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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4部 息子たち

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(2)父と息子二人

 管理層で三日ほど過ごしたトワとダニエラの二人は、笑顔で第五層へと戻った。
 その間、考助はほとんど顔を合せなかったのだが、他のメンバーに聞く限りでは楽しそうに過ごしていたとのことだった。
 勿論、管理層に籠っているだけではなく、考助の発案でコウヒかミツキを連れて他の階層に行ったりもしていた。
 その中には、ミアが管理している第十五層も含まれている。
 そんな感じで城に戻ったトワだったが、その日の夕方に再び管理層を訪ねて来た。

 くつろぎスペースでだらけていた考助がトワを見つけて、首を傾げた。
「あれ? どうしたの? 何かあった?」
 そう問いかけた考助に、トワは首を左右に振った。
「いえ。お礼を言いに来ました」
「お礼?」
 意味が分からずに首を傾げた考助に、トワがちょっとだけ笑った。
「父上、ダニエラに気を使ってずっと奥に籠っていらしたでしょう? そのお陰か、ずいぶんとのんびりと過ごせたようです」
 考助の前ではガチガチに緊張するダニエラだが、この三日間で他のメンバーとはある程度仲が良くなったようで、普段は見せない顔も久しぶりに見ることが出来たようだった。
 やはり、王太子の正妃候補となると、本心を隠して笑顔を見せないといけなくなるために、昔に見せていたような笑顔も最近ではなりを潜めていたのだ。
 その笑顔を見ることが出来た、と言ってトワが笑った。
 そのトワを見ながら考助は、さてどう答えたものか、としばし悩んだ。
 そして、すぐに答えを出した考助は、顎に手をやりながら殊更真面目な表情で言った。
「ふむ。・・・・・・で? わざわざ惚気を聞かせるために来たのかな?」
「の、惚気など・・・・・・!」
 反射的に言い返そうとしたトワだったが、ニヤニヤ笑っている考助を見てハタと止まった。
 考助が冗談でそういったことがわかったのもあるが、どう考えても先ほどまでの説明は惚気以外の何物でもない。
 そのことに気が付いたのだ。
「いえ。惚気てしまいましたね。申し訳ありません」
 真面目に言いなおしたトワに、考助は相変わらずクツクツと笑ったまま手を振った。
「いや、良いんだけれどね。トワがそんな顔になると分かっただけでも、僕としては十分だよ。・・・・・・ああ、いや、一つあったな」
「? なんですか?」
 ちょっとばかり憮然とした顔になって首を傾げたトワに、考助は笑顔をひっこめて答えた。
「何。たまには時間を作って二人でお酒でも飲まないか?」
 その思ってもみなかった考助の言葉に、トワは一瞬キョトンとした後、笑顔になって頷いた。
「そういう事でしたら喜んで」
 トワのその顔を見て、考助は言ってみて良かったと、感慨深げになるのであった。

 そんな感じで、考助とトワの二人の間で穏やかな空気が流れたのだが、それは突如破られた。
 転移門のある部屋の方から、考助を呼ぶ声が聞こえて来たのだ。
「父様、父様、父様~!」
 その声に、考助とトワが顔を見合わせてそちらの方を見ると、ルカが右手に一枚の紙を持って、くつろぎスペースへと駆けこんできた。
 それを見たトワが、眉を寄せてルカへと言った。
「ルカ。どんな時でも落ち着きを持ちなさいと、シルヴィアお母様から言われてなかったか?」
 考助の子供たちは、血の繋がりのない母親も「母」と呼ぶようになっている。
 特に両親が強制したわけではないのだが、自然とそうなっていたのだ。
 シルヴィアとフローリアの仲が悪いわけではないので、子供同士も相変わらず仲がいいのだ。
「うっ!? ご、ごめんなさい? あ、っと? ト、トワ兄様? どうしてここに?」
 トワがいるとは思っていないかったのか、近付いてきたルカが戸惑った表情でトワを見た。
 そんなルカに対して、トワが肩を竦めて答えた。
「私だって用事があればここに来るさ。それよりも、そんなに慌ててどうしたんだ?」
 そうトワに聞かれて、すぐにここに来た用件を思い出したのか、ルカは持っていた紙を考助へと差し出した。
 トワがいると意識しているおかげか、今度は慌てず騒がず落ち着いている。
「父様、これを見てどう思うか、率直に感想をください」
「ん? どれどれ?」
 考助はルカに差し出された紙を受け取り、そこに描かれているものをすぐに確認した。

