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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 塔の外で色々やろう

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(12) 交神

 目を閉じて、周囲に漂う[常春の庭]の気配を感じ取る。
 それは、実際の[常春の庭]のものよりは、はるかに弱く残り香のような気配しかない。
 それでも、間違いなく[常春の庭]で感じた気配と同質のものである。
 自分を中心にして、その気配を探る。
 穏やかな水面に小石が落ちた時の波紋のように、自身の力を広げていく。
 その波紋で[常春の庭]を探ると、まるで別の波紋に当たった時のように、波紋が返ってくる。
 それを繰り返して、[常春の庭]の気配の発生源を探していく。
 神殿に存在するその気配は微弱なため、大きく強さは変わらないが、それでも強弱は感じ取れる。
 手繰り寄せるように、気配の強いところを探っていくと、やがてその中心を見つけることが出来た。
 それは間違いなく、この世界と[常春の庭]をつなげる接点であった。
 接点とはいえ、こちらの世界にその気配を漂わせるための穴が開いているとかではない。
 ごく自然に、その空間と[常春の庭]をつなげる「場」として存在しているだけである。
 だが間違いなくその接点と[常春の庭]が、繋がっていることが確認できた。
 それさえ確認できれば、あとは[常春の庭]で教えてもらった方法で、神力を使って呼びかけるだけだ。

『アスラ、エリス、この声は届いている?』
『ええ、ばっちり繋がっているわ。エリスのここでの教えが、やっと役に立ったわね』
『今回は無茶な方法を取らなくて安心しました』
『アハハハハ』
『・・・あら、ごめんなさいね。私は、これ以上は駄目みたい。また今度ね』
『うん。またね。・・・・・・相変わらず忙しいみたいだね』
『当然です』
『それでよく、この呼びかけに答えてくれたね。たった一言とはいえ』
『貴方からの呼びかけだったからでしょう』
『そうなの?』
『それ以外に、理由がありますか?』
『いや、どうなんだろ?』
『はあ・・・まあ、いいです。それはともかく、道の作り方は分かりましたか?』
『うん。まあ・・・ここを見つけて、なんとなく?』
『それでしたら、早くつないでしまった方がいいでしょう。いつまでも、そこに居座るわけにもいかないのでしょう?』
『畏まりました。エリサミール神様』
『・・・・・・何でしょう。貴方にそう呼ばれると、むずがゆくなります』
『うわっ、ひどっ』
『以前のようにふざけていますと、時間がいくらあっても足りないですよ?』
『おっと、そうだった。じゃあ、一旦切るよ?』
『はい、どうぞ』

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 考助がその場に胡坐をかき、目を閉じてから三十分ほどの時間がたっていた。
 その場にはもちろんコウヒやシルヴィアがいるのだが、それ以外にもその様子を観察する者が増えてきた。
 主にこの神殿に所属する神官や巫女だ。
 それもシルヴィアの見たところ、位の高い者が増えてきているように見て取れる。
 無理もないとシルヴィアは思った。
 考助は意識していないかもしれないが、考助が今実行していることは、聖職者たちが目指すべき到達点の一つである。
 考助の現在行っている姿勢や捉え方は、神殿に伝わっている正式な方法ではない。
 とはいえそれはさほど重要ではない。
 神殿に伝わっている方法でさえ、様々なやり方が伝わっているのだ。

 神秘に触れる。

 それさえ達成されれば、聖職者達にとっては手段や方法などは二の次なのだ。
 そして今、考助はそのための一つの形を、シルヴィアやその他の聖職者たちの目の前で示していた。
 考助が身にまとっているその雰囲気は、間違いなく神秘への一端へ触れていることが感じ取ることが出来る。
 位の高い者達ほど、その様子が見て取れるだろう。

