挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 クラウンの活動

472/1196

(3)買取素材

 アイリカ王国の支部の訪問を終えたラウールは、その足でスミット国へと向かった。
 同じ日に東大陸と南大陸の地を踏めるのは、転移門が無ければ無理なことだ。
 クラウンが遠く離れた別の大陸でも、当地の組織に飲み込まれることなく存続できるのは、間違いなく転移門があるおかげだ。
 そうでなければ、頻繁に幹部クラスの監査が出来ずに、勧誘や引き込みが行われているだろう。
 もっとも、転移門があるからと言ってそうした危険性が全くなくなるわけではない。
 ラウールのように、もともとセントラル大陸で活動していた者は、他大陸の甘い言葉に引き込まれ難いだろうが、もともとその大陸で生きて来た者にとっては、そちら側に引き込まれやすい。
 当然と言えば当然の人間としての心理である。
 クラウン自体がまだ出来て十年そこそこの組織だからこそ、帰属意識というのも老舗のギルドに比べればかなり低いと言える。
 そう言う意味では、規模こそ大きくなっているが、まだまだ油断のできない状態なのである。

 ラウールがスミット国の支部へと到着すると、丁度そこには本部所属の同僚がいた。
 名前はアミントレ。
 ラウールが素材の買取担当であれば、彼は素材の売却担当となっている。
 年も近い二人は、他の同僚たちよりも交流が深かったりする。
「おや」
 転移門を通って来たばかりのラウールよりも先に、ラウールに気付いて挨拶するように片手を上げた。
「ん? おや、アミントレですか。フリエ草で?」
 アミントレは売却担当という事もあって、スミット国ではフリエ草が特に重要な商品になるのだ。
「ええ、まあ。ご存知でしょうが、今回は予定以上に採取が進みましたからね」
「・・・・・・ああ、そうか。そうでしたね」
 素材を売るのはアミントレだが、冒険者たちから買い取っているのはラウールの管轄範囲内だ。
 スミット国にフリエ草を卸すのは、定期的に決められた時に行っているのだが、卸している量は完全に一定というわけではない。
 アミントレは、その都度スミット国へと報告に上がっているのだ。
 クラウンにとってフリエ草の取引がそれだけ重要だという認識もあるのだが、アミントレがラウールと同じくフットワークが軽いのもある。
 アミントレは、フリエ草の運搬のたびに毎回顔を出しているのだ。

「相変わらずまめ(・・)ですねえ」
「いやいや。必要なことですからね。それに、それは貴方も同じでしょう?」
 自分と同じように、机にかじりついて書類と格闘するより動いていた方が良いでしょう、という表情でアミントレがラウールを見て来た。
「それは、まあ確かに」
 責任者ともなれば、書類整理からは逃れられないのだが、ラウールもアミントレもどちらかと言えば、歩き回っている方が好みなのだ。
 アミントレは、ラウールと違って行商出身ではなくとある商人ギルド所属だった。
 だが、そのフットワークは行商以上に軽い。
 それが、ラウールと気の合う所にも繋がっていたりするのだ。

「ラウールは何故こちらに?」
「ああ。アイリカ王国の様子を見て来たからその結果報告と、こっちの進捗確認ですね」
「なるほど」
 スミット国は、支部の設置こそ早かったが、最初はフリエ草の取引のためだけに設けた窓口だった。
 それをクリストフ王子が決断することによって、幅広い商取引まで行うようになった。
 更に冒険者部門まで設けることになるまでは、紆余曲折があったのだ。
 それだけスミット国の関係者がクラウンの力を恐れていたという事になるのだが、最終的にはクリストフ王子の判断で冒険者部門の設置が決まった。
 とはいえ、既存のギルドの力関係を侵さないように慎重に慎重を重ねて行われたので、セントラル大陸内で起こったような爆発的な広がりとは真逆に静かに浸透していく事になったのである。

 最初はクラウンの冒険者部門が依頼をほとんど出していなかったというのも原因の一つだ。
 クラウンが依頼を受け付けると、他のギルドに行くべき依頼が減ってしまう事になる。
 そうしたことを防ぐために、クラウンへの登録だけを受け付けていたような状態になっていた。
 その状況が変わったのが、アイリカ王国の支部設置で冒険者の活動に改善が見られた頃だ。
 クラウンカードによるステータス表示だけではなく、それ以外にも他のギルドとは運営方法に違いがあると分かったのだ。
 結果として、クラウンの冒険者部門は完全に解禁となり依頼も出されるようになり、冒険者部門の活動も完全解禁となったのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 素材仕入担当の責任者が来たという事で、スミット国の冒険者窓口では緊張した雰囲気になっていた。
 ラウールは商人部門の人間ではあるのだが、その性質上素材の扱いに関しては冒険者部門にも口出しすることが出来る。
 一応この支部では支部長が一番上の立場になるのだが、それはあくまでもこの支部に限ったことで、本部に行けばラウールが上の立場となる。
 立場の扱いに関しては、おかしなところもあるのだが、本部の力が強くなり過ぎないように支部を設けることになった王国側が、圧力(?)を掛けて来たのだ。
 不必要に権力を脅かすつもりのないクラウンもそれを受け入れて、今のややこしいかつ不可思議な状態になっているというわけだ。

