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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 塔のあれこれ(その8)

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(4)きっかけ

 ミカゲを護衛と決めてから初めての登校日。
 登校途中のミアは、いつもと違う種類の視線を集めていた。
 右隣に兄がいるのはいつものことなのだが、左側にはミカゲが一緒に歩いている。
 そのミカゲに対して、誰だろう、という訝しげな視線が集まっているのだ。
 ミカゲ自身は、その視線を感じているのかいないのか、いつものように無表情を貫いている。
 ちなみに、護衛であるミカゲが隣を歩いているのは、ミアがそうするように言いくるめたからだ。
 複数の人数がいて前後を固められるのならともかくとして、前後どちらの攻撃にも対処できるようにするためには隣を歩いた方がいいと言ったのだ。
 それを聞いたミカゲは、少しの間考え込んでいたのだが、結局それを受け入れてミアの隣を歩いているのであった。

 周囲からの注目を集めて歩く中、朝の登校時にはいつもの襲撃は無かった。
 トワが隣を歩いていたことが影響しているのだろう。
 いつも一緒に登下校できるのであれば良いのだが、どうしても学園の用事で外せない場合もあるので、そういうわけにもいかない。
 そのためにミカゲという護衛が付くことになったのである。
 朝の登校時は、注目を集めたまま教室へと入ることができた。
 教室では、入学してから仲良くなっていたクラスメートからミカゲに付いて質問されたが、ミアは教師から説明があると言って躱していた。
 特に隠す必要はないのだが、自分が説明するよりも大人の教師から説明したほうがいいと考えたのだ。
 そして朝の挨拶時、クラスメートにミカゲがミアの護衛だと教師から正式に紹介されて、教室内は納得の雰囲気になった。
 そもそも王族が護衛も付けずにふらふら歩いていること自体がおかしいという感覚は、誰もが持っていたのだろう。
 ここ最近のミアに対する求婚(?)のことを知っているクラスメートたちはなおさらだった。
 普通に考えれば、一年間少なくとも表面上は護衛なしに学園生活を送っていたトワの方がおかしいのだ。

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「ミア様、驚きました。護衛を付けられたんですね」
 ミアたちが入学してからひと月が経っているが、未だにクラスメートたちはよそよそしい態度から変わっていない。
 トワの時は早めに馴染んでいたのだが、これはミアが悪いというよりも求婚もどき・求愛もどきの騒動が起こっているためでもある。
 同性の同級生にしてみれば、ひと月も経っていないのに次々と求愛されるミアに近づきがたい所があるのだ。
 そんな中にあって今話しかけて来た子は、多少は打ち解けてきていた同級生の一人だった。
「ええ。やはりその方が良いだろうと、母上と話したうえで付けることにしました。ご不快に思われたのでしたら申し訳ありません」
 ミアがちらりとミカゲを見ながらそう言った。
 その言葉に、目の前の同級生は慌てたように手を振った。
「不快だなんて、とんでもないです! 戸惑っているミア様を見て、皆と何かできないかと話をしていた所でしたから」
「あら、そうだったのですか」
「護衛を付けられたのでしたら、結局無駄になってしまいましたね」
 フフと笑いながらそう言った同級生を、ミアはじっと見つめた。
 嫌味を含んでいるのかどうかを見極めようとしたのだ。
 もっともそれはミアの邪推だったようで、その同級生は本心からそう思っているように見えた。
「無駄なんてとんでもありません。皆が私のために心を砕いていただいただけで十分です」
「まあ! ありがとうございます」
 ミアの言葉に、その同級生だけではなく周囲で二人の話を聞いていた何人かが嬉しそうな顔になっていた。
 彼らもその話し合いに参加していたのだ。
 素早く視線を向けたミアは、彼らの顔をチェックするのを忘れないのであった。

 穏やかに授業が進んで行く中、その状況に変化があったのは昼休みのことだった。
 昼食をとるために食堂へと向かったミアとミカゲだったが、その途中で一人の男子学生に呼び止められたのだ。
 学園には制服があるわけではないので、どの学年かは見分けることが出来ない。
 だが、残念ながらミア自身にその人物に心当たりがあった。
 以前から求愛してきている者の一人で、ミアとは一つ上の学年の生徒だった。
 顔だけを見れば、イケメンなのだがミア自身は彼の言葉にときめいたことなどは一度もない。
 その他に求愛してくる男子学生と同列にしか見ていない存在だった。

「お待ちください、ミア様」
 その声に周囲に見えないようにため息を吐いたミアだったが、傍にいたミカゲにはしっかりと見えたらしい。
 ミアの態度を見て警戒度を上げたのが分かった。
「・・・・・・なんでしょうか? これから昼食を取るので手短に済ませていただきたいのですが」
「おお、それはちょうどよかった。私もこれから昼なのです。一緒に取りましょう」
 何がちょうどよくて、何故一緒に取らなければならないのか。
 ミアにはさっぱり分からなかった。
 いや、彼が何を言いたいのかは分かっているのだが、現実逃避をしたくなっただけである。

 ミアの現実逃避は一瞬の間だったのだが、その隙にミカゲが動いた。
「ミア様とのお約束は無いはずですが、いつお約束されたのでしょうか?」
「君は、誰だ?」
 目の前の男の子は口を挟んできたミカゲに眉を顰めた。
「ミア様の護衛です」
「ふん。護衛か。護衛くらいで、二人の語らいを邪魔するな」
 そんなことをいう少年に、ミアは彼の脳内でどんなことが展開されているのか知りたくなってしまった。
 ミカゲがいるおかげで、そんなことを考える余裕が出てきたようである。
 これはいけないと思い直して、二人の会話に加わった。
「ミカゲは母上が正式に認めた私の護衛です。その護衛を「くらい」と仰るのですか?」
「あ、いや・・・・・・」
 ミアの思わぬ反撃に、少年がたじろいだ。
 たったそれだけの反撃でたじろぐのなら下手な威圧などしなければ良いのに、と思うミアだったがそんなことはおくびにも出さずに話を続けた。
「それはともかく、今日はミカゲと一緒に食事をとります。用が無いのでしたらこれで失礼いたします」
 今までにない態度で断られた少年は、そう言って頭を下げて去っていくミアを呆然と見送るしかできないのであった。

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「余計なことでしたでしょうか?」
 表情を変えずに心配気な声色で聞いてきたミカゲに、ミアは首を左右に振った。
「とんでもないです。助かりました。いい感じで断る理由が出来ましたから」
 あの少年がミカゲのことを「くらい」扱いしてくれたおかげで、自分がそれを不快に思っていることを理由にして断ることが出来たのだ。
 ミカゲには感謝しかない。
 それに、断る理由にしたことは事実だが、不快に思っていることも本当のことである。
 今までミアに求婚・求愛して来た者のほとんどが、ミア以外にそう言う態度をにおわせる行動をしていた。
 そのため傍にいることを良しとしていなかったのだが、これからはミカゲが良い盾になってくれそうである。

 この後、実技の時間ではミカゲがその実力を教師相手にいかんなく発揮したり、意外な(?)頭の良さを見せたりするのだが、それはまた別の話である。
 ミカゲが傍にいることによって不用意にミアに近づいてくる者がいなくなり、これまで多少固かったミアの態度もほぐれていくことになる。
 結果として、トワ同様に良い友人関係を築くことが出来ていくミアなのであった。
ミカゲの活躍の場も書こうと思いましたが、長くなりそうなので止めました。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ミカゲはデフレイヤ一族のサキュバスです。
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