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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 セウリの森編

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(5)朝露の滴

 エセナと同じような緑を基調としたゆったりとした服を着たその存在は、間違いなく目の前にそびえ立つ世界樹の妖精だった。
 エセナよりも遥かに大人びた雰囲気を持つその女性は、間違いなくこの場に居る誰よりも長く生きているのだ。
 穏やかな笑みを浮かべているその表情は、女性らしい母性を感じさせるものだった。
 世界樹の役割を考えれば、全ての生物たちの母に例えられても大袈裟ではない。
 世界樹の前に佇む妖精を見た考助は、ふと神域にいる女神達を思い出した。
 そして、すぐにその理由に思い至った。
 世界樹の妖精は神威こそ発してはいないが、何処となく女神達と同じような雰囲気を感じ取ることが出来るのだ。

 そんな考助の視線を感じたのか、世界樹の妖精は考助に向かって一度頭を下げて言葉を発した。
「神の身であるのにかかわらず、わざわざこのような場に来ていただき、ありがとうございます」
 考助は、それに慌てて手を振った。
「いやいや。勘弁してください。神と言っても新米ですし、何よりこのような場所が見れてとてもよかったです」
 背中に冷や汗を流しつつ、心からの本心でそう言った。
 この世界では、妖精と神という立場からすれば、遥かに神の方が立場が上だ。
 だが、この森の様子や本人の雰囲気からみても、とても考助が太刀打ち出来るような存在ではないと感じている。
 勿論、力任せにこの森を破壊しようとすれば、いくつか方法は思いつくが、そんなことをしようとは思わない。
 何千年、あるいは何万年とこの森を保ち続けて来た存在には、考助は頭が下がる思いを持っているのだ。

 そんな考助の思いを読んだのか、あるいは考助と直接対面してその性格を見抜いたのか、世界樹の妖精は穏やかに微笑んだまま小さく頷いた。
「ありがとうございます。そう言って頂けると私も嬉しいです」
 そう言って一度区切った後、世界樹の妖精は考助から視線を外して、シオマラやコウヒ、ミツキにも視線を向けた。
「ずっと立ったままというのも失礼でしょうから、こちらへどうぞ」
 そう言った世界樹の妖精は、スッと右手を上げた。
 すると、世界樹の妖精が佇んでいた場所に、世界樹の根が動いて、即席の机やいすのような物が出来た。

 招かれた考助達は、その即席の椅子に腰を掛けた。
 見た目はただの木の根なのだが、磨きぬかれたれた木工製品のような温かみを感じた。
 それぞれが席に落ち着くのを見てから、考助がふと疑問に思ったことを口にした。
「そう言えば、貴方のお名前を聞いても?」
 考助にしてみれば、軽い話題のつもりだったのだが、世界樹の妖精は困ったような表情になった。
「申し訳ありません。私には、皆様のような具体的な名前はありません」
 それを聞いた考助が、思わずシオマラを確認すると、その視線を受けたシオマラが頷いていた。
「私が先代から巫女の役割を受け継いだ時も、特に名前を聞いたりはしていません。基本的に接するのが私のような巫女だけなので、お名前で呼ぶ機会がありませんから」
「考助様が、名前を付けてくださいますか?」
 シオマラの説明を聞いた後、何故か期待のこもった視線で世界樹の妖精が、考助を見つめて来た。
 その視線を受けた考助は、一瞬ウッと詰まったものの最終的には首を左右に振った。
「貴方のような存在に不用意に名前を付けると何が起こるかわからないので、止めておきます」
 その考助の返事を聞いた世界樹の妖精は、残念そうな表情になるのであった。

