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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4部 それぞれの現状

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閑話 幻惑の宿

(15)でもよかったのですが、主人公及び主人公周辺の人物がメインの話ではないので、何となく閑話にしました。
 パーティ『蒼の空』は、現在アマミヤの塔のとある階層で困り切っていた。
 依頼の素材を入手するためにこの階層に来たのはいいのだが、仲間の一人が戦闘の最中にそれなりに大きい怪我をしてしまったのだ。
 戦闘そのものもその後の素材の採取は終わったのだが、仲間の応急手当などに意外に時間が取られてしまった。
 キャンプを張ろうにも、今いる場所は戦闘が起こった場所で、それなりに血も流れているのでその場に長いこと居続けることは出来ない。
 移動しようにも仲間の一人を背負う事になるので、余り長距離は移動できないのだ。
 セーフティエリアも今いる階層にはない。
 時間的にどこかでキャンプを張る必要があるのだが、場所を考えなくてはならないのだ。
 ところが、決断が迫られたリーダーが言葉を発しようとした瞬間、その場にそぐわない声が聞こえて来た。

「あれ~? おじちゃんたち、どうしたの?」

 カサリカサリと草を踏みしめる音を立てながら小さな女の子が現れたのである。
「なっ・・・・・・!?」
 彼らが今いる場所は、それなりに危険な地帯である。
 こんな小さな女の子がいるはずがない。
 仲間たちは当然のように警戒をしたが、女の子はそれに気づかなかったのか、あるいは単純に無視したのか、怪我をしている仲間へと視線を向けた。
「あ~。怪我しちゃったんだ」
 そういって二、三度コクコクと頷いた女の子は、さらに続けた。
「ねえ。おうちに来る?」
「・・・・・・は?」
 唐突過ぎるその言葉に、リーダーは思わず呆けてしまった。
 その隙をついたのか、それとも単に偶然なのか、女の子はリーダーに近寄って腕をぐいぐいと引っ張り出した。
 仲間たちも警戒していたはずなのだが、あっという間に近寄られている。
 ついでに、その無邪気さに、完全に警戒心がそがれてしまっていた。

 いこーよー、と言う女の子に引っ張られて、リーダーが動き出した。
 それにつられるように仲間たちも付いて行く。
 勿論、怪我をしている者は、仲間がおんぶをしている。
 やがて、パーティがいた場所からさほど進んでいない所で、女の子が立ち止った。
「・・・・・・ここか?」
「うん! そーだよー」
 女の子はそう言って頷いたが、周りにあるのは木と草原だけで、建物らしきものはなにも見つからなかった。
 やはり騙されたか、と内心でリーダーは考えていた。
 モンスターが人化するという話は、伝説の中ではあるが、現代は目撃されたという話は聞いたことがない。
 そのため、リーダーはモンスターではなく、夜盗や盗賊の存在を疑っていた。
 アマミヤの塔の階層で盗賊が出たという話は聞いたことがないが、絶対にいないとも言い切れない世界なのだ。
 他の仲間たちも同じようなことを考えている表情になっていた。

 そんな周囲の様子を全く気にした様子もなく、女の子はリーダーの腕を引っ張ったまま歩いていく。
 そして、ある地点に着くとリーダーもろとも姿を消してしまった。
「なっ・・・・・・!?」
 突然の事に、メンバーの一人が慌てたようにその場に近寄ろうとした。
「待て!」
 それを慌てて別の一人が止めた。
 迂闊に近づけば何があるかわからない。
 リーダーがどうなっているかは、すぐにでも知りたいが下手に動かないほうが良いだろうと判断したのだ。
 だが、そんな彼らの葛藤を見越してか、すぐに同じ場所から同じ女の子が現れた。
「来ないの~? 向こうで仲間の人も待っているよ~?」
 そう言って再びすぐに消えてしまう。
 その間、リーダーは姿を見せなかった。
「くそっ」
「お、おい!?」
 悪態をついた仲間の一人が女の子が消えた場所へと近づき、もう一人がそれを止めようとした。
「仕方ないだろ? リーダーの事も気になる」
 そもそも女の子がリーダーをどうこうできるのであれば、最初の時点で襲ったりしているだろう。
 そう信じることにした一人が、消えた地点へと近づく。
 そして、リーダーと同じようにその姿を消すのであった。

