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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4部 塔のあれこれ(その11)

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(4)師と弟子

 アマミヤの塔にある唯一の神殿は第五層の街に存在しているものだけになる。
 その神殿は、普通で考えればこれほどの規模の街にある神殿としてはあり得ないほどの小ささなのだが、それに対して不満を言う者は誰もいない。
 この神殿の主神である現人神は、他の神々と違ってこの世界に普通に存在している。
 そもそも神殿がある塔の管理をしているのが、現人神そのものなのだからわざわざ大規模な神殿をたてて祭り上げる必要もないのだ。
 いざとなればいつでも姿を見せることが出来る、ということが人々の信仰にとっても他の神々とは違ったものとなっていた。
 ついでに言えば、現人神以外の神を信仰している者がほとんどだが、そうした神々に祈りを捧げる場合は、転移門を使ってミクセンの街に行けばいい。
 そうした事情が重なって、第五層の街にある神殿は、敢えて豪華絢爛さを求めていない作りになっている。
 更に付け加えると、その神殿自体が現人神になる前の考助が建てたのだから、誰もそれに対して文句を付けることが出来ないのである。

 普段の神殿は、神に祈りを捧げる者か、あるいは神殿の掃除をする者がいるくらいで、ゆったりとした空気が流れている空間になる。
 だが、この日の神殿は珍しくちょっとした賑わいを見せていた。
 何故かといえば、神殿のメインの広間となる祈りの間で、とある巫女が祈りの儀式を捧げているために人が集まっているのだ。
 現人神の場合、新しく生まれたばかりという理由もあって、主神にする巫女や神官がほとんどいない。
 そのため、第五層の神殿で儀式が行われることも稀なことなのだ。
 この神殿で儀式は数回行われているが、それは全てシルヴィアが行っていた。
 それを補佐しているのがリリカかリンだけだったことを考えれば、いかに巫女や神官が少ないかがわかるであろう。
 もっともそれは、考助自身にも責任が無いわけではない。
 自分を祀っている神殿で神官や巫女を受け入れることをしていないので、もともと巫女や神官が育つ土壌が無いのだ。
 そんな状態では、巫女や神官が増えるはずがないのである。
 積極的に、自分の信者を増やそうとしてこなかったつけともいえるであろう。
 今後も必要となるかどうかは微妙な所なのだが。

 そんな現人神の巫女・神官事情は置いておくとして、今、神殿で祈りの儀式を行っているのはシルヴィアの娘であるココロだ。
 名目上は、現人神に捧げる祈りの儀式、という事になっているが、今回のこの儀式はどちらかといえば、外向けに発信するためのものになる。
 今まではシルヴィアが担っていた役目を今後はココロがになっていくことになりますよ、と周囲に知らせるために行なっているのだ。
 もっともそんな裏事情は、この場で儀式を見学をしている者たちには全く関係のない話ではある。
 巫女や神官が行う儀式というのは、基本的には神職たちの内輪だけで行うものがほとんどだ。
 勿論、大々的に信仰者を集めるために行う外向けの物もあるが、それはあくまでも一般の信者の信仰心を高めたりするために行っているのである。

 神殿に集まっている見学者は、ココロが行っている儀式を感嘆のため息を吐きながら見ていた。
 普段見られない神への儀式を見ているためか、単にココロの所作が美しいためかは判別がつかない。
 もしどっちですか、と観客たちに問えば、どちらも、と答えが返ってくるだろう。
 ココロの儀式を傍で見ていたリリカは、そんな感想を持った。
「・・・・・・見事ですね」
「ええ。何とか間に合いましたね」
 リリカの言葉に、隣で同じように見ていたシルヴィアが、少しずれたことを言って来た。
 シルヴィアにしてみれば、この日の為にココロに教え込んできた手順通りに出来ているかどうか、気が気ではないのだ。
 周囲の視線など目に入っていないのだろう。
「そんなに心配されなくとも、ココロ様は大丈夫ですよ」
「・・・・・・心配? いえ、これはどちらかといえば、ココロが現人神様に粗相をしないか心配しているのです」
 そんなシルヴィアの言葉に、リリカはクスリと笑った。
「・・・・・・なんですか?」
「いいえ。なんでもありません」
 今行っている儀式は、現人神である考助に向けてのものになる。
 その考助が、ココロが儀式で粗相(失敗)をしたくらいで、怒ったりしないことはリリカにでも分かる。
 ましてや、そのリリカよりも遥かに近い位置にいるシルヴィアがそのことに気付いていないはずがない。
 考助への粗相の心配をしていると見せかけながら、ココロの心配をしているシルヴィアの複雑な心境が言葉として出ているのである。

