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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 ガゼンランの塔

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(16)戦闘後

 コウヒの戦いぶりを観客席から見ていたアリサが、隣のセシルに向かって話した。
「あの方には珍しく、ずいぶんと派手な真似をするわね?」
「んー。多分、この先のことを考えているんじゃないかな?」
 アリサに対して、セシルが首を傾げながらそう答える。
 セシルの答えに、納得したようにアリサも頷いた。
「ああ、なるほど」
 実際、コウヒの力であれば、先ほどのようにわざわざ相手の攻撃を受け止めるという真似をする必要などない。
 それこそ最後の攻撃のように、相手に近づいて一撃をぶちかませばいいだけなのだ。
 それをわざわざオスモの攻撃を素手で受け止めるという真似をしたのは、明らかに会場の観客を意識しての事だった。
 分かりやすく言えば、パフォーマンスとして見せたのである。
 そのパフォーマンスが、次の対戦を呼び込むことになる。
 次は誰々と戦ってほしいとかいった観客たちの噂が、次に繋がるという事を見越しているのだ。

 そんなことを淡々と話しているセシルとアリサの周囲で、同じように観戦に付いてきていたギルドのメンバー達が呆然としていた。
 彼らは、セシルとアリサに言われてこの場に来ていた。
 そのために、わざわざ依頼を入れないように調整までしたのである。
 だが、今行われた戦闘は、それだけの価値があることは間違いが無かった。
「今のは・・・・・・一体、どうやって?」
 そう呟いたのは、クラウン本部でロマン達に案内されたパーティのリーダーであるオーバンだった。
 オーバンの周囲では、彼のパーティメンバーが他の観客たちと同じように未だに呆然としている。
 オーバンの呟きを聞きつけたロマンと、その隣にいた別のパーティのリーダーであるデジレが真剣な表情で答えた。
「身体強化、だと思うが・・・・・・」
「それにしては、ばかげた力だと思うぞ?」
 あれだけ小さな体で、相手の攻撃の全てを受け止めることが出来る程に身体強化をするとなると、どれほどの強化が必要か想像もできない。
「あれが、身体強化?」
 呆然とした表情でつぶやくオーバンが、全てを物語っていた。
 そのオーバンに、ロマンが首を振りながら答えた。
「勘違いするなよ。俺も想像で話しているだけで、それが正解かは本当のところは分からないからな」
「だな。それしか考えられないから、そう話しているだけだ」
 ロマンに続いて、デジレが答えた。

「それにしても、あれほどの身体強化となると、どれほどの魔力を使っているのか」
 ロマンがそう言ってから、仲間の魔法使いへと視線を向けた。
 その仲間は、視線を受けて肩を竦めた。
「考えたくないね」
 その短い返答が全てを物語っていた。
 コウヒが使った魔力は想像するしかないが、それでもあの一瞬で使われた魔力が莫大な物であることは想像に難くない。
「しかもあの一瞬でだからな。よほどの制御も必要だろう?」
「そうだね」
 頷く魔法使いに、アリサとセシルを除くその場の全員が呻いた。
 今の話だけで、コウヒがとんでもない実力者ということがわかった。
 コウヒはあっさり倒していたが、オスモは決して弱いわけではない。
 それどころか、上位二十位に入るだけの実力はあるのだ。
 そのオスモをさっくりと倒してしまったコウヒがとんでもない実力の持ち主という事になる。
 ここにいるメンバーで、そこの所を勘違いするような愚か者は一人もいない。

