挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4部 貴族

595/1149

(2)手紙

 ミアは、テーブルの上に山と積まれた手紙を見てため息を吐いた。
 そんな彼女の様子を見て、考助が首を傾げた。
「なんだい? そんな大きなため息を吐いて」
「こちらを見れば分かるかと思います」
 そう言って手紙の一部を考助へと差し出した。
 一応見ていいのか視線で確認した考助は、ミアが頷くのを見てから手紙に手を出した。
 二つ三つの手紙を見た考助は、ちょっとした微笑を浮かべた。
「これは、また。何とも情熱的な内容だね」
 そんな考助の顔を見て、ミアはプクッと頬を膨らませた。
 勿論、わざとだ。
「情熱的すぎです。全く・・・・・・ちょっと餌をあげたらこれですもの。もう少し考えて行動することは出来ないのかしら」
「まあ、彼らには彼らなりの理念があるんだろうね。こっちがそれにわざわざ付き合ってあげる必要はないけれど」
 そんなことを言いながら、考助は他の手紙にも目を通した。
 ミアの態度から全部同じ内容だと察してはいたが、やはり全ての手紙に似たようなことが書かれていた。

 トワとミアは、北の動きに対応するためにすぐに餌を放り投げることにした。
 その餌というのが、「トワとミアが仲たがいをした」という噂を流すことである。
 非常に仲がいい兄妹に見えていても、ちょっとしたきっかけで仲が悪くなるなんてことは、ごく普通に起こりえる。
 ついでに言うと、最近のミアは管理層に入り浸っていて、ほとんど城には顔を見せていなかった。
 噂が流れる前からその状態だったため、さらに信憑性が増したとも言える。
 勿論、そう見えるように噂にその話を混ぜ込んだというのもあるのだが。
 とにかく、その噂が流れて数日も経つと、ミアの元には面会を希望する手紙が集まって来たというわけだ。
 ほとんどの手紙は婉曲的に言ってきているのだが、中には直接的に言ってきているものもある。
 その内容というのが、「我々がバックアップしますので、次代の女王になりませんか」というものだった。
 噂を流す前からそうした類の誘いは来てはいたのだが、それが今回の件で一気に増えたというわけだ。
 中には以前から誘いをかけて来た者も混ざっている。
 ちょっと不仲の噂を流すだけでこれだけ釣れるのである。
 ミアがため息を吐くのも当然と言えるだろう。

 それらの手紙を見ていた考助が、ふと気になったことをミアに聞いた。
「こんな堂々と王家に逆らうような内容の手紙を送ってきて、処分されるとは思わないのかな?」
 その考助の言葉に、ミアは一度目を丸くしたが、すぐに納得したように頷いた。
 考助が元は普通の一般人だったことを思い出したのだ。
「この内容だけでは難しいでしょうね」
 そういったミアは、現状のラゼクアマミヤと合わせて説明を続けた。

 現在のラゼクアマミヤの王(女王)はあくまでもフローリアだ。
 そのフローリアに代わって次の女王となるように勧めてくる内容であれば、あるいは反逆罪として罪を問える可能性はある。
 だが、あくまでも手紙の内容は次代の女王としてのものなのだ。
 一応トワは王太子としてフローリアに承認を得てはいるが、言ってしまえばそれだけとも言える。
 ついでに言うと、ラゼクアマミヤには王家が指定した貴族はまだ一人もいないのである。
 セントラル大陸でラゼクアマミヤが直接支配しているのはアマミヤの塔と北の街くらいで、あとはそれぞれの町が自治区のような立場なのである。
 厳密に言えば違うのだが、概ねそうした理解が一番当てはまっている。
 そのため、それぞれの町で勝手に名乗っている実力者たちが、王家の人間に対して次代の王へとなるようにそそのかしたとしても罪に問えるかというと微妙な所なのだ。
 王家が任命した貴族が治めているのであれば、その任命権を使って貴族位をはく奪したりも出来るのだが、貴族がいないラゼクアマミヤではそうしたことも出来ない。
 だからと言って王家の力が弱いかといえば、そういうわけでもない。
 そもそも勝手に貴族を名乗っている者たちの立場は、他の国の貴族から比べればほとんど意味が無い物になってしまっている。
 他の国から見れば、それぞれの町の巨大な商権を握っている商人に近いような立場なのだ。
 ただし、これらの話は北の街以外の町の話だ。
 過去の経緯から王家の直轄地となっている北の街では、女王が任命した代官が治めている。
 もし代官を勝手に挿げ替えるような動きをすれば、これまた反逆罪となり得るのだが、これもまた違っている。
 結局のところ、ミアを次代の王としてそそのかした程度では、王家に対する反逆罪として問われるかどうかは微妙な線なのだ。
 勿論、女王としての強権を使ってフローリアが動けばなんとかなるのだが、その分反発も大きくなるのである。

