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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4部 リクの試験

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(1)約束

 リクは、目の前にいる二頭の虎を余裕をもって切って捨てた。
 虎の名前は、ヘイルタイガー。
 一応魔物に分類されているが、鋭い爪で襲い掛かってくるだけの攻撃しかしないため、初級クラスに指定されている。
 今のリクの実力であれば、二頭同時に襲い掛かってきても、問題なく対処することはできる。
 ヘイルタイガーの処理を終えて一息つこうとしたリクだったが、次の瞬間、仲間の声が飛んできた。
「リク! 右!!」
 その声が聞こえると同時に、リクは自分の右側にもう一頭(・・・・)のヘイルタイガーが迫っていることに気付いた。
 慌ててそちらの方を向いて、ヘイルタイガーの襲撃に備えた。
 ただ、そのヘイルタイガーは、リクが処理することなく、仲間の魔法によって難なく倒された。
 リクが所属しているパーティの実力では、初級クラスの魔物で手こずることはほとんどないのだ。

 仲間の魔法によってヘイルタイガーが倒れるのを確認したリクは、そこでようやく大きくため息を吐いた。
 そんなリクに向かって仲間の一人が近寄って来た。
「珍しいな。お前が気を散らすとは」
 先ほどのヘイルタイガーの事を言っているのだろう。
 リクも自覚があったので、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「ああ、すまないな。ちょっと油断したよ」
 リクはそんなことを言いながら、チラリとある方向へ視線を向ける。
 それに気付いた仲間が、苦笑しながら言った。
「いつまでも気にしていても仕方ないだろ? これも試験の内だと思って諦めろ」
「分かっているさ。・・・・・・わかっているんだがな」
 そんなことを言いながら、リクは複雑な表情を浮かべながら、自分たちのパーティとはまた別の集団へと視線を向け続けるのであった。

 リクが視線を向けている先には、六人と一頭のパーティが存在していた。
 そのパーティは、何かを採取しようとするわけでもなく、またモンスターを討伐しようとするのでもなく、ただリクたちのパーティの行動を見ていた。
 早い話が監視なのだ。
 といっても剣呑な目的があるわけではなく、単にリクのパーティのランクアップを確認するためについてきているのだ。
 ちなみに、リクたちのランクはEランクだ。
 今回はDランクにランクアップするための試験となるわけだが、その試験員としてついてきているパーティは普通ではありえないメンバーだった。
 そのメンバーの一人が、持ってきていたおやつ代わりの食べ物を口にしていた。
 ついでにとばかりに、同じ物を自分の脇にいた狼の前にひょいと差し出す。
 すると、その狼は嬉しそうにそれを食べ始めた。
 それを楽しそうに見ながら、先ほどのリクたちの戦闘の感想を口にした。
「うーん。途中まではよかったんだけどなあ。こっちに気を取られて集中を乱したのは減点だよなあ」
「いや、それに気づけるお前さんも大概だからな?」
 苦笑しながらそういったのは、クラウン冒険者部門長のガゼランだった。
 ついでにガゼランの前に感想を言ったのは、考助なのだ。
 二人は、リクたちのランクアップ試験の監督官として、彼らの狩りの様子を見ているのであった。

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 さて、なぜ考助たちが監督官なんて真似をしているのかというと、話は数日前に遡る。
 ちょうどくつろぎスペースで暇を持て余していた考助の元に、ガゼランが私用で訪ねて来たのだ。
 ガゼランの場合はシュミットと違って、公務で訪ねてくることはあっても私用で訪ねてくる事は珍しい。
 もっとも、シュミットの場合は、考助が作った魔道具を見るという趣味と実益が合わさっているとも言えるのだが。
 それはともかくとして、そんな珍しい状況に考助が戸惑いつつガゼランの元へと向かった。
「ガゼランさん、私用という事でしたが、何かありましたか?」
 そんな考助に対して、ガゼランは軽く右手を上げて答えた。
「いや、何。そんな大したことじゃないさ。最近はクラウンの業務も部下に任せられることが多くなったからな。俺も暇が出来るようになってな」
「それはよかったですね」
 考助は心からそう思って、ガゼランに笑顔を向けた。
 急拡大を続けているクラウンの冒険者部門を実質のトップとして支え続けて来たガゼランだが、その忙しさは並大抵のものではなかった。
 ここ数年でようやく余裕が出てきたために、後継者もしくは幹部候補を数名育てる余裕が出て来たのだ。
 彼らが順調に育っているために、最近のガゼランにも時間的余裕が出てくるようになっていたのである。

