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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 ガゼンランの塔

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(40)前倒し

 十日程かけて塔の調査を行った考助たちは、一旦その結果を持って塔の入口へと戻ってきていた。
 そこで考助は、冒険者たちが妙に騒めいていることに気付いた。
 荒くれ者が多い冒険者は騒がしいのが基本なのだが、それとは違った騒々しさがあったのだ。
「何かあったのかな?」
 そう呟いた考助に、同じく荷台にいたミツキが首を傾げながら答えた。
「そうねえ。微妙に浮つているように感じるけれど・・・・・・理由は分からないわね」
 ミツキもいつもとの微妙な変化には気づいていたようだった。
 それでも流石に理由までは分からないようだった。
 ミツキ程の聴力があれば、周辺で雑談している者たちの声を拾う事も出来るだろうが、緊急性もなさそうなのでそこまではしていないし、するつもりもない。
 今御者台に座っているのはピーチとリリカだが、彼女らも冒険者たちの話までは聞こえていない。
 そのため、彼らが何故そのような状態になっているのか、考助たちには皆目見当がつかないのであった。

 そんな考助たちに答えを持って来てくれた者がいる。
 塔攻略ギルドの受付嬢である。
「あっ!? 今回の攻略は終わったのですか?」
 考助は荷台にいたので気づかなかったが、リリカとピーチがいたので気付いたようだ。
 ついでに言うと、魔改造した馬車が特徴的なので、それでも覚えられている。
 受付嬢は、御者台にいるピーチに話しかけていた。
「はい~。ある程度の目途がついたので、今回は一旦終わりです」
 そう答えたピーチだったが、受付嬢が何かを言いたげにこちらを見てくることに気付いた。
 その理由に何となく気づいたが、ピーチは気づかなかったふりをして周りの様子の事を聞くことにした。
「ところで、何か周りが騒がしいですけれど、何かあったんですか~?」
 その問いかけに、受付嬢が一瞬勢い込んで聞こうとして、一旦それを落ち着かせて多少声を押えて聞いてきた。
 どうやら受付嬢が聞きたかったこととその答えが一緒だったようだ。
「あ、あの・・・・・・。<神狼の牙>が、あのクラウンの傘下に入ったという噂でもちきりなんですけれど、本当なんですか?」
 それを聞いたピーチは、初めて聞いたという様子で小さく小首を傾げて、首を左右に振った。
「いえ~。私は知りませんでしたね」
 いずれ<神狼の牙>がクラウンに変わることは知っていたが、こんなに早く発表するとは思っていなかったので知らなかったというのも完全な嘘ではない。
 ピーチのその答えに、受付嬢は残念そうな表情になった。
「そうですか。嘘かホントかだけでも知りたかったんですが・・・・・・」
「どなたかに聞いてくるようにでも言われているのですか~?」
 何気なく聞いて来たピーチに、受付嬢はハッとした表情になり誤魔化すように笑顔になった。
「あ、いえいえ。ここ数日冒険者たちの間でその噂が持ちきりになっているので、気になったからですよ」
「そうでしたか~」
 受付嬢の変化には気づいていなかったふりをして、ピーチも笑顔になって頷いた。
 このやり取りに関して、必要な情報を手に入れるという意味においては、ピーチの方が一枚上手だったようである。

 考助は荷台でその二人のやり取りを聞いていた。
「噂で、ね」
 当初の予定ではギルドから正式に発表する手はずだった。
 冒険者たちに噂を流すという予定は無かった。
「何かあったのかしらね?」
「さてね。その辺は拠点に戻らないと分からないな。ああ、二人共途中で何か聞かれても、さっきのピーチみたいな返答でよろしく」
 前にいる二人に考助がそう言うと、ピーチもリリカも頷いた。
 考助と同じ荷台にいるミツキも同じだ。
「さてさて。一体何があったのかな?」
 この時点で考助は、噂を流したのがエクたちであることは疑っていない。
 もし他から洩れるようなことがあれば、とうに洩れているはずである。
 シュミットが出張ってきてからというタイミングを考えると、明らかにこちら側から出した噂と考える方が自然である。
 そして、考助のこの考えが間違っていなかったことは、ギルドに戻って判明するのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 <神狼の牙>の拠点へと戻った考助たちをコウヒが出迎えてくれた。
「なんか噂が流れているみたいだけれど、何かあったの?」
 そう問われたコウヒは、小さく首を傾げて答えた。
「私よりも、エクから直接聞いた方がよろしいかと思います」
「成程ね。それもそうか。あっと、そうだ!」
 突然思い出したような表情になった考助に、コウヒは再度首を傾げる。
「?」
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
 その考助の言葉に、コウヒは満面の笑顔を向けるのであった。