 その紙には、考助からしてもここまでするかというほど緻密に魔法陣が描かれている。
 ここぞとばかりに色々な文様が描き込まれていて、逆にタダの模様にしか見えないようになっている。
 勿論、考助にはその文様がただの飾りではなく、意味があって書かれていることは理解できた。
「随分と詰め込んだみたいだけれど、これがどうかした?」
「それ、僕が作ったんです。どこか、間違いはないですか?」
 少しばかり頬を赤くして、多少興奮したようにルカがそういってきた。
「へー、ルカがねえ。なるほど」
 何気なくそう返した考助は、改めて紙に書かれている魔法陣を見なおした。
「うーん。そうだなあ・・・・・・」
 何とも言い難い表情でそういった考助に、ルカが途端に不安そうな表情になった。
「ど、どこか間違っていますか?」
「間違い・・・・・・うーん、間違いではないんだけれど、うーん。何と言ったものか」
 相変わらず魔法陣を見ながら首を傾げている考助をみて、興味を持ったのかトワが紙を覗き込んできた。

 考助から紙を受け取って魔法陣を見ていたトワは、ルカを見て言った。
「これ、学園の先生たちにも見せたのだろう? 何と言っていた?」
 トワがそう聞いた瞬間、ルカは顔を曇らせて肩を落とした。
「それが・・・・・・。危険すぎるから発動しないようにと」
「なるほどね」
 その納得できる理由に、トワが大きく頷いた。
 学園の教師の立場であれば、そう言って止めるのは当たり前の事だった。
 元々知られている魔法陣ではなく、完全に未知のものの場合、暴発してとんでもない被害を巻き起こすことがある。
 ルカが作ったという魔法陣は、今までにないもので、間違っているのかどうかも判断が出来ないのだ。
 トワが同じ立場でも止めただろう。
 だが、トワもそれ以上は何も言わない。
 この分野に関しては、まさしく「神」と言って良い存在がすぐ傍にいるのだ。

 自分の息子から神認定されていることなど露知らず、考助は相変わらずどうしたものかと悩んでいた。
 考助もまた、学園の教師たちがルカを止めた理由を察している。
 それと同時に、ルカが作った魔法陣は間違いなく正常に発動することも分かっているのだ。
 ただ、この魔法陣には大きな問題点がある。
 それをどうやって指摘すればいいのか、頭を悩ませているのだ。
 恐らく初めてルカが自らの発想で生み出した魔法陣なのだ。
 簡単に口だけで却下するような真似をしたくはない。

 ひとしきり悩んだ考助は、ルカにとある提案をすることにした。
「よし、わかった。この魔法陣が正しく発動するかどうか、ルカが試してみようか」
「・・・・・・え?」
 一瞬言われたことがわからずに首を傾げたルカだったが、時間が経つにつれて意味を理解してその顔が綻んで行った。
「い、良いんですか?」
「ああ、構わないよ」
 あっさりと許可を出した考助に、今度はトワが戸惑った表情になった。
「・・・・・・大丈夫ですか?」
「心配いらないよ。管理層には、そのための部屋もちゃんとあるからね」
 管理層には、考助が新しく作った魔道具や魔法陣を試すために、他の影響が出ないように厳重な結界で覆われた部屋がある。
 そこで試せば、例え失敗したとしても大きな被害は出ないようになっている。

 考助の提案を受けて、ルカはうきうきとした表情で考助が案内する部屋へと向かっていた。
 自分が作った魔法陣が試せるのが嬉しいのだ。
 そして、考助に礼を言ったらすぐに城に戻って業務に戻るつもりだったトワだったが、異母弟の作ったという魔法陣の結果を見るためまだしばらく管理層に残ることになるのであった。
ルカが着々とマッドサイエンティストの道に向かっているような気がする作者です><
い、いや。まだ大丈夫なはずです。きっと。
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