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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 ガゼンランの塔

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(38)調査結果

 コウヒの勝利で終わったハルトヴィン戦から二日後。
 セイチュンの街は、新しい強者の誕生の噂でもちきりになっていた。
 十年間トップで居続けたハルトヴィンが、実はアイテム強化の恩恵を受けていたという話も出回っていたが、批判というほどのものではなかった。
 ハルトヴィンが武器も使わずに、己の身ひとつで勝ち続けていたということで人気を得ていた所もあるので、それに関して文句をいう話もあったが、それはごくわずかだ。
 コウヒが闘いの最中に話したことが、影響していることは明らかだろう。
 たとえそのことで何かを言ったとして、だったらお前がやってみろ、で話が終わってしまうということもある。
 それに、コウヒが実際に戦いの場でやったように、種がわかっていれば対処の方法はいくらでもある。
 ハルトヴィンがこの先、今までのように連勝を続けることが出来るかは、あくまでも本人の力次第だろう。

 このように、セイチュンの街がその話でもちきりになる中、もう一つの話が出回ることになる。
 その話というのが、<神狼の牙>のパーティがガゼンランの塔の第六十層を突破したというものだった。
 以前から<神狼の牙>のパーティが次々に階層突破しているという話は出ていたが、話を聞いた者の反応はまさか、というものだった。
 というのも、<神狼の牙>のパーティが階層突破をしているのは、コウヒの力があったためだと考えられていたからだ。
 だが、今回のこの噂で、コウヒなしで突破したという事実も出て来た。
 そのため、今まで以上に<神狼の牙>が各方面から注目されることになるのであった。

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 セイチュンの街が<神狼の牙>の噂でもちきりになる中、考助はとある報告を受けていた。
 その報告はサキュバスからのものではなく、クラウンからのものだった。
 しかも報告をしに来たのが、シュミット直々にだったため、逆に考助が驚いたほどだ。
「シュミット? わざわざどうしたの!?」
 てっきり他の者が来ると思っていた考助は、そうシュミットに問いかけた。
 考助のその声を聞いた他のメンバー達も驚いている。
 シュミットの姿を直接見たことが無くても、流石にその名前くらいは知っているのだ。
 そのシュミットは、考助の姿を見て一度小さく頷いた。
「コウ殿、ご無沙汰しております。色々とお話がありますので、お時間よろしいですか?」
「あ、ああ、はい。勿論いいですよ」
 穏やかな表情でいってきたシュミットだったが、考助も彼とは長い付き合いになる。
 その表情の裏に隠されている視線に気づいて、すぐにOKを出した。

 きちんと防諜の整った部屋に入ったシュミットが、早速用件を切り出して来た。。
「突然すみませんね、考助様」
「いや、それは良いだけれど、何かあった?」
 唐突すぎるシュミットの訪問に、考助も本気で驚いている。
 こうなることはある程度予想していたのか、シュミットは一つ頷いてから話し出した。
「少しばかり状況が変わりましてね。ああ、勿論、クラウンにとってはいい方向にですよ?」
 シュミットの言っていることがわからずに、考助は首を傾げた。
「どういう事?」
 その考助の様子を見たシュミットはわずかに笑った。
「本当にご自分がやった事に関しては、気付かないのですね。先日、考助様がクラウンにアイテムの調査依頼を出されたでしょう?」
 シュミットがそう言ってようやく、考助は<アエリスの水>と<ラスピカの水>についてクラウンに調査依頼を出したことを思い出した。
 考助がシュミットに言われるまで思い出せなかったのは、調査の依頼を出してからさほど時間が経っていなかったからだ。
 ここまでシュミットが直接乗り出してくるほどの調査結果がこんなに早く出てくるとは思っていなかったのだ。
「ああ、出したけど、そんなに早く分析結果が出たの?」
 そう問いかけた考助に対して、シュミットは首を左右に振った。
「いえ。成分分析などはまだこれからですよ。私が来たのは、あの二つの水についての情報を得たからです」
「情報?」
 シュミットがわざわざ来るほどの情報がどんなものか思い当たらずに、考助は再び首を傾げた。
「簡潔に言えば、考助様が出された二つの水の内、<アエリスの水>は王侯貴族に愛される美容製品の材料に、もう一つの<ラスピカの水>は薬剤師たちの間では伝説の素材として伝わっているようです」
 シュミットのその説明に、考助は思わずキョトンとした表情になった。
 まさか、あの水が伝説扱いされている品物だとは考えてもいなかったのだ。