 考助がほとんど動く様子を見せない中、それを見ていた聖職者達が、ざわめきだした。
 もちろん考助の邪魔にならないように、小声である。
 考助の様子を見ていたシルヴィアも当然それに気づいた。
 彼らは一様にある方向を見ていた。
 すぐにシルヴィアもその気配に気付いた。
 それも当然だ。
 その人物はシルヴィアの方に近づいてきていたのだから。
 振り返ってその人物を確認したシルヴィアは、目を丸くして慌てて頭を下げた。
「久方ぶりに姿を見せたと思えば、またとんでもない方を連れてきたものね、シルヴィア」
「・・・神殿長様」
 シルヴィアに挨拶をしながら、考助から目を離さないその女性は、この神殿を統括する神殿長だった。
 ある時までは、この神殿に所属していたシルヴィアも当然面識があった。
 だがその神殿長は、シルヴィアに対して、わずかに悲しそうな表情を見せた。
「・・・相変わらず許してはもらえないのね」
「そんなことは、ありませんわ。私自身は、もう昔のこと、と割り切れておりますわ。・・・ですが、理由はどうあれ、私は既に神殿を離れた身ですわ。周囲の者は許さないでしょう」
 シルヴィアのその言葉に、神殿長はため息を吐いた。
「・・・相変わらずのようね。・・・何はともあれ、元気そうでよかったわ」
「はい。神殿長様も」
「ありがとう。・・・ところで、そちらのとんでもない方は、紹介してもらえるのかしら?」
 シルヴィアがその問いに反射的に答えようとした瞬間、シルヴィアはコウヒからの視線を感じた。
 すぐにその視線は、考助の方へと移った。
 だが、シルヴィアにはその視線の意味はすぐに分かった。
「・・・いえ。申し訳ありませんわ。できれば、この方が目覚めるまで、お待ちいただけますか?」
 シルヴィアのその答えに、神殿長は一瞬だけ目を丸くして、すぐに笑みを浮かべた。
「・・・そうね、そうしたほうがいいでしょう。それまでは、私も勉強させてもらいます」
 神殿長はそう言って、考助の姿が確認できる近くのベンチに腰かけた。
「あなたも腰かけたらどう?」
「いえ、ありがとうございます。ですが、私はこのままでよろしいですわ」
「そう」
 神殿長は、そう言って頷き、考助の方へと目を向ける。
 その目は完全に、高位に位置する聖職者としての目になっていた。

 結局考助が目を開けたのは、目を閉じてから約一時間後のことであった。
 目を開けて最初は眩しそうな表情していた考助は、すぐそばに控えていたコウヒに問いかけた。
「どれくらい時間たった?」
「一時間ほどです」
「・・・時間の感じ方が、全然違うな。接続に時間がかかったせいかな?・・・・・・おっと」
 その場から立ち上がろうとした考助は、よろめいてコウヒに支えられた。
 一時間近く同じ姿勢で、ほとんど動くことがなかったのだから、無理もないだろう。
「大丈夫ですか?」
「うん。・・・大丈夫」
 考助はそう言って、今度はシルヴィアの方を見た。
「シルヴィア、法具持ってる?」
 法具とは、聖職者たちが常に身に着けている、いわば十字架のようなものである。
 いきなり言われたシルヴィアは、戸惑った表情をした。
「もちろん、持っていますわ・・・ですが、それよりも、紹介したい方がいるのですが・・・」
 シルヴィアはそう言って、神殿長の方を見た。
 考助も神殿長の身に着けている巫女服を見て、高位の聖職者だと推測した。
 だが、考助の方も先にやっておきたい事がある。
 神殿長の方を見て、頭を下げた。
「・・・申し訳ありません。紹介いただけるということですが、もうしばらくお時間をいただけないでしょうか? どうしても先にやっておきたいことがあるのです」
 考助のその顔を見て、神殿長も頷いた。
 何よりも、長年聖職者として務めてきた勘のようなものが、働いていた。
「勿論構いません。むしろその、やっておきたいということを見せてもらってもいいかしら?」
「ええ。お待ちいただけるのですから、構いませんよ」
 考助は頷いて、シルヴィアの方を見た。
 シルヴィアは、慌てて首から下げていた法具を取り出した。
 シルヴィアの法具はペンダント形式になっている物である。
 それを受け取った考助は、再び胡坐を掻き、今度はその法具を手の上に載せて、再び目を閉じるのであった。
2014/5/11 誤字脱字修正
2014/6/9 誤字訂正
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