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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 塔のあれこれ(その8)

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(5)足踏み

 考助はいつものように魔道具の研究に煮詰まってくつろぎスペースに来ていた。
 置かれているソファーに寝そべって半分うとうとしていると、転移門のあるドアがガチャリと開けられた。
 その音からわずかに遅れて、たしたしという何かが走る音が聞こえて来た。
 その音が、考助が寝そべっているソファーの傍まで来ると、タシッという音が鳴りポテンと胸の上に何かが乗って来た。
「んあ? ああ、ナナか。今日も遊びに来たんだ」
 考助の上に乗ったのは、小型化しているナナだった。
 いつものように首筋を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振りまくっている。
 そんなナナを見ながら首だけをドアの方へと向けると、そこにはメイドゴーレムが立っていた。
 扉を開けることが出来ないナナに気付いて、扉を開けてくれたのだ。
 ちなみにメイドゴーレムには、許可を求めなくても扉を開けてもいいのか、許可を取らないと駄目なのかを認識する機能が付いている。
 早い話がしっかりと相手を見極める機能があるのだ。
「ああ。ありがとう。元の業務に戻っていいよ」
 扉を開けたまま佇んでいるゴーレムに考助が声をかけると、そのゴーレムは一礼してから部屋から出てパタリとドアを閉めた。
 まずあり得ないのだが、不正に転移門を利用する者がいないかを見張っているのだ。
 もし転移門を不正利用する者が現れた場合は、すぐさまミツキかコウヒに連絡が行くようになっている。

「ん~・・・・・・。癒されるねえ」
 しばらくナナをモフモフしていた考助がそうポツリと漏らした。
 今くつろぎスペースには、考助以外に誰もいないのでその呟きを聞く者はナナ以外には居ないのだが。
 考助にあちこちを撫でられながら尻尾をフリフリしているナナは、どう見ても普通の犬にしか見えない。
 考助の上に乗るために小型化しているので、なおさらそう見えるのだ。
 考助と戯れている姿を見て、その本性が神獣だと初見で見抜ける者は誰もいないだろう。

 そんなことを十分ほど続けていると、くつろぎスペースにコレットが入って来た。
「あら。癒され中?」
「ああ。どうしてもうまくいかなくて拗ねてたら、丁度ナナが来てくれた」
「ワフ!」
「フフフ。ナナはいつも来るタイミングが良いわよね」
 コレットがそう言いつつ、考助と同じようにナナの首筋へと手を伸ばすのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「それで? やっぱり駄目なの?」
「そうなんだよねえ。どう頑張ってもコストがかかってしまうんだよなあ。とても一般利用は出来ないよ」
 今日も朝から考助は研究室にこもって魔道具の開発をしていた。
 何の開発かというと、考助がアマミヤの塔で魔道具の開発を始めてからずっと研究している通信具の開発である。
 コストや場所を無視すれば、遠距離でも通信を行える者は開発できている。
 既にそれらは、ラゼクアマミヤや親密度の高い他国の国王辺りに渡されている。
 だが、それにかかる費用はまさしく国宝級に近いような値段がかかってしまうような代物になっているのだ。
 これでは、一般に普及させることなど夢のまた夢なのだ。

 当初から行われていた安価な通信具の開発だったが、今の考助の様子を見ても分かる通り全く進展していないのだ。
 時折空いた時間を利用して考えてはいるのだがどうしても上手くいかないのである。
 そもそも考助が知っている通信と言うのは、固定電話と携帯電話くらいしか思いつかない。
 トランシーバーのようにある程度近い距離であれば、通信を行う物は出来ているのだが遠距離に伸ばすことが出来ないのだ。
 携帯電話のように固定のアンテナを設置するとその分のコストがかさんでしまう。

 更に遠距離にするには、どうしても必要になる材料が高価な物になってしまう。
 これにはちゃんとした理由があって、距離に対して比例するように魔力を使う必要があるのでその魔力を操作する道具や魔力その物をためておく装置が非常に高価になってしまうのだ。
 かといって固定電話のように、物理的に繋ぐというのもコストがかかってしまう。
 電線のようにある程度安価で設置できればいいのだが、電線に当たる物が一般に普及している物ではないので、どうしてもコストがかさむのである。
 携帯電話のように中継基地を間に置くにしても、その基地自体にコストがかかるのでそれも意味がない。
 結局、いままで検討したどの方法もコストを抑えることが出来ないのだった。

