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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 塔のあれこれ(その7)

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(6)冒険者養成校

 第五層にあるクラウン本部のほど近くに、賑やかな子供たちが集まっている建物があった。
 子供たちは建物の入口から出ようとしている所だった。
「アリサ先生、さようなら~」
「はい。さようなら」
 子供の一人が、入口付近に立っているアリサに挨拶をして去って行った。
 その子供を皮切りに、次々と子供たちが挨拶をしてその場から立ち去って行く。
 最後の子供の一人がいなくなるのを確認してからアリサは、建物の中に入ろうとしてすぐ傍にニヤニヤしながら様子を見ていた同僚に気付いた。
「・・・・・・何?」
 アリサと年が近いラダは、ここで勤務するようになってから真っ先に仲良くなった同僚の一人である。
「いんや~、何も。相変わらず子供たちに慕われているわねー、と思ってね」
 からかうような表情をしているラダに、アリサは肩をすくめる。
「・・・・・・私も孤児だからね。話がしやすいのよ、きっと」
 アリサの言葉に、ラダはしまったという表情になった。

 アリサは、元々孤児で成人してから上手く稼げずに、奴隷落ちしたという履歴の持ち主だ。
 その後は何の因果か、考助に拾われる(?)ことになるのだが、そこまではラダは知らない。
 仲良くなってから、酔った勢いで奴隷になった時のことを聞いた際に聞かされたのだ。
 意図せずアリサの過去を聞いてしまったラダは、今でも後悔をしている。
 もっとも、聞かれたアリサは全く気にしていなかったりする。
 今では、奴隷落ちをしたからこそ、考助と出会えたという思いさえあるのだ。
 セシルもそうだが、アリサは考助に対する敬愛の念を未だに忘れたことは無い。
 ちなみに、考助の次に敬愛の念を持っているのは、彼女に精霊術を教えてくれたコレットだ。

「・・・・・・ごめん」
 唐突に謝ったラダに、アリサは顔をしかめた。
 アリサとしては全く気にしていないのに、逆に謝られるとこちらが気を使ってしまうのだ。
「だから、前も言ったように気にしてないって。この話題が出るたびに謝らなくていいから」
「・・・・・・わかった」
 ことさら明るく言うアリサに、ラダは小さく頷いた。
 そして、その後はいつものように笑顔を見せた。
「よっし。それじゃあ、書類仕事を片づけてしまいましょうか」
「その方がいいわ。子供たちが待っているんでしょう?」
「そうだった!」
 アリサの言葉に、ようやくそのことに思い至ったのか、ラダは急ぎ足で仕事机がある部屋へと向かうのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 アリサが今いる場所は、クラウンが設立した職業訓練校の一つである冒険者養成校だ。
 基礎課程を通過した子供たちは、それぞれの希望を聞いたのち専門の養成校に振り分けられる。
 冒険者養成校は、その専門の養成校の一つなのである。
 他には工芸部門や商人部門もある。
 もっとも、現在職業訓練校で学ぶ子供たちのほとんどが孤児であるため、手っ取り早く稼げる冒険者養成校に進む子供が多い。
 他の二つの養成校に比べて、養成期間に背負うことになる借金が一番少ないのだ。
 何故なら冒険者養成校は、午前中に座学を行い、午後からは教師付きで実践を行うことになる。
 その際に出たモンスターの素材は、全て養成校の物になるのだ。
 そこから養成校の運営費の一部も賄っているため卒業する前にかかる費用が割安になっている。
 孤児であるために身一つしかない子供にとっては、より借金の額が少ない冒険者養成校に流れるのは当然のことなのだろう。

 養成校で学ぶ子供たちは、学費がかかる。
 勿論、学費を一括で払えれば何の問題もないのだが、孤児の子供たちが払えるような額ではない。
 そのため、借金と言う形でクラウンに支払ってもらい、後々冒険者として独り立ちした際に、収入の一部から天引きされることになっているのだ。
 もっとも、子供たちの多くはそのようなシステムを完璧に理解しているとは言い難い。
 ではなぜ彼らが養成校に通うのかと言うと、単純な話で腹いっぱい食べられる昼食が出るからである。
 考助の昼ご飯を出すという提案は、こちらで生かされている形だ。
 その日食べる者も困ることさえある孤児たちは、昼が食べられるという事だけで、十分に養成校に通う意味があるのだ。
 残念ながら、養成校もようやく設立したばかりなので、卒業生はまだ出ていない。
 卒業生が冒険者として活躍するようになるのは、もうしばらく先のことになるだろう。

 その養成校でアリサが教えているのは、当然精霊術という事になる。
 例え使えなかったとしても、精霊術に対する対処方法を知るだけでも大違いだからだ。
 更に、精霊術が使えるのは、人間やエルフだけの特権ではない。
 モンスターの中には精霊術を使える者がいるのだ。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 今日の授業の結果を書類にまとめていたアリサだったが、横に積み重なっていた書類に自分以外の手が伸びて来たことに気付いた。
「ちょっと・・・・・・!?」
「あら。あの子は精霊術の素質がありそうなの?」
 自分の書類作成に飽きたラダが、ちょっかいを掛けて来たのだ。
「もう。・・・・・・まだ見極めるのには時間が足りないわよ。今のところ、ひょっとしたらという段階ね」
「ふーん。凄いじゃない」
「そうかな?」
 首を傾げるアリサに、ラダがため息を吐いた。
 そろそろそれなりの付き合いになるアリサは、時々常識の枠から外れている時がある。
 特に自分の能力に関しては、それが顕著である。
 この時も自分を基準に考えているために、子供に対する評価が低くなっているのだ。
 Aランクに限りなく近いといわれているBランク冒険者であるアリサと比べること自体が間違っている。

「そうなのよ。そもそも精霊術を使えるだけでも大したものよ?」
「まだ、使えていないのだけれど?」
「使えるかも、というだけでもすごいのよ」
 エルフ達の専売特許に近い精霊術は、人間が使うことはほとんどない。
 セシルやアリサは、その稀有な存在なのだ。
 奴隷と言う立場でなければ、間違いなく他国からの引き抜きがされていただろう。
 現に表向きの所有者になっているクラウンには、権利譲渡の相談が山と来ている。
 本来の所有者が考助になっている上に、本人たちにその意思が欠片もないために、全て断っているのが現状だったりする。
 その精霊術を使える子供がいると知られれば、どういう事になるかは想像するに難くないだろう。

「この子に限らず、他の子達の中にも光る物を持っている子達がいるでしょう?」
「そうね。やっぱり放り出される前に訓練が受けられるのは大きいわね」
 自分の昔の時のことを思い出して、ラダは目を細めた。
 彼女に限らず、冒険者を目指す子供は、基礎訓練など受けずにフィールドを駆け回るのが当たり前なのだ。
 それを、教師の監視付きで安全に訓練に励めるなど、冒険者を目指す者にとっては最高の環境だろう。
 クラウン側にしても、無駄に初心者を失う事が無くなる。
 子供たちはともかく、養成校で教師になった者達は、それがよくわかっているので、クラウンの予想以上に熱意のある教師が多いのだ。

 諦めずに最後まで養成校で育った子供たちは、少なくとも不用意に死に至ることは少なくなるだろう。
 まだ設立されたばかりで独り立ちした冒険者はまだいない冒険者養成校だが、少なくとも教師たちはそのことを確信しているのであった。
本文でちらりと出てくる基礎課程は、それぞれどういう職があるかを教わる場所です。
あとは四則演算や文字を学ぶくらいです。
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