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 今ココロが行っている儀式は、巫女が師匠の元から独り立ちする際に、神へ報告するためのものだ。
 その儀式を一人で行えることが確認できれば、晴れて独り立ちとなる。
 そのため、見守っているシルヴィアやリリカが注意したりすることもできない。
 ついでに、見学者の中には巫女や神官も混じっているが、儀式の意味は分かっているので、当たり前だが手助けするような者はいなかった。
 自分たちもまた、同じような儀式を経て独り立ちしているのだから、それも当然だった。
 そんなことは露知らず、一般の見学者は、ココロの所作を真剣に見守っている。
 儀式は一連の流れで、神にささげる舞いがあったり、祝詞を唱えたりするのだが、そのたびにため息を吐いている人もいる。

「この儀式が終われば、後は引継ぎですか」
「ええ。そのあとは任せましたよ」
 リリカの呟きに、シルヴィアがそう答えた。
 ココロが独り立ちした後は、シルヴィアが現場から引き揚げることになっていた。
 もとはフローリアの引退と一緒にシルヴィアも戻る予定だったのだが、ココロが十分に引継ぎできるほどに成長していなかったため、この儀式が終えるのを待っていたのだ。
「勿論です」
 力強く頷いたリリカを見て、シルヴィアは少しだけ目を見張った。
「あら? 随分と自信があるようですね」
「今日のココロ様の儀式を見れば、当然かと思います」
 リリカはココロの儀式から目を離さずにそう答えた。
「そうですか。・・・・・・貴方がそう言うということは、そうなのでしょうね」
 頷きながらそう言ったシルヴィアに、リリカは首を傾げた。
「逆に、シルヴィア様がそこまで弱気な方が驚きですが?」
 今目の前で行われているココロの儀式は、周囲の反応を見て分かる通り、とても新人の巫女が行っているとは思えないほどの出来だった。
 リリカにしてみれば、シルヴィアがそこまで弱気になっている方が驚く。
「・・・・・・そうなのかもしれません。やはり実の親というのは、冷静に見ることはできない、ということでしょうね」
 ココロの儀式を見守るシルヴィアの顔は、完全に母親のそれになっている。
 本来であれば、巫女として冷静に分析が出来なければ駄目なのだろうが、どうしても親としての目を抜かすことは出来ない。
「私もまだまだ修行不足、ということですね」
 そう締めくくったシルヴィアに、リリカが目を見張った。
「これ以上、シルヴィア様が巫女として成長されると、他の者たちの立場が無いような気がするのですが?」
「そう言ってもらえるのはありがたいのですが、私もまだまだですよ」
「はあ~。修行の道ははるか遠くという事ですね」
 シルヴィアの言葉に、リリカはため息を吐くようにそう呟くのであった。

 結局この日のココロの儀式は、つつがなく最後まで終えることが出来た。
 その様子は、一般の見学者の心に強く残り、シルヴィアの後継として十分だと印象付けることに成功していた。
 シルヴィアからココロへの代替わりについては、特に大々的に発表されるという事は無かったのだが、この日の儀式を境に既に人々に受け入れられていたため特に問題は起きなかったのであった。
誰が師で誰が弟子かはあえて書きません。
まあ、シルヴィアが弟子ではないことはわかるでしょうがw
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