 先程まではアミントレがいたのだが、彼はどちらかというと商品を売り込む担当なので、冒険者部門とはほとんど絡むことがない。
 それに対して、ラウールは素材の買取担当なので、冒険者部門の窓口とはよく絡むのだ。
 当然なのだが、素材に関しては厳しい所があるラウールなので、時には厳しい意見をいう事もある。
 それが、窓口担当者たちの間では、ラウールのことを「本部の超激辛目利き職人」と言わせる原因になっていた。
 もっとも、ラウールに言わせれば、自分程度の目利きをする人間は、セントラル大陸にはいくらでもいるという事になる。
 冒険者達の素材の持ち込みが当然になっているセントラル大陸では、商人側の目利きも当然厳しくなるのだ。
 こんな所にも、セントラル大陸と他大陸の差が出ているのであった。

 カウンターの内側では緊張感漂う事になっているが、そこはプロで受付嬢もその緊張を見せずに冒険者の相手をしていた。
 そんな中、ある冒険者の声が響いた。
「だから何でそんなに安いんだよ!」
「ですから先ほど説明した通り、素材が良い状態ではないからで・・・・・・」
 どうやら素材の買取の値段が安いことに文句を付けているようだった。
 以前も同じ物を持ち込んで、良い値段に味を占めてまた同じ素材を持ち込んできたらしい。
 だが、その時よりも値段が低いので文句を言っているのだ。
 それに対して受付嬢は、素材の状態が良くないので値段が下がっていると言っている。
 周囲を見ると、他の受付嬢が顔をしかめていた。
 どうやら、その冒険者が買取の値段に対する文句を付ける常連さんらしい。

 そのやり取りを見て、これは駄目だと判断したラウールは助け舟を出すことにした。
「私から話しをしてもよろしいですか?」
「・・・・・・あん? 何だ、てめーは」
「素材の買取担当をしているラウールと申します。買取の値段にご不満があるようなので説明させて頂きたいと思いまして」
「はん?」
 ラウールの言葉に興味を示したのか、その冒険者は右眉を上げてラウールの方を見た。
「例えば、こちらの毛皮ですが中央に大きく傷が入っています。この傷が無ければ、大物の商品にも加工が出来るので買取価格も高くなるのですが・・・・・・」
 そうしてラウールは、冒険者が持ち込んだ素材の一つ一つに値段が下がる理由を説明して行った。
 その説明に、冒険者もだんだんと納得がいく表情になって行く。
 冒険者としては、単に値段が下がっている事だけではなく、その理由まできちんと知りたかったのだ。
 長年行商として冒険者と直接やり取りをしてきたラウールの経験が生きたのだ。

「・・・・・・なるほどな。そういう事なら納得だぜ。ありがとよ」
「いえいえ。・・・・・・最後に一つだけ、アドバイスというか、余計なおせっかいよろしいでしょうか?」
「あん?」
「素材の値段が下がる理由を言って行きましたが、逆を言えば完品を持ち込めば他の冒険者を出し抜いて儲けを出す事も出来るという事になります」
 ラウールのその言葉に、冒険者は不敵な笑みを浮かべた。
「ほう?」
「素材というのは、完品であればあるほど値段が跳ね上がります。当然買取価格も上がるわけです」
 冒険者はラウールの言葉に裏に込めた意味をしっかりと理解したようだった。
 要するに、討伐できるモンスターのランクを上げなくても、素材採集の腕を上げれば収入を上げることが出来ると言っているのだ。
「なるほどな。良い事を聞いた。色々試してみるさ」
「さようでございますか。これからもよろしくお願いします」
「ああ」
 最後にそう言って冒険者は去って行った。
 最初の棘のある表情は完全に消えていた。

「あ、ありがとうございます」
 冒険者に完全に去ってから、対応していた受付嬢がラウールに頭を下げて来た。
「いいえ。いいんですよ」
 ラウールは笑顔でそう言いながら頭の中では、要改善と考えているのであった。
素材についてでした。
ちなみに、ラウールが語ったことはセントラル大陸の冒険者は一般常識です。
モンスターを倒す腕を磨くのも重要ですが、より良い素材を得るために採取の腕も磨いていたりします。
大手だと素材採集専用の人材がいたりもします。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