挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 ガゼンランの塔

550/1197

(32)不正(言い掛かり)

 その一瞬の出来事に、会場は静まり返っていた。
 戦闘中に二人で何やら会話をしていたかと思ったら、突然の決着だ。
 観客の大半は、何が起こったかわからずに戸惑っているのだ。
 その観客に何が起こったか理解させる役目のホスエは、少しの間呆然と会場を見ていた。
 やがて、ハッと気づいたのか観客へのアナウンスを再開した。
『な、なんという。何という幕切れでしょうか! 最後のジアーナの攻撃は、これまで以上の攻撃でしたがそれを全て防いでからのコリーの攻撃! だがその攻撃は最初のものよりも遥かに早く、力強かった!
 最初と同じように防御をしたジアーナだったが、コリーがそれを破っての快勝でした!』
 ホスエのその解説に、ようやく会場が再び湧き始めた。
 コウヒにかけていた者たちの歓声と、ジアーナにかけていた者たちのうめき声だった。
『しかし皆さん、勘違いしてほしくはないですが、間違いなくジアーナは強かった! 以前ここで戦った時よりも。それはこの私が断言いたします! だが、コリーはそれ以上に強かった! 以上です!』
 ホスエは最後にそう言ってから、アナウンスのスイッチを切った。
 既に闘技者の二人は会場からいなくなっていた。

 観客席からはホスエに対して拍手が沸き起こっていたが、当の本人はそれを聞いている余裕は無かった。
「全く・・・・・・。ありえんだろう、あれは」
 ホスエは最後のコウヒの攻撃を思い浮かべてそう呟いた。
 最後にアナウンスで言ったように、ジアーナの攻撃は今までの中で一番速く強い物だった。
 それをしのぎ切ったコリーが、そのジアーナに対して何かを話していたかと思ったら、あっという間の決着がついていた。
 正直に言えば、コリーの最後の攻撃はホスエには完全には見えていなかった。
 横から見ていた状況と結果で判断しただけなのだ。
 ついでにいえば、何かを話したコリーとジアーナが不正をしたとも考えていない。
 最後のコリーに攻撃は、不正などしなくとも十分すぎるほどのインパクトがあったのだ。
「できれば、あの二人の会話を聞いてみたかったが・・・・・・それは言ってもしょうがないな」
 あの時の会話で何かがあったとは分かったが、残念ながら二人の声までは拾う事が出来ない。
 あの場での会話の内容は、少なくとも今の時点では二人だけにしか分からないだろう。
「・・・・・・にしても、コリーか。一体どうすれば、あんな戦闘能力がつくんだ。是非とも教えてほしいもんだね」
 最後にそう言ったホスエの言葉は、誰にも聞かれることは無かった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「あらあら」
 コウヒが勝つところを見ていたミツキが、若干驚いたようにわずかに目を開いていた。
「ちょっとだけ枷を外していたよね? あれ。外さないと勝てなかった?」
 その隣で同じように見ていた考助が、ミツキに聞いた。
「うーん。微妙な所よねえ。外さなかった場合は、五分五分といったところかしら」
「へえー。結構ギリギリだったんだ」
 考助が感心したように、頷いた。
 いくらコウヒの状態が枷をかけているとはいえ、それに肉薄出来るものがいるとは思っていなかったのだ。
「そうねえ。これは私の認識も変えないといけないわね」
「それはそうかもしれないけど、本当の戦闘になったらそもそも枷の事なんて忘れるよね?」
 少しばかり楽しそうに言った考助に対して、ミツキも笑顔になった。
「それは勿論よ。枷なんてあくまでも対人用だもの」
 実力を不用意に見せないために枷をはめてはいるが、それはあくまでも周囲に配慮しての事だ。
 何らかの制約があるわけではないので、外そうと思えば簡単に外すことができる。
 考助もわざわざコウヒとミツキの二人に、強制的に枷をはめようとしたことはないのだ。

 考助とミツキの会話は、観客席のど真ん中で行われていたが、二人の会話を気にするような者はいなかった。
 何しろ、久しぶりのトップ5の入れ替えがおこったのだ。
 会場中がそれぞれの言葉を交わすことに夢中になっていた。
 わざわざ他人の会話を聞いている者などいない。
 もっとも、例え会話が聞かれていたとしても、特に困ったことにはならなかっただろう。
 別に聞かれて困るような会話をしていたわけではないのだ。