 そんな彼らの話を聞いていたセシルが、笑いながら言った。
「とにかく、今回のこれで大分儲けられたでしょう?」
 そんな冗談に、ほとんど全員が笑顔になった。
 笑顔になっている者達は、アリサとセシルに事前に言われてコウヒに賭けた者達である。
 まだ知名度が全くないコウヒは、オッズも高かったのである。
 冗談半分のつもりで少額を賭けた者も、かなりの額が支払われた。
 コウヒの実力を知っているアリサやセシルは、それなりの額を掛けて大儲けしていたりする。
 ただし、今回のことがあるので、次回以降はここまで儲けるのは難しいだろう。
 ごく一部だが、悔しそうな顔をしている者がいるが、それは自業自得というものである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 闘技場の新しい上位ランク保持者の誕生に、セイチュンの街は盛り上がりを見せていた。
 しかもその新しいランク保持者が美しい女性となれば尚更だ。
 次の相手は誰だろうとか、トーナメントに出るとすればどのトーナメントだとか、いろいろな噂でもちきりだった。
 ただしそんな噂話をしているのは、闘技者ではない普段賭けを行っているような一般の者達である。
 こと闘技者に限って言えば、特に同じランクの者達にとっては、新しいライバルの出現になる。
 しかも元ランク保持者のオスモを圧倒的な力で破っての勝利だ。
 出来れば近づきたくないというのが本音だろう。
 オスモは、その性格で嫌われてはいたのだが、実力もまた本物だったのだ。
 少なくとも上位二十位に食い込んで、下位とはいえその地位を維持できるだけの実力はあった。
 闘技場では完全に実力主義のため、性格が悪かろうが強ければ一定の評価は得られる。
 そのオスモをあっさりと沈めたコウヒが、対戦相手として避けられるようになるのもある意味当然といえるだろう。
 ただしそれは、上位二十一位よりも下の者達の事であって、ランカーたちに限ってはまた話が変わってくる。
 ランカーたちは、強い者と戦いたいからこそ闘技者として登録しているという者達がほとんどなのだ。
 コウヒのように別の思惑を持っている者も当然のようにいるが、それはあくまでも少数派なのだ。

 上位二十位以内のランカーたちは、闘技場内においては優遇措置が取られている。
 例えば、備え付けの食堂では一般の者達が使えないような部屋をタダで利用できたりするのだ。
 今のカルメンやヤーナのように。
「それで? 貴方はどうするのかしら?」
 もぐもぐと食事をしているカルメンに、ヤーナが問いかけて来た。
 どうするというのは勿論、コウヒとの対戦を望むのか、という事だ。
「それは勿論申し込むぞ?」
 そう即答したカルメンに、ヤーナは若干目を見開いた。
「試験で相対したから闘わないと思っていたわ」
「あれは、戦闘とは言えないしな。それに、あいつがどういう攻撃をしてくるのか、楽しみでもある」
 その如何にも戦闘狂といった発言に、ヤーナは肩を竦めた。
 ヤーナ自身は、カルメンほどの戦闘狂ではないのだ。

「それで? どうやって申し込むの?」
「何、簡単なことだ。あいつの居場所は分かっているしな。それに、あいつはあいつで目的があるようだったから簡単に受けてくれるだろう」
 カルメンは既にコウヒがどのギルドに所属しているかは知っていた。
 試験官という立場で知れたというのもあるが、そもそもコウヒはギルドの知名度を上げるために活動しているので、拠点の出入りを多く行ったりしている。
 既に、コウヒが『神狼の牙』の所属だという事は、話として出回っているのだ。
「まあ、あたしが行くよりも先に申し込む奴がいるかもしれないからな。しばらくは様子を見るさ」
 そう言って肩を竦めたカルメンに、ヤーナは同意して頷いた。
 ランカーの中には、単純に新参者が自分より注目されているのが面白くないと感じる者がいる。
 カルメンもヤーナも数名そういった思考を持つ者に心当たりがあった。
 そうした者達からの申し込みもあるだろうという事もある。
 しばらくの間、コウヒの周囲は騒がしいことになるだろうというのが、カルメンとヤーナの共通した意見だった。
コウヒのデビュー戦後の一幕でした。
必要かどうか迷ったんですが、入れてしまいました。
こういうのが話数を多くする原因なのですよね><
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