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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 ガゼンランの塔

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(37)アクセサリー

 観客席からの歓声や雑音が遮られた会場で、コウヒとハルトヴィンが向き合っていた。
 ハルトヴィンは、二メートルを超える身長と恵まれた体格を生かした戦法で戦うパワーファイターだ。
 タイプ的にはコウヒが一番最初に闘ったオスモと同じだが、格が全く違う相手になる。
 闘技場ランクで十年以上もトップに君臨し続けているのだ。
 魔法での攻撃も一筋縄ではいくはずもない。
 それがハルトヴィンに対する闘技者及び専門家たちの評価だった。

 戦闘が開始されてからすぐに、コウヒはこれまでと違いハルトヴィンに向かって魔法を次々と放っていた。
 最初は何かを試しているのかと考えていたハルトヴィンは、攻撃がやんだ合間を見計らってコウヒに話しかけて来た。
「どうした? 私に魔法は効かんよ? いい加減分かっただろう?」
 挑発なのか単に忠告なのかは分からないが、ハルトヴィンは戦闘開始前からの余裕の態度は崩していなかった。
 事実、コウヒのように相手の魔法を撃ち落としたりしているわけでもないのに、ハルトヴィンは全くダメージを受けている様子が見えなかった。
 そんなハルトヴィンに対して、魔法を撃つのを止めたコウヒが言った。
「どうでもいいですが、余り不用意な発言はしない方が良いですよ?」
 いきなりそんなことを言って来たコウヒに、ハルトヴィンは眉を顰めた。
「何?」
「どうやら前回の私が話をしたのが不正だと騒がれているようなので、今回は私たちの声は観客にも聞こえるようにしてあります」
「ほう?」
 戦闘に関しては特に対策を取っていなかったコウヒだが、これに関してだけはしっかりと細工をしておいた。
 ただし、細工と言っても普通に魔法で二人の声が観客席にも通るようにしただけだ。
 観客たちの様子から本当に会話が聞こえていることが分かったハルトヴィンは、感心したような表情になった。
「なるほど。確かにそのようだな。いつの間にそんなことをしたのかは気になるが、結果に余計な介入が入る余地を作るよりもましだ」
 会話を聞かれること自体は特に気にしていないといった感じで、ハルトヴィンがそう言ってきた。
 コウヒもこのことでハルトヴィンを動揺させようと考えていたわけではない。
 ただ単に、忠告しておきたかっただけだ。
「そうですか」
 そう言って動かなくなったコウヒに、ハルトヴィンは挑発するように言った。
「どうした? 来ないのか?」
 コウヒはその挑発には乗らずに、無言で剣を構えた。
 今度は剣で攻撃するという意思表示だ。

 剣での攻撃に切り替えて、コウヒは既に何度かハルトヴィンに攻撃を当てていた。
 だが、ハルトヴィンは傷つきもしないどころか、全くダメージを受けた様子もなく笑いながら立っていた。
「ハッハッハ。そんな攻撃では、私には通じないぞ!」
 余裕の様子で笑っているハルトヴィンだったが、まさしくこれが彼の闘いの真骨頂だ。
 魔法だろうと剣だろうとあらゆる攻撃を耐え抜いて、鍛えに鍛えた自分の攻撃を相手に当てる。
 ただただそれだけの戦闘スタイルで、ハルトヴィンはこの十年間勝ち続けて来た。
 まさしくそれこそが、カルメンに「化け物」と言わしめる真実なのだ。 

 そして、コウヒが繰り出す攻撃を余裕の表情で受けながら、ハルトヴィンは時折攻撃を繰り出していた。
 ハルトヴィンの攻撃は、何かの武器を使うというわけではなく、ただ単に相手に素手で殴りかかるだけだ。
 そんな単純かつ隙だらけの攻撃がコウヒに当たるわけもなく、お互いにダメージを与えることなく膠着状態が続いている。
 そんな状態をしばらく続けたコウヒは、唐突に剣での攻撃を止めた。
「なるほど。そういうことですか」
 突然そんなことを呟いたコウヒに、ハルトヴィンが訝しげな表情を向けた。
 そんなハルトヴィンを無視して、コウヒは自分が持っていた剣をアイテムボックスへと仕舞った。
「・・・・・・なんだと?」
 コウヒのその行動の意味が分からずに、ハルトヴィンが首を傾げた瞬間、コウヒの姿が彼の目の前から消えた。
 余りに唐突なその動きに、ハルトヴィンでさえその動きを捉えきることができなかった。
 そして、そのすぐ後に再び彼の目の前に姿を現したコウヒの右手には、一つのアクセサリーが握られていた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「き、貴様・・・・・・!!」
 これまで一度も余裕の態度を崩さなかったハルトヴィンが、それを見て一気に表情を歪ませた。
「まさか、ばれないとでも思っていたのですか? それとも、この十年で油断をしてましたか?」
 表情を変えないままそう言うコウヒに、ハルトヴィンは完全に表情を消した。
 今までいかに彼がランキング一位というキャラクターを演じていたのかというのがわかる変化だ。
 コウヒが手に持っているアクセサリーは、ありとあらゆる攻撃を無効化するという反則級の強さを持ったアクセサリーだった。
 その力は、魔道具というよりも神具といった方がいい程だ。
 ハルトヴィンは、いままでそのアイテムを使って相手の攻撃を防ぎ、攻撃だけに特化した戦闘を繰り返していたのである。