「いや、王侯貴族もそうだけど、伝説って・・・・・・。あれ、クラウンにいるそれなりの冒険者であれば、何とかとってこれる所にあったけど?」
 考助にしてみれば、勿論それなりに価値のあるものだろうとは思っていたのだが、まさか伝説呼ばわりされるようなものだとは思っていなかったのだ。
 シュミットにも言った通り、クラウンでは上級に差し掛かった冒険者であれば取ってこれるような位置にあったのだから。
「その辺はきちんと調査しないと分かりませんが、恐らくここの冒険者たちはこの塔にあるとは気づいていないのでしょうね。よく通る街道の傍に価値のある薬草が突然見つかるなんてことはよくありますから」
「いや、まあ、それはそうなんだけど・・・・・・」
 釈然としない様子で、考助は首をひねっている。
 どこからともなく種子が風に飛ばされて街道の傍に薬草が生えることはあるかも知れないが、あの二つの水は泉という固定された場所にある。
 その泉の場所が分からなくなるなんてことがあるというのが信じられなかったのだ。
 この時点で考助は思い至っていないのだが、あるギルドでその泉に関する情報を独占していて、そのままギルドが無くなってしまうなんてことはセイチュンの歴史ではよくあることだ。
 それと同じような状況で<ラスピカの水>に関しても情報が歴史から消えてしまったのだが、そのことを考助が知ることになるのはもう少し後のことだ。

 しばらくそうしていた考助だったが、気持ちを切り替えてシュミットを見た。
 <ラスピカの水>が冒険者から忘れられた存在になっている理由はともかくとして、その話を聞けば、なぜシュミットがわざわざここに顔を出して来たのかは見当が付く。
「その二つの水を武器に、いよいよクラウン支部の設立を発表するんだね?」
 その考助の言葉に、シュミットは大きく頷いた。
「ええ。他のギルドを黙らせるには、十分すぎるほどの効果がありますからね。それに、コリー殿も随分と活躍してくださったようですから」
 シュミットがそう言って笑いながら、コウヒの方を見た。
 勿論、コリーと呼んでいるのはわざとだ。
「なるほどね。まあ、タイミングとしては丁度いいのかな? すぐに発表?」
「いえ。今の噂が落ち着いてからでという事になっています。私は先ぶれですね。ガゼランが来たがっていて大変でしたよ。私はたまたま空いてたから来れましたが」
 そんなことを言ったシュミットだが、部門長をやっている彼が予定が入っていないはずがない。
 ガゼランが来れなかったのは、どうしても外せない用事があったからで、シュミットの場合は抜けても問題ないくらいの用事しかなかったためだ。
 さらに言えば、書類整理などはここでもできるので、しっかりと持たされている。
 クラウンの事が公表されれば転移門を設置できるので、距離の問題は全くなくなる。
 もっとも、シュミットがこの場にいるのは転移門を使っているおかげなので、<神狼の牙>内部では転移門の利用は普通に行われていたりする。

 シュミットの話を聞いた考助は、クスリと小さく笑った。
 残念がるガゼランを想像したのだ。
「そうなると、そろそろ僕はギルドに関してはお役御免かな? 塔の調査はこの後も続けるけれど」
「それは考助様にお任せします。クラウンに関しては、全てこちらにお任せいただいて大丈夫です」
 シュミットがこの場にいるという事は、すでにクラウン内でどういうタイミングでどのように発表するかというのは検討されているのだ。
 そうなってしまうと、考助の出番もほとんどなくなる。
 あとは考助が言った通り、塔の調査に精を出せるというわけになるのであった。
お久しぶりのシュミットの登場です。
ようやく最終目標であるクラウン支部の設置前段階まで来ることが出来ました。
あとは、ごり押しで支部の設置を公表します。
それを尻目に考助たちは、ゆっくりと塔の調査をするという事になりました。
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