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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 ガゼンランの塔

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番外編(2)

この話は(41)の区切りの間におこった話です。
 ミネイル商会のバルナバスは、部下と共に<神狼の牙>の拠点を訪ねていた。
 数日前からセイチュンの街を流れている噂を確認するために面会を打診していたのだが、ようやくその返答がありこうして来たのだ。
 その噂とは、<神狼の牙>がクラウンに吸収されるというものだ。
 バルナバスは当然のようにクラウンの事は知っていた。
 ほんの十数年前に突然セントラル大陸に登場した組織だった。
 クラウンは、たった十数年で一気にセントラル大陸を牛耳り、更には他の大陸にも勢力の手を伸ばしている。
 一つの組織として見た場合、間違いなく世界のトップに躍り出るほどの規模になっていた。
 その勢いはとどまることを知らず、未だ拡大の一途をたどっている。
 当然そこまで巨大な組織になると、反発する組織も出てくる。
 むしろ、今までの権益を脅かす存在として、認識される場合も多い。
 過去、セイチュンに支店を出そうとして探ってきたこともあったが、その時は一蹴されていた。
 クラウンとしてはまっとうな方法で打診をしてきたのだが、残念ながらセイチュンはまっとうな方法では上手くいかない。
 その時はそれっきりで終わった。
 最近になってクラウンの噂を聞いたとき、バルナバスは驚くと同時に、やはりという思いも持った。
 <神狼の牙>は、最初から豊富な資金と人材があった。
 特に、塔の攻略スピードは目を見張るものがあった。
 セイチュンの人々は、コリーの活躍に多くの目が向いていたが、バルナバスはむしろパーティの動向に注目していた。
 この辺は、商人としての視点が混ざっているためだろう。
 高い階層を攻略できるパーティとなれば、それだけ重要な素材を仕入れることが出来る。
 勿論、注目していたのはコウたちの活躍だけではない。
 <神狼の牙>で活動しているそれぞれのパーティも、目を見張るほどの活躍を見せていた。
 バルナバスは、むしろそちらの方に注目していたといっても良い。
 何しろ<神狼の牙>は、それだけの人材が揃えられるだけの組織力を持っているという事なのだから。
 なんとかミネイル商会の陣営に引き込みたいと考えて色々と策を実行していたが、結局今日の今日まで上手くいかなかった。
 それだけではなく、ミネイル商会のライバルとなりうる他の商人ギルドの動きもきちんと把握していた。
 バルナバスにとっては、それらの商会も自分たちと同じような状況だということが、唯一の救いだったといっても良い。
 そんな事をしていたら、今回の噂である。
 バルナバスにとっては、どうしても真意を確認しないとならないのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 <神狼の牙>の拠点に着いたバルナバスは、受付にいた女性に部屋を案内されることとなった。
 以前は、エクという女性が受付にいたのだが、今は他の者が担当しているようだった。
 それだけではなく、建物内全体が以前来た時と違って、にぎやかになっていた。
 その雰囲気を感じたバルナバスは、やはり噂は本当の事なのかと気を引き締めた。
 バルナバスがここに来れば、当然そのことに気付くことは分かっていて呼んだのだ。
 何かあるだろうと考えるのは当然の事だった。

 そして、バルナバスの予感は、案内された部屋ですぐに露見した。
「なっ・・・・・・!?」
 部屋の中にいる人物を見て、バルナバスは思わずそう声を上げてしまった。
 商売をする上では感情を隠すことは必須のスキルだ。
 だが、そのバルナバスが思わず声にしてしまったのだ。
 そのバルナバスを見て、中にいた者たちもそれを嘲笑う事すらせずに、同情するような微妙な表情になっていた。
 中にいたのは、アネッサ商会やバルト商会の者たちだったのだ。
 この二つの商会は、セイチュンにおいてミネイル商会と激しく権益をやり合っている仲だ。
 思わず驚きの声を上げてしまった自分に内心で舌打ちをしつつ、バルナバスはすぐに取り繕った笑顔を見せた。
「これは失礼しました。まさか、貴方たちとここで同席することになるとは思ってもみませんでした」
 何とかそう返したバルナバスだったが、相手は意外な返しをしてきた。
「ふん。今更取り繕うな。吾らも似たような気分だ。なあ、バルトの」
「・・・・・・ここで下らん意地を張るよりも、<神狼の牙>が何を考えているのか、情報を共有したほうがよさそうだとは思うがな。どうにも既にしてやられている気がするが」
 不機嫌そうにそう言った両者に、バルナバスは警戒しつつもその意見には同意するのであった。

 しばらく三人で話をしていると、エクが一人の男性を伴って部屋に入って来た。
「遅くなって申し訳ありませんでした」
 エクはそう言ったが、約束した時間自体を過ぎているわけではない。
 バルナバスたちが来るのが早かったのだ。
 そのため、バルナバスも含め他の者たちもそのことに対して何かをいう事は無かった。
 それよりもエクと一緒に入って来た男性に視線が集まっていた。
 その男性もそのことに気付いたのか、笑顔になって挨拶をしてきた。
「この中で面識がないのが私だけのようですので、ご挨拶いたします。初めまして。クラウンの商人部門長をしております、シュミットと申します」
 それを聞いたバルナバスは、かろうじてうめき声を漏らすのを留めることができた。
 他の二人も同じような気持ちだっただろう。
 シュミットの挨拶一つで、先ほどまで話していた内容がほとんど吹き飛んでしまった。
 噂が本当かどうかを探りを入れるつもりだったのだが、その意味が無くなったのだ。

 そんなバルナバスたちに対して、エクがさらに追い打ちをかけて来た。
「シュミットが挨拶したので、私も改めて挨拶させていただきます。クラウン(・・・・)副統括のエクと申します」
 それを聞いたバルナバスは、ただ呆然としてしまった。
 そのことに数瞬遅れて気付いたバルナバスは、慌てて表情を引き締めたが、他の者も同じような表情になっていたのを見て内心でため息をはいていた。
 エクがクラウンの副統括という地位にいたことを知らなかったのは、自分だけではなかったと安心したのだ。
 もっとも、そんなことはエクとシュミットに対しては何の慰めにもならなかった。

 最初からやられっぱなしという事実に気付いたアネッサ商会の者が、ようやく切り出した。
「・・・・・・我々にそう名乗るという事は、街に流れている噂は本当だと考えていいのだな?」
 その問いかけに、シュミットがあっさりと頷いた。
「勿論です。そんなことよりも、本日は商売の話でお集まりいただきました」
 噂のことなどどうでもいいと言わんばかりのシュミットの態度に集まった者たちは眉を顰めたりしたが、商売の話を聞いて表情を引き締めた。
 バルナバスを含めてここに集まっている者たちは、商売に関しては素晴らしい手腕をもつ者たちばかりである。
 そんな者たちを集めて何を言い出すのかと、視線がシュミットに集まった。
 集まった視線をものともせず、シュミットは商売人らしい笑顔になってこう言った。
「本日は、皆様に損をさせない話を持って来たつもりです」
 そう言った時のシュミットの笑顔は、後から考えれば悪魔の微笑みだったと、のちにバルナバスが述懐するのであった。
一話で収まりませんでした。
もう一話続きます。
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