 二人の戦闘を見ていた観客もまさかの事態に静まり返っていた。
 この十年、神のような強さと讃えられてきた男が、まさかアイテムを使ってのものだとは考えていなかったのだ。
 それを知った観客たちは、しばらくしたのちに今度はハルトヴィンに対してブーイングを飛ばして来た。
 今までのかけて来た期待の反動もあるのだろう。そのブーイングは凄まじいものであった。
 コウヒがそのアクセサリーを手に持っているのを見た時点でこうなることを察していたのか、ハルトヴィンの表情には変化は無かった。
 ただし、じっと何かを考えるかのようにコウヒを見ていた。
 コウヒから何かアクションがあることを待っているのだ。

 そんなコウヒは、ハルトヴィンにとっても観客にとっても予想外の事を言った。
「なにか勘違いされているようですが、私は別に非難したくてこれを奪ったわけではないですよ?」
「なに?」
 コウヒの言葉にようやく反応したハルトヴィンは、訝しげな声でそう聞いてきた。
「周りで見ている皆さんも勘違いしているようですが、そもそも闘技場のルールは武器の類は自前で用意するのが原則でしょう? アクセサリーも当然それに含まれると思うのですが?」
 コウヒがそう言った通り、闘技場に持ち込める物に制限はない。
 魔剣の類からそれこそコウヒが今手にしているアクセサリーといった物までだ。
 ここでハルトヴィンを責めるのは、コウヒにとってはどう考えてもお門違いだった。
 では、なぜコウヒがわざわざハルトヴィンが装備しているアクセサリーを奪ったのかというと、
「私は単に、どんなものを付けているのか知りたかっただけです。確認が終われば最初から返す予定でした」
 その言葉通りに、コウヒは手に持っていたアクセサリーをハルトヴィンに投げ返した。
 コウヒがなぜそのアクセサリーに興味を持ったのか、理由は言うまでもなく考助の為だった。
 手に取ってみれば、大体の作りは理解できる。それさえ考助に伝えられれば、コウヒとしては大満足なのである。

 その言葉と行動に、騒がしかった観客たちが静まり返っていた。
「どういうつもりだ?」
 そう問いかけて来たハルトヴィンに、コウヒは相変わらずの無表情のまま答える。
「どうもこうもありません。これから貴方が目指した先の世界をお見せします。今まで通り、アクセサリーは起動して構わないですよ?」
「・・・・・・いいだろう」
 コウヒの言葉に頷いたハルトヴィンは、堂々と観客たちの前でそのアクセサリーを起動した。
 とはいっても、何か目視できるような変化があるわけではない。
 だが、それを見ていたコウヒは、確かにハルトヴィンの周りに先程と同じような防御が張られるのを感じ取った。

 相変わらず剣はアイテムボックスにしまったままのコウヒは、無造作にハルトヴィンに近づいて行った。
「本当は、こう言った技は私ではなくあの人の方が得意なんですが」
 そんな事を言った次の瞬間には、コウヒは再びハルトヴィンの前から姿を消した。
 アクセサリーを奪った時に見せた超速の移動だ。
 いくら超速と言っても同じ様な動きを見せれば、実力者であるハルトヴィンにはその姿は何とかとらえることが出来た。
 それでも何とか、というレベルだ。
 その姿を捕らえた時には、コウヒが自身の腹に腕を振りぬいていた。
「ぐっ・・・・・・!? ば、ばかな・・・・・・!?」
 届くはずのないダメージが自分に届くのを感じたハルトヴィンは、驚愕で目を見開きそのまま崩れ落ちた。
 そして、その瞬間にコウヒの勝利が確定するのであった。
アイテムチートでした。
ただし、ハルトヴィンはアイテムなしでもトップに立てるくらいの実力はあります。
最後のコウヒの攻撃をきちんと目で追えていたのがその証拠です。
そして、考助のためにわざわざ手に取ってアイテムを確認するコウヒは相変わらずです。

コウヒがまとめて活躍する話は、今回で終わりになるかと思います。
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