「ああ、ありがとうよ。それでな? 折角時間が空いたのだから、なまった感覚を鍛えなおそうと思ってな」
 ガゼランはそう言ってニヤリと笑った。
 考助にもガゼランの言いたいことは分かった。
 体力や筋力と言ったものは、例え室内に籠っていたとしても空いた時間を使って鍛えなおすことが出来る。
 だが、現場で養われる感覚といったものは、どうしても現場に出ないと磨くことが出来ないのだ。
 部門長の席に着いてからこれまでの間に、ガゼランはそうした感覚が落ちてきているのを実感していた。
 それを取り戻すために、討伐にでも出ようと考えたのだ。
「なるほど。それはいいですね」
 ガゼランの言いたいことがわかった考助は、そう言って頷いた。
 現場の空気感が重要だというのは、これまで多くの塔を攻略して来た考助にもよくわかっている。
「だろ? んでだな。折角だからこの際、以前にお前さんと約束したことを果たそうと思ってな」
 ガゼランからそう言われて、考助は思わず目を瞬いた。
 次いで、プッと小さく吹き出した。
「今更それを持ちだしますか。よく覚えてましたね」
「おおよ。忘れるもんかよ」
 ガゼランはそんなことを言いながら胸を張るのであった。

 ガゼランがいった約束というのは、クラウンが出来たばかりの頃、彼が考助に対してよく言っていたことだ。
 その内容というのが、暇が出来ればいつか考助と一緒にパーティを組んで討伐に行きたい、というものだった。
 最初の頃こそ、会うたびに言っていたのだが、忙しさにかまけて徐々にそれすら言わなくなっていった。
 考助からすれば、とっくに忘れているものだと考えていたのだが、ガゼランは忘れていたわけではなかったのだ。
 昔の事を思い出しながら、考助はすぐに頷いた。
「勿論約束していましたからね。いつでもお付き合いしますよ」
 現状では、考助よりもガゼランの方が忙しいのは明白なのだ。
 そのガゼランからのお誘いとあれば、考助が断る理由は無い。
 考助としても、今となっては伝説に片足を突っ込んでいるガゼランと一緒に、パーティを組んでみたいという思いはあるのだ。
 その考助の答えに、ガゼランも笑顔になった。
「そうか。それはよかった。メンバーは、昔の仲間に声をかけるとして・・・・・・そっちはどっちかはついてくるんだろう?」
 ガゼランから視線を向けられたコウヒとミツキは、当然だという顔になっている。
 考助を飛び越えて二人に確認するガゼランも当然だろうなと頷いた。

「パーティはどうにかなるとして、問題は何をするか、だな」
 ガゼランは腕を組んでウーンと唸っていた。
 そもそもそんな長い期間を取れるわけではないので、出来ることも限られてくる。
 無難な所では、依頼を受けてモンスターを狩りに行くというのがあるが、他に何かないかと考えているのだ。
 リクが転移門を使ってランクアップ試験の話を持って考助の所にやって来たのは、丁度その時だった。
 悩んでいたガゼランが、これ幸いとばかりその話に乗っかるのは、ある意味当然といえるのであった。
リクの気分としては、例えていうなら授業参観で親に見守られている、といった感じでしょうか?w
しかもその親は、大学教授みたいな立場にあります。
い、いやすぎる><
ご愁傷様です。
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