 それをみた残された者たちも決断を迫られた。
 先に行った二人は戻ってこない。
 戻ってこないのは何か理由あるのか、それすら分からないのだ。
 だからと言って、この場にずっといるわけにもいかない。
「・・・・・・行こう」
 一人がそう言うと、他の者たちも仕方ないという表情になった。
 こういう時の決断は、冒険者ならでは、というべきことなのかもしれない。
 結局、全員が揃って仲間が消えた地点へと歩を進めるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 飛ばされた(?)先には、きちんとリーダーと先に進んだ仲間がいた。
 先ほど通った道は、認められた者以外は一方通行で、戻ることが出来なかったのだ。
 女の子が一度だけ戻れたのは、許可を取ったからという事だった。
 そして彼らが飛んだ地点には、女の子が言っていた通り一軒の大き目な建物が立っていたのである。
 彼らが揃ったのを見た女の子は、こっちだよ~、といって建物の入口辺りに向かって走って行った。

 女の子をおって歩いていた一人がリーダーに話しかけた。
「なあ。こんなセーフティエリアがあるなんて、聞いたことがあるか?」
「・・・・・・いいや。無いな」
 そう言って首を振ったリーダーだったが、間違いなく目の前には建物がある。
 そして、女の子が向かっている入口らしきところには布のような物が下がっていた。
 見る者が見れば、それが「のれん」だという事が分かっただろうが、残念ながらこのパーティにはその知識を持った者はいなかった。
 信仰心が深い者であれば、その建物が神殿の一形態である「神社」に似たような造りになっていることがわかっただろう。
 戸惑う『蒼の空』のメンバーたちは、女の子に案内されるままに入口から建物の中へと入って行った。
 そして、そこで一人の美人と出会う事になった。

 その美人は、メンバーたちに一度頭を下げて言った。
「私どもの名もなき宿にようこそいらっしゃいました」
 その言葉に一同は驚きの表情になった。
 代表してリーダーが問いかける。
「宿、なのか?」
「ええ。そうですよ。最近出来たばかりなのでご存知ないのも無理はありません。それに、この子たちが気に入った者しか泊まれないですからね」
 この子たちというのは、女の子のことだろうというのは推測できたが、周囲を見回しても一人しか見当たらない。
 だが、リーダーがそう思った瞬間に、建物のそこかしこから十人ほどの子供たちがわらわらと出て来た。
 中には男の子も混じっている。
 全く気配を感じなかったため、仲間たちが驚いているが、リーダーも同じ気分だった。
 内心の驚愕を隠しつつ、リーダーは疑問に思ったことを聞いた。
「しかし、子供たちが気に入った者だけ泊めるとなると、余り儲けてはいなさそうだが?」
 その疑問に、女性はコロコロと笑って答えた。
「それはそうですよ。あくまでも趣味の範疇ですから」
 そういった女性の顔を見たリーダーは、過剰に警戒するのを止めた。
 女性の雰囲気がそうさせているのか、それとも未だに彼らにまとわりついている子供たちのせいなのかわからないが、どうにも警戒心がそがれるのだ。
 リーダーの様子を見た仲間たちも同じように警戒を下げている。
 勿論、完全になくしてしまうような真似はしない。
 それを見た女性は、気付いているのかいないのか、ニコリと笑って続けた。
「それで、お泊りになりますか? お仲間が怪我をしているようなので、そちらのほうが良いと思いますが?」
「・・・・・・ああ、そうさせてもらおう」
 リーダーは、一晩この宿に泊めてもらう事にした。
 どこかで一泊しなくてはならないのは決まっているのだ。
 それなら、屋根のある場所に泊まれる方がいいと考えたのであった。

 この後『蒼の空』は何事もなく普通に二泊してから街へと戻った。
 一泊から二泊に代わったのは、怪我をしている仲間の状態があまりよくなかったためだ。
 ついでに、宿で出される食事が素晴らしかったからというのもある。
 帰りは別の道を通って帰ることになるのだが、行きの時に通った所へ『蒼の空』が再び訪ねても女の子が現れることは無かった。
 『蒼の空』がした経験が噂の発端となり、その後同じような経験をするパーティがいくつか現れるようになった。
 宿に向かう事が出来る地点は、噂が流れるたびに変わっており、特定することはできなかった。
 やがて冒険者の間では、経営している者の気まぐれで泊まれる宿として知られるようになっていく。
 宿にたどりつくまで不可思議さと、宿の中に狐の像や飾りがあったために『幻惑の宿』と呼ばれるようになるのは、もう少しあとの事であった。
最近出てきていなかった狐さんたちが何をしているのか、でした。
宿泊場所経営パート2ですね。
出て来た女性は一体誰なんだろう。(棒)
皆様のご想像にお任せします。
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