいのか、シュレインなりにエルフの里を見て答えを出したいのだ。

 結局、考助はシュレインの提案をのんで、セウリの森の里へは三人で向かう事になったのである。
再びセウリの森に向かう事になりました。
コレットは察していますが、里ではある物が待ち構えています。
そして、シュレインがそれに加わることになりました。
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