 そんな会話を交わした二人は、闘技場を後にした。
 今回は、ミツキとナナだけを連れて戦闘の様子を見に来ていたのだ。
 他のメンバーはそれぞれで会場に向かっていた。
 闘技場を出た二人は、いつものように(?)セイチュンの街中で屋台を漁ったのち、ギルドの拠点へと戻った。
 そんな考助を、すぐに闘技場から戻ってきていたコウヒが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
 笑顔を見せるコウヒに、考助も笑顔を返した。
 そのあとで、闘技場での結果をねぎらった。
「これでランカー入りという事になるのかな? おめでとう」
「ありがとうございます」
 まだ正式に決まったわけではないが、ほぼ間違いなくコウヒがトップ5に入ることは決まったと言って良いだろう。
 もっとも、考助はもとよりコウヒ自身がこの結果で満足しているわけではない。
 そもそも中途半端な順位で良いのであれば、わざわざコウヒを出す必要もないのだ。
 あとは流れ次第という事になるだろうが、出来ることなら一番を目指したいというのが考助とコウヒの考えだった。

 考助たちが帰ってきてしばらくしてから、他のメンバーたちも戻って来た。
 どうやらコウヒの戦闘を見て何かが刺激されたらしく、軽く塔に行っていたようだ。
 そんなメンバーを見て考助は苦笑をしていたが、特に諌めるようなことはしなかった。
 彼らも一人前の冒険者なのだ。
 休むときはしっかりと休むという基本は守っている。
 その上での行動なのだから、わざわざ他人が口出しすべきではないと考えているのだった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「あれは参ったわね。完敗よ、完敗」
 どこかさばさばした表情で、ジアーナが自分を見てくる二人にそう言った。
「ほう? 見事に変節したというわけか?」
 カルメンがどこかニヤけた顔でそう言ったが、ジアーナはそれをあっさりと受け流した。
「変節も何も。結果が全てでしょう? 私たちのいるの世界は」
「それはそうだけれど、貴方がここまで態度を変えるのも珍しいわよ?」
「仕方ないじゃない。あそこまであっさりと倒されるとね。見事としか思えないわ」
 肩を竦めてそう言ったジアーナは、ふと疑問の表情になった。
「ところで、戦闘直後に私を呼び出すなんて、珍しいわね。何かあったの?」
「ああ、ちょっと、な」
 カルメンが言葉を濁してそう言うと、ジアーナが先を言うように促した。
「コリーがお前を倒す前に、会話を行っていただろう? あれが問題になりそうだ」
 カルメンの台詞に、ジアーナが眉を顰めた。
「は? 何でよ? 戦闘中の会話何て、誰でもやっている事でしょう?」
「そうなんだがな。どうも戦闘を見た上層部の一人が、あの会話で不正をしたとわめいているらしい」
「それはまた、馬鹿な主張をしたものね」
 見る者が見れば、不正どころかしっかりと一段上の戦いをしたことは一目瞭然だ。
 そんなことを主張するということは、自分が素人だとわめいているのと同じことになる。
「まあ、そうなんだがな。なにぶん、そいつがギルド内で力があるのが問題でな」
「それはまた。まあ、でもそれもすぐに解消するんじゃない?」
「なぜだ?」
「簡単よ。あの結果を見て、あいつが動かないはずがないもの」
 ジアーナがそう言うと、カルメンもヤーナも脳裏に同じ人物を思い浮かべた。
 間違いなく今日の戦闘は、その人物も見ていた。
 それは、この場にいる全員が確認していた。
 ジアーナの言葉に納得したカルメンが、一つだけ頷いて言った。
「それもそうだな。心配する必要はないか」
「そうね」
 彼が動くのであれば、そのような小物の意見など吹き飛ぶだろう。
 何しろその人物は、闘技場ギルドで一番の発言力があるのだから。
 そして、それは同時にコリーの次の対戦相手が決まったという事にもなるのであった。
というわけで、最後の方で小物が何やら言っていたようですが、彼の出番はあるのでしょうか?(いや、ない)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