「もうこれだけやってもダメってことは、一から考え直した方が良い気がしてきたなあ」
「クーン?」
 考助の言葉に反応して、ナナが鼻を鳴らしながら首を傾げた。
 その仕草にくるものがあった考助は、思わず頭を撫でてしまう。
 それを和みながら見ていたコレットだったが、ふと思い出したような表情になった。
「精霊の力は試してみたの?」
「ああ~。一応やったよ。だいぶ前だけど」
「その様子を見る限りでは駄目だったようね」
「うん。まあ、はっきり言えば精霊たちは気まぐれだからね。安定して出力を出すことが出来なかった」
 精霊たちの力を使えば、ある程度までコストを抑えて声を離れた場所へ届けることが出来る。
 だが、その精霊自体が気まぐれだったりするので、常に同水準の出力を出すことが出来なかったのだ。

「ああ、なるほどねえ。精霊が気まぐれなのは、よく言われていることだしねえ」
「ついでに言うと、その気まぐれも人に依存しているからね。使える人と使えない人がはっきり分かれるんだよ」
「なるほどねえ」
 精霊術は、特殊な聖法の一つに分類されている。
 精霊を操れるのは、それぞれの精霊の好みに分かれていると言われている。
 そのため、精霊術を使う個人が、その精霊の好みに合わない場合は、いくら技術を磨いても使役することは出来ない言われているのだ。
 それは術師に影響しない道具を使った場合でも同じで、例えるならスイッチを入れても光の濃さがその時々で変わってきてしまうのである。
 これでは、誰でも使える道具としては全く使えない物になってしまう。

「あ~あ。何か画期的な素材とか見つからないかなあ」
 都合の良いことを言う考助に、コレットがほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「もう何回も聞いているわよ、その台詞」
「そうなんだけどさあ。こうまで進展がないと、何度でも言いたくなってくるよ」
「焦らない焦らない。時間はたっぷりあるんだから、じっくりやって行けばいいじゃない?」
 何ともエルフらしい言葉に、考助はナナへと向けていた視線をコレットへと移した。
「まあ、そうなんだけどね。現人神なんかになる前の感覚が残ったままなんだよね。これが良い事なのか悪い事なのかは分からないんだけど」
「あら。別にいいんじゃない? そのたびに私とか他の人たちが釘を刺してくれるでしょう? 特にミツキあたりが」
「それはまあ、確かに」
 悪戯っぽい表情になって言うコレットに、考助はクスリと返すのであった。

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 その空気を呼んだのか、丁度いいタイミングでミツキが台所から戻って来た。
 丁度昼食の準備をしていたのだ。
「あら、ナナ。貴方も昼食食べていく?」
「ワフ!」
 その問いかけに、ナナが元気に返事をした。
 ミツキの食事の美味しさは、ナナにとっても同じなのだ。
「もうできたの?」
「大体はね。後は、人が揃うのを待って最後の一工夫するだけ」
「いつもいつもありがとうね」
「あら、突然何?」
「いや、何となく?」
「そうね。いつも美味しい物が食べられるのは、ミツキのおかげだものね」
 考助とコレットが二人で褒め称えると、逆にミツキは訝しげな表情になった。
「・・・・・・何かやらかした?」
「ない、ない。何もないよ」
 考助にしてみれば、何となく口にしてみただけだったのだ。
 特に深い意味はない。
「そう。ならいいけど。とにかく、昼にするんだったら食堂に行きましょう?」
「ああ、そうだね」
「賛成」
 考助とコレットは、ミツキに促されてようやく腰をあげて食堂へと向かうのであった。
結局十年以上たっても進展のない通信具の話でした。
本文中には出てきていませんが、魔力の電池もどきを使っても解決できません。
というよりも、ドーム(あえて何処とは言いませんw)いっぱいに電池を敷き詰めても出力が足りないような感じをイメージしていただけると良いかもしれませんw

(注)あくまでもイメージです。
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