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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5部 第1章 塔同士の戦い

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閑話 主に捧げる勝利(後編)

 私たちが戦闘を始めてからしばらくして、状況に変化があった。
 これまで多く存在していた中級レベルのモンスターが、急に激減して来たのだ。
「何があったのでしょう?」
 コウスケ様から下賜された剣を振るいながら、私は内心で首を傾げた。
 勿論、周囲の部下たちに影響を与えるため、表に出すことはしない。
 ただ、傍で戦っていたダエルも同じような気持ちなのか、微妙に顔に出ていた。
 もっと分かりやすかったのは、修練の為と連れて来たゴブリンたちだ。
 明らかに、弱くなった相手に気を抜き始めている。
 それが分かったのか、ダエルが叱咤を飛ばし始めた。
 いくら相手が下級モンスターとはいえ、ゴブリンたちにとっては油断できる相手ではないのである。

 少しでも気を抜けば油断し始めるゴブリンたちに指示を飛ばしていた私の所に、一匹の狐が近づいてきた。
 すぐに周囲にいた部下たちが私の周囲を固めたが、すぐに警戒は解かれた。
 近付いてきたのが、コウスケ様の眷属だと気付いたのだろう。
 その反応に満足しながら私は、狐に話しかけた。
「銀狐殿。どうかされましたか?」
 美しい銀色の毛並みを持ったその狐は、私と共にコウスケ様から直接指示を頂いていた銀狐だった。
 その銀狐は、私の目の前まで近づいてきてから「キャウ!」と一声鳴いた。
 すると、そこには人の姿を取った銀狐がいた。
 例え姿形が違っていても、匂いや雰囲気で同じ存在だという事は分かる。
 何処から取り出したのか、一枚の布を纏って身を隠していた。

 そのままスタスタとさらに近づいてきた銀狐が、私に話しかけて来た。
「此方も状況変わった?」
 その一言で、私は銀狐が何を言いたいのか分かった。
 急激に中級モンスターが減ったことを確認しに来たのだろう。
「ええ。明らかに中級クラスが減っています」
「やっぱり」
 私の返答に、銀狐は小さく頷いた。
「其方もおなじですか?」
「うん。私の仲間が、中級クラスが引いていくのを確認したって」
 その言葉に、私は目を見開いた。
 中級クラスのモンスターが減ったことは確認していたが、退却していた所までは確認できていなかった。
 そうなると、単純に数が減ったわけではなく、何かの指示が下った可能性もある。
 私が見ていた限りでは、そうした感じは受けなかったのだが、あるいは接敵する前に引き上げたということもありえる。
「私は確認できませんでしたが・・・・・・そうですか。そうなると、何か仕掛けてくる可能性もありますね」
「うん。注意」
「わかりました。わざわざ忠告ありがとうございます」
「ううん。いい。仲間だし」
 その銀狐の言葉に、私は笑顔を向けた。
 普段は全く交流が無い者同士だが、こうしてコウスケ様の眷属として会えたのは何かの縁なのだろう。
「そうですね」
 短く返した私に、銀狐は小さく頷いてきた。

 銀狐はそれだけを言って、すぐにまた狐の姿に戻って狐たちがいる方へと駆けて行った。
 その途中で纏っていた布も消えていたが、何かの魔法でも使っているのだろうか。
 詳細は分からないが、わざわざ聞くタイミングもなかった。
 銀狐が去るのを見送った私は、有難い忠告に従って再び周囲に指示を出し始めた。
 やはり進化をしていないゴブリンたちは、強い敵が出てこないとどうしても気が緩んでしまうようだった。
 このままでは何か状況が急変した時にまずいと思いつつ、私は指示を出し続けた。

