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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 塔のあれこれ(その7)

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(2)教師の権限(前編)

 ラゼクアマミヤ王国の初の学校・聖アマミヤ学園は、多くの貴族の子女たちが集められ順調に運営されていた。
 初めての大規模な教育機関の開始だったが、関係者の不安を余所に特に大きな混乱が起きることもなく各所で授業が始まっていた。
 授業があるのは午前中のみ。
 午後からは、自由時間となっている。
 実はこの自由時間が曲者で、各自で好きな授業が受けられるようになっている。
 午前中の授業は座学で、必須の授業。
 午後からは、芸術だったり武術だったり、専門の授業を取ることになっているのだ。
 勿論、専門の授業は取らなくても卒業できる。
 空いた時間を使って、お茶会などを開くことも可能なのである。
 集められているのは、貴族の子供たちなので実はこちらのお茶会の方が重要だと見ている親たちもいるだろう。
 何しろ将来の派閥を決めることになり兼ねないのだから。
 といっても集められている子供たちは、一番下の年齢が十歳の子供だ。
 どこまで重要性を理解しているかは甚だ疑問だろう。
 ただし、今回初めて集められているので、十五歳の子供もいる。
 そこまで成長していれば、親の意向を組んで交流を深めようとする者も出てくるだろう。
 学園側は、それはそれで構わないと考えている。
 勿論、正式に推奨しているわけではなく、黙認しているという形だが。
 ラゼクアマミヤとしてもこうして幼いうちからグループ作りに励んでもらった方が良い面もあったりする。
 そのため、敢えて禁止するほどの事でもない、という態度を取っているのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 学園が開始してから二か月。
 王族として順調に交流を深めたトワは、何人かの友人たちを引き連れて、校内の廊下を歩いていた。
 今は午前の授業が終わり、昼食休憩に向かおうという所である。
 校内には、食事を出す食堂もしっかりと用意されているのだ。
 その食堂へと向かっている最中のことであった。

 ある教室でちょっとした人だかりが出来ていた。
 それを気にして、傍にいた友人の一人が指を差した。
「あの人だかりは、何でしょうね?」
 聞かれたトワも首を傾げる。
 一緒に歩いてきたのだから当然分かるはずもない。
「さあな? 喧嘩か何かでもあったか?」
 もし騒ぎが大きくなれば、自分の出番があるかも知れない。
 貴族たちが集まる学校では、そうした仲裁も王太子であるトワには求められることがある。

 どうせ自分が関わることになるのだろうと、トワは自らその集団に近寄って行った。
 面倒事なのは間違いないが、避けるわけにもいかない。
「どうした? 何があったのだ?」
 教室のドア付近に立っていた生徒の一人に、トワが何気なく話しかけた。
 騒ぎの方に夢中になっていたその生徒は、話しかけて来たのがトワであることも気づかずに、答えを返して来た。
「ニコ侯爵家の跡取りが、セシル先生に文句をつけているらしいぜ?」
「セシル先生に? また、何故?」
「何でも、奴隷が教師になるのは・・・・・・っ!?」
 ふさわしくない、と続けようとしたところで、その生徒は自分に話しかけて来たのがトワだと気づいてギョッとした。
 この二か月で、トワの顔も順調に知られてきていた。

 それと同時に、自分の言葉を聞いたトワがその内容に顔をしかめていることに気付いたのもある。
 自分の言葉がトワの機嫌を悪くしたのかと思ったのだ。
 その様子に気付いた友人の一人が、その生徒にフォローした。
「ああ、心配するな。其方のせいではない」
 そのフォローにホッとしたような表情になる生徒。
 自分の言葉一つで表情を変える生徒に内心でうんざりしつつ、トワは表情には出さずに一つだけ頷いた。
 それに、そんなことよりも今はやらなければいけないことがある。
 その問題を解決るすべく、トワは人ごみの中を突き抜けていくのであった。

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 学園の教室は、二十人ほどが座れるように机が置かれている。
 それらの机を避けるように、人垣が出来ておりその中心には、話題の人物二人がいた。
 トワと同年代の少年が一人。こちらは、先ほどの生徒が言っていた侯爵家の跡取りだろう。
 もう一人は、この十年で何度も顔を合わせたことがあるセシルだった。
 セシルは、トワが学園に入る前に精霊術を教えてくれた教師の一人なのだ。
 トワの入学に合わせるように、セシルも精霊術を教える教師の一人として配属されているのだ。