 馬車を所定の位置に戻して拠点に入った考助は、クラウンに移行するための作業が行われている事にすぐに気付いた。
 建物で働いている者たちの数が、今までとは段違いだったのだ。
 これまで見なかったような者たちの姿まであった。
 彼らは転移門を使ってクラウン本部から移動して来たのだろう。
 そんな様子を横目で見ながら考助は、拠点のとある一室に案内された。
 その部屋は、のちのちセイチュン支部の支部長が使う事になっている部屋だ。
 部屋のドアをノックしてから入ると、そこにはエクとシュミットともう一人がいた。
「よう! コウスケ! 元気そうだな!」
 その部屋にはしっかりと防諜の仕掛けがされていることを理解した上で、考助の本名を呼んだその人物は、クラウン冒険者部門長のガゼランだった。
「久しぶり。ガゼランがいるってことは、相当早く前倒しになるってことかな?」
 シュミット以外にも重要な部門になる冒険者の部門長がいたことで、考助はそう予想した。
 その予想に違わず、シュミットたちが頷いている。
「はい。ちょっと数日前に状況が変わりました。報告もなしだったことは・・・・・・」
 お詫びしますと頭を下げようとしたシュミットに、考助は手を振った。
「謝る必要はないよ。シュミットが必要だと思ったからやったんだろう? それに、こうなったら今の立場は君たちの方が上だろう?」
 悪戯っぽく笑った考助に対して、シュミットとガゼランは苦笑いを返して来た。
 考助がセイチュンにいる間は、あくまでも冒険者「コウ」としての立場ということになる。
 となれば、当然一冒険者の「コウ」よりもクラウンのそれぞれの部門をまとめている二人が上の立場になるのは当然のことだった。
 もっとも、クラウンにおける考助の立場は、そんな建前など吹き飛ばしてしまっている。

「そんなことよりも、何があったの?」
 考助のその言葉に、ガゼランとシュミットが顔を見合わせて、すぐにシュミットが状況を説明しだした。
 考助が塔に出向く前からセイチュンにいたシュミットが話す方が分かりやすいためだ。
 勿論、全てを分かっているエクが話してもいいのだが、既にクラウンとして動き出している以上、部門長であるシュミットが話すのが筋なのだ。
 そんな細かい事情はさておき、事情と理由を聞いた考助が頷いてから言った。
「なるほどね。確かにそれなら前倒しは必要だね」
「はい。もうこちらでの準備もほとんど整ってきています。あと二、三日もあれば支部として機能できます」
「流石に仕事が早いな」
 本気で感心した考助だったが、その視線をミツキへと向けた。
 その視線の意味を理解したミツキは、アイテムボックスから今回の戦利品の一部を取り出した。
「そんな仕事が早い二人に、お土産」
 ミツキが出した樽を見て、シュミットもガゼランもそれが何であるかはすぐに察したようだった。
「数は少ないけど、新しい採取場所も見つけて来たよ」
「ほう。なるほど。その話はしっかりと聞かせてもらおうか」
 考助のその言葉に、ガゼランが真剣な表情になった。
 セイチュン支部の重要な収入源になりそうな素材の情報だ。
 その辺りの嗅覚は、元冒険者であるガゼランも当然のように優れているのであった。
40話行ってしまいました><
ですが、一か月以上にわたって続いたこの章もようやく終わりが見えてきました。
もうしばらくだけガゼンランの塔編におつきあいください。
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