 結局、銀狐の忠告もむなしく、その日の戦闘は半日も経たずに終わってしまった。
 警戒していた何かの罠のようなものもなく、最後はコウスケ様が送って来たモンスターと共に周辺のモンスターを討伐して階層を制圧するだけだった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 仲間たちを普段いる階層に送るためドットやダエルに指示を出した後は、コウスケ様に呼ばれている管理層へと向かった。
 コウスケ様に求められて、私は今回の戦いの犠牲者の数を報告した。
 けれども、その数を聞いて、コウスケ様が顔をしかめたのを見て、私は思わずそれを口にしてしまった。
「犠牲に関しては、気になされないでください。彼らは、分かった上で戦に出たのです」
 その私の言葉に、コウスケ様は「ああ、そうだね」と小さく笑ってくださった。
 ただ、その笑顔は無理をしていらっしゃるという事も分かった。
 コウスケ様の周りにいる他の女性たちが、何とも言えない表情になっていたことからもそれが分かる。
 その時初めて、コウスケ様はことのほか眷属に対して犠牲が出るのを嫌っているという事を、本当の意味で理解した。
 私にしてみれば、ゴブリンたちの成長を促すいい機会だととらえて、多少の犠牲も当然だと考えていたのだが、コウスケ様にとっては違ったようでした。
 そのあとのコウスケ様は、特に犠牲者に関しては触れられず、次の戦いに関しての話をされていた。
 私は、次の機会をくださったコウスケ様に感謝をしつつ、今度は余計なことを考えず犠牲を少なくするという決意を胸に秘めた。

 普段いる階層に戻った私は、ドットとダエルからさらに詳しい報告を受けた。
 結果としては、当初の予定よりも犠牲は少なく、さらに喜ばしいことに、ゴブリンたちの進化も予想以上に多かったようである。
 ドットとダエルの二人は喜んでいたが、コウスケ様の顔を直接見た私としては、最早喜ばしいとも言えない気分になっている。
 そんな私の気分に気付いたのか、ドットとダエルの二人が探るような視線を向けて来た。
「・・・・・・進化したものが多数出たのは喜ばしいですが、それ以上に犠牲が多く出たことに、彼の方が悲しんでおられました」
 その私の言葉に、かなり驚いたのだろう、二人はしばらく言葉を失っていた。
「それは・・・・・・」
「犠牲が出たのが、ゴブリン共でも・・・・・・ですか」
 ようやく、といった感じで言葉を発した二人に私は頷き返した。
「ええ」
「それはまた。・・・・・・お優しいというべきか、甘い・・・・・・いえ。失言でした」
 私がギロリと睨むと、ドットはすぐさま頭を下げてきた。
 私たちにとっては、コウスケ様は多少大袈裟に言えば、絶対の存在だ。
 余程のことが無い限りは、その方針に逆らう事はしない。
 普段はともかく、あくまでも今回の戦いはコウスケ様の指示の下で行われている。
 当然コウスケ様が犠牲は出したくないといっているのだから、その方針に従うべきなのである。

「・・・・・・とにかく、次の指示が彼の方より出されています。今度こそは犠牲が出ないようにしなければなりません」
「次? 次があるのですか?」
 私の言葉に、ダエルが興味を示したような顔になる。
「ええ。次は二日後だそうです。今度こそ、彼の方のお望みどおりに、犠牲が少なくなるような戦い方を求めなければなりません」
 今日は、ゴブリンたちの進化を目指してより効果的な戦い方をしていた。
 次は、そんな事よりも、犠牲が少なくなるような戦い方を目指さなければならない。
「それは・・・・・・難儀しそうですな」
 ダエルの言葉に私も内心では同意していた。
 多少の犠牲が出ても、効率的に戦おうとするのはゴブリンのときから引き継いでいる本能のようなものだ。
 それを排して戦うというのは、骨が折れるだろう。
「・・・・・・かもしれません。ですが、あの方の指示でもあります。私たちはそれを乗り越えないといけません」
 そういった私の言葉に、ドットとダエルの二人が大きく頷くのであった。

 結局、次の戦いは、犠牲を減らすことには成功した。
 といってもやはり他の狐や狼に比べれば犠牲は多かった。
 その結果を知った私は、これからも精進することが必要だと更に気を引き締めることになる。
 そのお陰か、何日かあとになって、私は<使天鬼姫>という新しい種族に進化していることをコウスケ様からお教えいただくことになるのであった。
ソル話後編でした。
タイトルが「主に捧げる勝利」なのに、勝利の話はどこに行った、という感じですね><
それはとにかく、今回の経験を経て無事(?)ソルも新しく進化を果たしました。
次は・・・・・・あるかどうかはわかりません。
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