 この世界において、名前を付けるというのがいかに重要かは眷属たちの名付けで知っている。
 それを知る前であれば、求められるままに名前を付けただろうが、今は気軽にそんなことは出来ない。
 ついでに、現人神となっている現状ではなおさらだ。
 そんな状態で、明らかに世界に多大な影響を与えている存在に、気軽に名前を与えていいとは思えなかった考助だった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 世界樹の根で出来た椅子や机があったとしても、流石に飲み物までは出てこない、と思っていた考助だったが、考えが甘かった。
 いくつか会話を交わしていると、フヨフヨと何かが注がれたコップが机に乗せられたのだ。
 考助の目には、精霊たちがそのコップを持って来たのが見て取れた。
「皆様のお口に合うかは分かりませんが、どうぞお飲みください」
 世界樹の妖精がそう言ってから、運ばれてきたコップを手で指し示した。
 ちなみにコップは木製だ。
 その中身を口にした考助は、ほんのりとした甘さを感じた飲み物に驚いた表情になった。
「・・・・・・美味しい」
 思わず口から出てしまった言葉だったが、それを聞いた世界樹の妖精は嬉しそうな表情になった。
「そうですか。良かったです」
「いや。本当に美味しいですよ、これ。ねえ?」
 本心からそう言った考助は、同じように飲んでいるコウヒやミツキにも確認をした。
「ええ」
「本当にそうね」
 別に考助から答えを求められたからではなく、二人共本心からそう思って頷いていた。

 初めて口にするその味に、考助は首を傾げつつ世界樹の妖精に聞いてみた。
「本当に美味しいですが、これは何なのですか?」
「私の体液・・・・・・というと語弊がありますが、要は朝露みたいな物です」
 詳しくは教えてくれなかったが、世界樹の葉に集まった滴のような物を集めて作った飲み物という事だった。
 それを聞いた考助は、某ゲームに出てくる「世界樹の○○」を思い出したりした。
 そんな呑気なことを考えていた考助だったが、同じ様にその飲み物を口にしていたシオマラがギョッとした表情になっているのを見て、当たらずといえども遠からず、何だろうなと考えたりもした。
 礼儀ただしく(?)、考助はシオマラのその表情は見なかったことにしたのだが。

 そんな飲み物を口にしつつ軽い話題を口にしていた一同だったが、突然世界樹の妖精が意味の分からないことを言いだした。
「そう言えば、朝露の滴が其方でお世話になっているようですが、元気にしていますか?」
「はい? 朝露の滴、ですか?」
 意味が分からず、考助は首を傾げてしまった。
 何のことを言っているのか、さっぱりわからない考助だったが、横から服の袖をちょいちょいと引っ張られて其方の方を見た。
 袖を引っ張っていた者の正体は、エセナだった。
「朝露の滴は、コレット姉様のこと」
「ああ、それなら元気にして・・・・・・え? 何でコレットが朝露の滴?」
 エセナの言葉で、益々意味が分からなくなった考助である。

 そんな二人のやり取りを見ていた世界樹の妖精は、しばらく首を傾げていたがやがて何かに思い当たったのか首を縦に振った。
「ああ、考助様は、コレットが此方の里から出奔したという事を知らなかったのですね」
「・・・・・・はい~!!!?」
 世界樹の妖精の言葉に、考助は思わず大声を上げてしまった。
 しかも考助だけではなく、コウヒやミツキまで驚いていた。
 二人も全く知らなかったことなのだろう。
 ついでに言うと、シオマラも驚いた表情になっていた。
「コレットは、考助様の元でお世話になっていたのですか・・・・・・」
 その言葉に、ようやく考助はコレットがここの里で育ったことを理解した。
 考えてみれば、長い付き合いになるのに元の里がどこだったのか、詳しく聞いたことが無かった気がする。
 そう言った話をする雰囲気にならなかったというのもあるが、コレット自身が話したがっていなかった気がしたのであえて触れていなかったのだ。
 思わぬところでコレットの出身地を知ることになってしまった考助なのであった。
はい。ようやくコレットの過去が出てきました。
五人の嫁の中で唯一過去が出てなかったですからね。
(シルヴィアも過去と言えるかは微妙ですがw)
どう言った経緯で出て行ったのかは、この後の話で語ります。
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