 細々としたことをミアから説明を受けた考助は、ため息を吐いた。
「何というか、面倒だね」
 そういった考助に、ミアも同じようにため息を吐いた。
「本当にそうですよ。あ、いっそのこと父上が神託でも出しませんか?」
「お断り」
 ミアが本気で言ったわけではなく、冗談で言っているのが分かったので、考助もわざとらしく目を剥いて返した。
 その返事を予想していたのか、ミアはそれを見てくすくすと笑った。
「そうでしょうね」
 そもそもミアはもとより、フローリアも考助が表に出ることは考えていないだろう。
 むしろ考助が出ようとすれば、出来る限り止めようとするはずだ。
 それは、神の権威で一旦抑え込むことが出来ても後が続かないからだ。

 既に何度もフローリアとやり取りしていることを初めてミアと行なった考助は、その結果に内心で安堵していた。
 神が表に出るようにミアが望んでいるとは思っていなかったが、こうしてきちんとした形で会話をしたのが初めてだったのだ。
 ちなみに、トワとは既に何度かこのような話は冗談交じりに話をしている。
 ミア自身が女王を目指していないことは、既に考助も分かっているのでその必要が無かったとも言えるのだが。
「とにかく、わざわざそんな噂を流してまで釣ったんだから、これから色々と忙しくなりそうだね」
「そうですね。それが一番の憂鬱なのですが」
「トワに協力するって約束した以上は、しょうがないね」
 考助がそう言うと、ミアはしかめっ面になったうえで、テーブルに突っ伏した。
 そんなミアに対して、予想外の方向から言葉が掛けられた。
「普段、ミアを讃えている連中に、今の態度を見せたらどういう反応をするか、是非とも見てみたいな」
「母上!?」
 思わず上半身を起こしたミアは、声がした方を振り返った。
 そこには今までいなかったはずのフローリアが立っていたのである。

「母上、どうしてこちらに?」
「何、トワのおかげで折角時間が出来たからな。コウスケといちゃつきにきた。・・・・・・と、言うのは半分冗談で、たらした釣り糸の結果を見に来た」
 フローリアはそう言って、視線を手紙の山へと向けた。
「半分、ですか」
 ため息を吐きながらそういったミアだったが、手紙の山はしっかりとフローリアへと差し出した。
 考助には、どちらかといえば厄介な物を押し付けているように見えたのだが、気のせいではないだろう。
 手紙の一つ一つを取って名前を確認したフローリアは、人の悪い笑みを浮かべた。
「これはこれは、流石ミア。疑似餌としては凄まじい効果を発揮したな」
「褒められているようには聞こえませんが?」
 ジト目で母親を見つめたミアだったが、当の本人はどこ吹く風で受け流している。
「褒めてないからな。まあ、それはともかく、これでトワもやりやすくなるだろう」
「そうでないとわざわざ私が矢面に立った意味がありません。・・・・・・さっさと終わらせて階層の管理に戻りたいです」
「まあそう言うな。トワの為にも是非ともこの調子で頑張ってくれ」
 フローリアが笑いながらそういうのを見て、ミアは大きなため息を吐くのであった。
ミアという餌を付けた釣り針に、見事に引っかかったという話でした。
この手の話は、貴族が普通に存在する国でも成立するのでしょうね。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