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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 初めての冒険

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(5)事前準備

 話し合いの最後にタマーラがリクのことに触れてきた。
 それはそうだろう。
 どう見ても成人していない、如何にも貴族然としたリクが冒険者たちにくっついて活動しているのだ。
 これで何も疑わないのであれば、支部長の職になど就いていない。
 だが、リクの件に関しては、アリサが「別件の依頼で動いています」と告げただけで、タマーラもそれ以上は聞いてこなかった。
 基本的に個々の依頼には守秘義務が課せられている。
 貴族が絡んでいるのであればなおさらだ。
 支部の情報は本部に筒抜けになっているが、逆はその限りではない。
 タマーラもそれが当然と思っているので、特にそれ以上のことは聞かなかった。
 それが長い間冒険者と続けることが出来ているタマーラの知恵なのであった。

 話し合いの後で呼ばれた受付嬢に連れられて、ロマンたちは再び受付へと戻った。
 今度は依頼を受けるのだ。
 タマーラが既にその受付嬢に、ロマン達が一つ上のランクの依頼を受けられることを伝えてある。
 受付に戻ったロマンたちは、そこに残っていた幾人かの冒険者たちから注目を受けた。
 彼らが支部長であるタマーラに呼ばれていた所を見ていた冒険者たちがロマン達の実力を図っているのだ。
 当然注目されているのは分かっているが、それを気にした風も見せずにロマン達は掲示板に貼られている依頼の一つ一つに目を通していた。
 彼らは、自分達が受けられる依頼以外の物まで目を通していた。

「自分たちが受けられない依頼まで見ているのは何故?」
 真剣に依頼を見ているロマン達の邪魔にならないように、リクがアリサに問いかけた。
 自然と小さい声になっていたので、様子を窺っていた他の冒険者達にまでその声は届いていない。
「貼られている依頼を見ると、この辺りでどんな依頼が出ているかわかりますよね?」
「うん」
「そこからどのあたりにどんなモンスターが出てくるのかをチェックしているのですよ。後は、買取してもらえるような素材のチェックも兼ねています」
 冒険者が依頼で討伐に出たとしても、その依頼に適合したモンスター以外と戦闘になることもある。
 そうした不意の戦闘で得た素材も出来るだけ換金できるように、事前にチェックしているのだ。
 同じ大陸内でも例えば北と南では、需要のある素材は違っている場合がある。
 本部に所属して転移門を使って各地を移動する冒険者は、それぞれの地域で換金できる素材を知っているのが当然なのである。
 討伐のたびに本部に戻れればいいが、そう言うわけにもいかないこともあるからこその知恵だ。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 そうしてロマン達が依頼表のチェックを終えて、ようやく本命の依頼を受けるかと思えば、今度は依頼表を取らずに受付へと行った。
 リーダのロマンが空いている受付へと行き、とある質問をした。
「この辺りで出てくるモンスターの資料とかはどこにあるかな?」
「え?! あ、はい。あちらの部屋になります」
 そんなことは久しぶりに聞かれた、という感じで驚いた受付は、多少焦ってその資料がある場所を差した。
「出入りは自由?」
「はい、勿論です」
 今度はニッコリと笑って答えた受付に、ロマンは「ありがとう」と答えて仲間たちとその部屋へと向かった。
 そうした行動も様子を窺っていた冒険者たちには見られていたが、相変わらずロマン達は気にせず淡々と行動している。
 そんな周辺の様子もしっかりと見ていたリクは、アリサに引っ張られるように、ロマン達と同じようにその部屋へと向かった。

 部屋には、資料を見ているような人間は一人もいなかった。
 そんなことは気にせず、ロマンは仲間たちに指示を出して手分けをして資料を見始めた。
 後から若干遅れて来たリクは、それを見ながらアリサへと視線を向ける。
「これもさっきと同じ理由?」
 今度は質問せずに、自分で答えを見つけたリクに、アリサはよくできましたとばかりに笑顔になった。
「そうですよ。依頼に出ないモンスターも多くいますからね」
 ついでに、とさらにアリサは言葉を続けた。
「勿論、こうした資料にも載っていないようなモンスターが出ることもあります。ですが、全く知らないで外に出るよりもはるかに対応できることは多くなります」
 リクは納得してコクリと頷いた。

 自分の考えがいかに甘かったかを彼らの行動を見て思い知らされた。
「冒険者は、単にモンスターを倒しに行くだけだと思ってた」
 そう言ったリクの表情をアリサはジッと見つめた。
 その表情の中に、感心しているようなもの以外にはないことを認めてから、アリサは返事を返した。
「中にはそうした冒険者もいるでしょうね。でも、どんな場所へ行っても、どんなモンスターと会っても実力だけで対処できる人なんて、ごく一握りですよ」
 そう言ってから一度言葉を区切ったアリサは、リクへと笑って言った。
「リク様は、そのごく一握りの存在にも会ったことがありますよね?」
「えっ・・・・・・?!」
 突然の質問に驚いたリクは、目を白黒させながら誰だろうと考える。
「あら? 近すぎて分からないでしょうか? 今も一緒に付いてきているではないですか」
「え、あっ・・・・・・。コウヒとミツキ?」
「そうです」
 正解したリクに、アリサは笑顔で頷いた。
 リクの護衛をすることになっているコウヒは、実は今もしっかりと傍で見守っている。
 ただ、その美貌のせいで、姿を現すと必ず騒ぎになると分かっているため姿を隠しているのだ。
 今もどこかで様子を見ているはずだが、何処にいるかは全く分からない。

「養成校でもまず教えているのは、こうした対処方法です」
「うん」
 その言葉に素直に頷くリクを見て、アリサは内心で安堵していた。
 ここでいう事を聞かずに、現場に飛び出していくような者も少なからずいるのだ。
 それで生還できるのであれば、問題はない。
 冒険者というのは、あくまでも自己責任の世界だからだ。
 だが、出来ることなら、リクがこれからも冒険者を目指すのであれば、そうした猪突猛進な性格にはなってほしくはないとアリサは考えているのだ。
 それは別にリクだからというだけではなく、今まで受け持った生徒たち全員に、そうなってもらうよう願っているのである。

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 その後は、リクもロマン達に混じってこの辺りで出てくるモンスターのことを資料から調べた。
 王子としての教育を受けているリクが文字が読めないという事はあるはずもなく、置かれている資料は問題なく読むことが出来た。
 それらの資料から今まで見たこともないモンスターの情報などを知ることが出来た。
 そのため、事前に知っておくべき情報の重要性も理解することが出来たのであった。

 結局その日は事前準備だけで終わり、依頼を受けるのは明日へと持ち越しとなった。
 リクが本当の意味で、事前準備の重要性を実感できることになるのは、実際に町の外のフィールドに出てからだ。
 今はまだ文字から得た知識のみで、頭では理解できていても実感として湧いているわけではない。
 そのことを理解出来るのは、やはり実際に体験してからという事になるのであった。
今はまだ頭でっかちなリクです。
それでもまだまだ知識不足な所があります。
冒険者になるために大人顔負けの知恵を両親に見せるのに、基本的なことを知らないアンバランスさがまだまだ子供だという証明ですね。
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