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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 塔のあれこれ(その7)

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(13)里の行く末

 考助はエルフの里を訪れた後に、サキュバス達がいる階層に来ていた。
 ヴァンパイア、エルフとそれぞれの町を訪れたので、ついでにサキュバス達の様子を見ようと考えたのだ。
 最近では、それらの亜人たちの里を訪れることが無かったので、丁度いい機会だと思ったのだ。
 第七十九層に着いた考助は、ミツキを伴ってサキュバスの集落を訪れた。
 ピーチはともかく、考助やミツキがこの里を訪れることは滅多にない。
 里が安定するまで結構顔を見せていた頃は別として、デフレイヤ一族の活動が安定しだしたころからほとんど足を運ばなくなっていた。
 そのため、後から来たアイスラー一族の者達で考助の顔を知らない者は珍しくはない。

 考助は、ピーチを連れてくればよかったと内心で反省しつつ、今にも動き出しそうなミツキを視線で抑え込んだ。
 そうでもしないと、今にも目の前のサキュバスを倒してしまいそうな雰囲気だったのだ。
 その原因は明白で、考助達に突き付けられている抜身の剣にある。
 その剣の持ち主は、考助に剣を突き付けながら厳しい顔をしていた。
「一体どうやって、ここに入って来たんだ! さっさと答えろ!」
 完全に不審人物として認識しているようだった。

 そもそもサキュバスの里がある階層に来るためには、限定された者が使える転移門を使わなければ入ってこれない。
 脅そうが何をしようが、個人個人で持っている魔力紋が登録されているので、例え転移門がある場所がわかっていても使えない。
 だが、その男はそうした事実をすっぽり忘れてしまったのか、それとも最初から知らないのか、考助達を見つけるなり剣を突き付けて来たのだ。
 ミツキにしてみれば、無礼の一言なのですぐに対処をしようとしたのだが、それを考助が何とか押しとどめた、というのが現在の状況だった。
 裏の活動を行っているサキュバスが、考助の顔を知らない状態で大丈夫なのか、思わなくはないが今はこの状況を収めるのが先である。

 考助が話をしようと口を開こうとした瞬間、その騒ぎに気付いたのか、別のサキュバスがやって来た。
「どうした? 何があった?」
「こいつがいきなり転移門からやって来た」
「何?!」
 加わったサキュバスは、驚いた表情で考助達を見てきた。
「一体どうやって・・・・・・いや、ちょっと待てよ?」
 だが、そのサキュバスが驚いた表情を浮かべたのは少しの間だけで、すぐに首を傾げた。
 転移門を使うための特殊な条件を思い出したのだ。
 そして、その条件を満たしてこの転移門を使える人物を思い浮かべ・・・・・・ようとしたところで、そのサキュバスの表情が段々と青くなってきた。
 目の前にいる人物が誰なのか、思い至ったのだ。
 考助にとって幸運だったのが、そのサキュバスがアイスラー一族の中でも要職に就いている人物で、考助の情報をしっかりと持っていた事だ。
 目の前にいる二人の人物が、完全に聞いていた特徴と一致するのを確認して、考助達のことを特定するに至った。
 そして次の瞬間、変わらず考助達に剣を向けていた男の頭を抑え込んで無理やり頭を下げながら、自身も深々と頭を下げた。

「も、申し訳ありませんでした!!!!」

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 デフレイヤ一族の長であるジゼルの屋敷に着いた考助達は、すぐにジゼルとカミラに頭を下げられた。
「いや、もう当人たちに十分謝ってもらいましたから」
「いや、そうはいきません。教育が行き届いていなかったのは、我々の怠慢です」
「そうです」
「そうは言ってもね。ピーチを連れて来ないで、さらに連絡もなしに来た僕も悪いでしょう」
 考助の言葉にジゼルとカミラの二人は首を左右に振った。
「それは関係ありません。転移門の特殊性についてしっかり伝えていなかったのが悪いのです」
「門から来れるのが関係者しかいないのだから、いきなり剣を向けるなどもってのほかです」
 言葉を重ねてくる二人に、これ以上考助が何を言っても無駄だろうと悟った。

