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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 ガゼンランの塔

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(28)専属契約

 応接室へと通されたバルナバスは、内心で舌を巻いていた。
 バルナバスたちをこの部屋に通したエクは、お待ちくださいと言って部屋から出て行った。
 そのことについてもそうだが、バルナバスが感心しているのは他の事だ。
 いきなりの訪問なので、何の準備もないのは分かるため、多少待たされることになるのは何の不備もない。
 むしろ、訪問予定すら告げずにいきなり押し掛けたこちらの方が、対応としては駄目なのだ。
 バルナバスが感心しているのは、そんなことではなく、この部屋に通したエクの意図だ。
 今この部屋には、ミネイル商会の者たちしかいない。
 つまりは、身内だけが揃った状態で、好きにこの部屋を見学していいという事になる。
 勿論、ただの貧乏ギルドであれば、こうした部屋にいれる備品を揃えることも一苦労だろう。
 だが、少なくともバルナバスが見た感じでは、それなりの高級品が整っていた。
 見ようによっては、ただの新興ギルドが揃えるには不釣り合いだというかもしれない。
 だが、バルナバスは全くの逆に感じた。
 そもそも、この建物自体信じられない程の速度で建てたのだ。
 逆に言えば、<神狼の牙>にはそうしたことが出来るだけの財力があるという事になる。
 どこが資金源になっているかはバルナバスには分からないが、その事一つとってもこの部屋に一流の品をそろえるだけの財力があることは分かる。
 そうしていないのは、あくまでも新興ギルドという建前に合わせての事だという事も読み取っていた。
 変に高級品を揃えても、ただの成金だと思われるだけなのだ。
 それくらいなら、多少格を落とした品をそろえた方が良い。
 少なくともバルナバスならそう考える。
 そしてこの部屋を見る限りでは、<神狼の牙>はそうしたことを考える者がいるという事を示しているのである。

 バルナバスたちがこの部屋に通されてからさほど待つことなく、エクが戻って来た。
 その手には、人数分の飲み物がお盆に乗せられた状態で用意されていた。
「お待たせしました」
 そう言いながらエクは、飲み物を配っていった。
 エクに促されて、バルナバスはその飲み物を口にした。
「ああ、やはり『ミルドリップ』でしたか」
「ええ。ミネイル商会の本拠地はヘイテイ王国にあると伺っていたものですから。・・・・・・お口に合いませんでしたか?」
「いえ。とんでもない。大変美味しいですよ」
 再びミルドリップを口にしたバルナバスは、心の底からそう言った。
 きっちりと相手の故郷の飲み物を用意して来たエクに、バルナバスはさらに警戒心を上げた。

 警戒心を上げているバルナバスを見ながら、エクが静かに切り出した。
「それで、お話というのはどういった内容でしょうか。私ではお答えできることと出来ないことがありますが?」
「ええ、それは勿論です」
 バルナバスは笑顔でそう答えながら、内心では舌打ちをしていた。
 最初の一言で、お答えできません、という返答が出来る流れを作ってしまった。
 かといってバルナバスが、それは駄目です、と返すわけにはいかない。
 勿論、エクが言ったことは、どのタイミングで出してもいいのだが、一番最初に言ってしまえば、こちらで切り出せる話の内容も変わってくる。
 少なくともバルナバスにとっては、一番嫌なタイミングで言い出されたことになる。
 これが、ギルドの代表となると代表が何を言っているんだとなるが、あくまでも一職員を装っている(?)エクであれば、全く不自然ではないのだ。
 バルナバスの脳裏に、一瞬だけ考え過ぎだろうかとよぎったが、すぐにそれを打ち消した。
 交渉の時は、相手を警戒してしすぎることは無いのである。