「なぜ私が、其方ごときの指示を受けねばならん、と言っているのだ!」
「ですから、それも先ほどから言っているように、教師である私の言う通りにしていただかないと危険だからです」
 尊大な態度でセシルに物言いをつける少年に、トワは一瞬で状況を理解した。
 セシルの方はと言うと、困っているというよりも、あきれ果てているという表情になっていた。
「其方ごときに、私が危険な目になど合うものか!」
 あくまで強気な態度を貫く少年に、セシルはため息を吐いた。
 それを見咎めた少年が、さらに言葉を続ける、
「その態度は何だ?! 奴隷ごときが、私にしていい態度ではないだろう!」
 これはもはや何をしても言掛りを付けてくるだろうと、セシルはそれ以上は何も言わなかった。
 トワが現れたのは、丁度その時だった。

「では、私であればいいのか?」
 突然割り込んできたトワに、少年は一瞬だけギョッとした。
 一目でトワが誰かという事が理解できたのだろう。
 だが、驚いていたのは一瞬で、その表情はすぐに余裕に満ちた表情になった。
「これは王太子殿下。ご機嫌麗しゅう」
 いかにも親もしくは家庭教師に習ったと言わんばかりの少年の挨拶に、トワは特に感情を見せずに頷くだけで挨拶を返した。
「それで? この騒ぎの理由を聞こうか」
「殿下が気にすることはありません。この者の躾を私が行っているだけですので・・・・・・」
 更に言葉を続けようとする少年に、トワは手を上げるだけでそれを止めた。
「躾? 其方は何を言っているのだ? 其方の目の前にいるのは、この学園の教師の一人だぞ?」
「殿下は、奴隷ごときに私達の教育が出来るとお考えですか?」
 年齢にふさわしく、感情を隠すことなくあざけるような表情をトワに向ける少年。
 本来であれば、そのような表情を王族に向ければ、いい結果を迎えるはずがないのだがトワはそれをスルーした。
 学園は、そうしたことを学ぶ所でもあるとしっかりと理解しているのである。

 トワは、目の前の少年に呆れたようにため息を吐いた。
 ちなみに、この時点で少年の名前を確認する気はなくなっている。
 「ニコ侯爵家の跡取り」だけで十分だろう。
「セシル先生は確かに奴隷だが、学園が選んだ教師の一人だぞ? 当然出来ると考えているが?」
「な、何を!?」
「ついでに言えば、セシル先生を教師として選んだのは学園だが、学園を運営しているのは王家なのだが? 其方は、王家に対して文句を付けるのか?」
「そ、そのようなことは!」
 必死に首を左右に振る少年に、トワは再びため息を吐いた。
「であれば、先ほどのような言葉が出てくるはずがないと思うのだが?」
「も、申し訳・・・・・・」
 頭を下げようとした少年に、トワはそれを遮った。
「謝る相手が違うだろう?」
 その言葉を聞いた少年は、トワが何を言いたいのか理解したのか、ギュッと歯を食いしばった。

「済みませんでした!」

 謝っているのか、睨み付けているのか分からないような態度で一言そう言った後、少年はすぐに教室から駆け出て行った。
 その態度から、少しも反省していないのはまるわかりである。
 トワも今回はそれでいいと考えた。
 今は、少年そのものよりも、周りで見ていた生徒たちに王家としての方針をはっきりと伝える方が重要なのだ。
「そう言うわけだ。其方たちも教師たちにくだらない態度を取れば、学園から処罰があると心得た方が良いだろう」
 トワは、周りで見ていた集団にそう付け加えた。
 実際、学園の教師は王国の貴族の子女を教えるために、学園内ではそれなりに強い権限がある。
 そうでなければ、貴族の子供たちを教えることなど出来ないのだ。
 そのことを生徒たちに、ある程度理解させることが出来ただろうと考えるトワなのであった。
ト、トワは十歳ですよ?
・・・・・・タブン。
着々と王太子として育ってきたトワでした。

馬鹿侯爵の跡取りの話は次に続きます。
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