 この話題を続けてもお互いに良い思いにはならないと察した考助は、さっさと話題を変えることにした。
「ま、まあそれはともかくとして、しばらく来れませんでしたが、里の様子はどうですか?」
 あからさまな話題転換だったが、長の二人もそれに乗って来た。
「変わりありません」
「コウスケ様には、一族にとって安全な場所を提供していただいたことを感謝しています」
 カミラはそう言って頭を下げた。
 実は既に、同じような言葉は来るたびにもらっている。
 デフレイヤ一族もそうなのだが、アイスラー一族も塔に保護されなければ、存亡の危機だったのだ。
 それだけ感謝の気持ちは深い。

「安全と言ってもモンスターは出てきますがね」
「それはですが、この世界でモンスターの出てこない場所はありません。むしろモンスターが入ってこれない結界で覆われているだけで、十分です」
「そうですね。夜に安心して眠れるというだけで有難い」
 カミラの言葉に、ジゼルがカラカラと笑った。
 若い者達の訓練のために見張りを立ててはいるが、結界で覆われている里は基本的には見張りは必要が無い。
 それだけでも十分天国と言える状態なのである。
 そして、その状況がある変化をもたらしていた。

「下世話な話になりますが、夫婦の夜の時間も増えたようでしてね。出産率が上がっているようです」
 ジゼルの意外な言葉に、考助は目を瞬いた。
「そうなんですか?」
「ええ。じわじわとですが」
「デフレイヤ一族だけではなく、アイスラーでも同じですから間違いないかと。意外な効果が出ていると驚いています」
 流石にそれは考助も驚いた。
 モンスターどころか敵となる者達の襲撃のない環境では、家族たちが安心して生活していることがよくわかる変化だった。

「出生率も増えた上に、若年層の死亡率も下がってますからね。確実に一族の数は増えて行っています」
「何十年後になるかは分かりませんが、千人規模の里になるのもあり得るかもしれませんね」
 何とも気の長い話だが、今の様子を見ている限りではありえない話ではないのだ。
「それはまた、ずいぶんと先の話になりそうですね」
 考助がため息を吐きながらそう言うと、長の二人は何とも言えない表情になった。
「まあ、恐らく我々がそれを見ることは叶わないでしょうが、コウスケ様には是非とも里の将来を見守っていただきたいですね」
「我等の里の繁栄は、コウスケ様と共にあることを誓います」
 突然そんなことを言いだした二人に、考助は戸惑った表情になった。
 今までそんなことを言って来たことは一度もなかったのだ。

「そんな表情をしないでください」
「我々も安住の地を得ることが出来て、ようやく明るい一族の将来を見据えることが出来るようになったという事ですよ」
「そうですか」
 二人が殊更に明るい表情で言うのを見ながら、考助は神妙な表情で頷いた。
 どう考えてもこの二人より先に考助が寿命で逝ってしまうことは無い。
 改めてそのことに思い至った考助は、若干さみしい気持ちになったのである。
 表情からそれを察したジゼルが、何ともないような表情で付け加えた。
「コウスケ様には、里の行く末を見守るという大仕事があるので、是非とも結果を見届けてほしいですね」
 初めて会ったときはただのヒューマンだった考助が、まさか現人神になるなんて考えていなかった。
 その考助が神の一員に加わったことにより、一族の行く末を見守ってもらうというのは、ジゼルの夢の一つとなっていた。
 初めて聞くその言葉に、考助は思わず言葉を詰まらせた。
 そんな考助の戸惑いを見抜いたのか、ジゼルはそれを吹き飛ばすように笑って言った。
「何。難しく考える必要はないのですよ。出来ることならで構わないので、たまにこうして様子を見に来ていただければいいのです」
 そう言って笑顔を見せるジゼルの隣では、カミラが深く頷いていた。
「はい」
 何となく気恥ずかしい気持ちになった考助は、そう短く返答するのであった。
最初に考助に突っかかった若い衆は、考助が管理層に戻った後でしっかりとお叱りを受けております。
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