「ところで、こちらの代表は冒険に出ているという事ですが、いつお戻りになるかは分からないのでしょうか?」
「ええ、残念ながら・・・・・・」
 わずかに顔を伏せて申し訳なさそうにするエクは、嘘をついているようには見えなかった。
「大体何時ぐらいに戻られるとかも分からないのでしょうか?」
「はい。代表が塔を攻略するときは、一日で戻られたり、数日かかっても戻ってこないときもあります。長いときにはひと月以上も音沙汰なしの時もありますから、私では何とも」
「ひと月ですか!?」
 思わぬ情報に、バルナバスは驚きの声を上げた。
 塔の中に一週間以上入っている冒険者は珍しくはないが、それでもひと月以上というのは聞いたことが無い。
 これは目当ての素材だけを目標に塔に入る冒険者と、取った素材の全てを売ることを考えている冒険者の違いでもある。
 勿論、ガゼンランの塔の場合は、五層ごとに転移が使えるので、その五層分の攻略を目指して長期の間塔に入る冒険者もいるが、それはあくまでも例外である。
 エクの口ぶりでは、そうしたことが日常茶飯事で行われているようだったので、バルナバスは驚いたのだ。
 ちなみに、ひと月という期間を出したエクだが、これは嘘を言っているわけではない。
 実際に、考助が本格的に調査をし始めれば、そうした状態になることもあり得ると予想しての回答だ。
 ただし、その時まで考助が<神狼の牙>の代表を続けているかは不明だが。

 バルナバスは、内心の動揺を押しのけて、もう一つの本命の質問をすることにした。
 先程から押されっぱなしになっているが、出来る限りの情報は得て帰りたい。
 代表がいない以上、具体的な進展は望めないが、それくらいの事はしておきたいのだ。
「こちらは、もしわかればで結構なのですが、素材の売り込み先を決めるようなことは話していらっしゃらなかったでしょうか?」
 この質問がバルナバスが一番聞きたかったことだ。
 直接契約を結ぶのは無理でも、<神狼の牙>がどういったことを考えているかを知りたかった。
 例えエクが、自分には分からない、と回答したとしてもそれはそれで一つの情報だ。
 少なくともエクにはそうした決定権が無いことがわかる。
 だが、そんなバルナバスの予想は外れて、エクからすぐに回答が返って来た。
「販売契約ですか。少なくとも一つのところだけと結ぶつもりはないようですよ」
「え、そうなんですか?」
 思ってもみなかった回答に、バルナバスは驚きの表情になった。
 セイチュンにある代表的なギルドは、どこも商会と専属契約を結んでいる。
 当然<神狼の牙>もそうするだろうとバルナバスは考えていたのだ。

 そんなバルナバスに対して、エクが特に隠すことは無いといった感じで更に話始めた。
「ええ。<神狼の牙>は、今のところ特定の商会と契約を結ぶつもりはない、と仰っていました」
「今のところ、ですか」
 微妙なニュアンスが気になったバルナバスが念を押すように聞いたが、これもエクはあっさりと頷いた。
「はい。塔から戻ってきたときには、また状況が変わっているかもしれませんが」
 予想以上の回答を得ることが出来たバルナバスは、満足気な表情になって頷いた。
「成程、確かにそう言う事もあるかも知れませんね。いや、良いお話を聞けました」
「そうですか? この程度でしたら、いつでもお話しできます」
 首を傾げながらそう答えたエクに、バルナバスも笑顔を返すのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 バルナバスが乗った馬車が去っていくのを見ながら、エクが呟いた。
「さて、これである程度の所まで噂が広まってくれればいいのですが」
 考助の事はともかくとして、専属契約の話に関しては、もともと噂が広まることを期待して話したのだ。
 そもそも後々クラウンに変わる予定になっている<神狼の牙>が、その前にこの地の商会と専属契約など結ぶことなどありえないのだ。
 今の状態で契約を結んで、クラウンに変わった後で契約が違う等と言われては目も当てられない。
 そうしたことを防ぐためにも、今の段階での専属契約は結ぶつもりはなかった。
 ちなみに、こうしたことに関しては、考助はエクに一任していた。
 話の流れ上、あくまでも決定権は考助だけにあるように見せかけて話をしていたが、きちんとエクも持っているのだ。

 互いに探りながらの話し合いは、両者にとって成功だったのか失敗だったのか、それはまだ現時点では分からないのであった。
エクと商会代表との話し合いでした。
圧されっぱなしのバルナバスに見えますが、聞きたいことは聞けているので、大きな損(?)はしていないです。
それどころか、わざわざ代表本人が出てきたかいがあったと考えています。
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