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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 大氾濫

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(7)終結

 無事にリーダー種を討伐した後は、狼達が残っているモンスター達を減らすだけになった。
 ただ、その時点で既に二千以上いたモンスターは、三分の一以下までに数を減らしていた。
 只でさえリーダー種の指示を受けられずに、まともな連携が取れていなかったモンスター達だが、リーダー種が討伐された後は烏合の衆と化していた。
 こうなるともはやただの作業と言って良い。
 だからと言って相手はモンスター。
 油断できる相手ではないのだが、狼達はその役割をしっかりと果たしていた。
 狼達はモンスターの数を減らすべく、残るモンスター達へと攻撃を加えていくのであった。

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 遠目で森の様子を窺っていた混成軍だったが、突如別の意味で騒がしくなってきた。
 狼達が次々とモンスターを葬っていく様子を感嘆と共に見ていたのだが、突如森から大きな影が躍り出て来たのだ。
 あるはずの結界を容易に乗り越えて来たその影は、真っ直ぐに軍の拠点へと向かって来る。
 先程の様子を考えれば、大氾濫で発生してたモンスターを討伐していた狼の一匹だと分かっているはずなのだが、姿はモンスターそのものだ。
 当然のように、襲撃に備えるべく各々が武器を構えだした。
 だが、武器を構えたのはラゼクアマミヤの討伐軍で、冒険者たちはそれを止める方に回っていた。
 この時点で冒険者はある噂を思い出していたのだ。
 即ち、モンスターに襲われそうになって命を散らしそうになっていた冒険者が、とある巨大な狼に救われる話である。
 いつしか塔の守護獣と呼ばれるようになっていたその狼だが、あくまでもぎりぎりの戦闘を行って来た冒険者の妄想、あるいは幻覚だろうと思われてきた。
 直接助けられた冒険者は、そんなはずはないと主張していたが、そんな話をまともに受け取る冒険者は、この日までいなかった。
 だが、幾度となくそうした話を聞いてきた冒険者たちは目の前にその実物を見て、この狼がその噂話の主だろうと確信していた。
 何より、その首に付けている従魔の首輪がその証拠となっている。
 信じられないことに、目の前にいる狼は誰かに従魔として飼われているのだ。
 噂話を知らない討伐軍の者達も、狼が近づくにつれてその首輪に気付いた。

 どのようにしていいのか戸惑う討伐軍に対して、ある号令が掛けられた。
「構え、とけ!!!!」
 広い拠点に響き渡るその号令は、討伐軍に対してすぐさま戦闘態勢を解かせる命令となった。
 もっとも討伐軍は無条件にその命令に従ったわけではない。
 命令を下したのが、アベラルド千人隊長その人だったのだ。
 軍において上官の命令は絶対。
 そしてそれだけではなく、アベラルドのすぐ傍には彼らが主とするフローリア女王の姿があった。

 討伐軍だけではなく冒険者たちからも注目を受けながら、フローリアはアベラルドと護衛達に守られながら歩みを進めて行った。
 最終的には、集団の端っこまで行きナナの前にまで出て来た。
「フローリア女王」
 アベラルドがナナを警戒しつつ、フローリアの前で剣を構えようとした。
 それを手で止めたフローリアは、ゆっくりとナナの所へとさらに進んで行った
 ナナも周囲を気にしつつ、フローリアへと近づいてきた。
 ここまでくれば、周囲の者達も警戒を解いてしまっている。
 先程まで暴れまくっていた狼だ。
 襲おうと思えば、一足とびで襲って来る範囲に入っている。
 目の前の狼が襲う気が無いのは一目瞭然だった。

「お疲れ様、ナナ。終わったか?」
 周囲の視線を余所に、フローリアが気軽にナナの首筋に手をやり撫で始めた。
「キャウン」
 フローリアの問いかけに、ナナが短く返事をする。
「そうか。む? 折角のきれいな毛が血で汚れているぞ?」
 フローリアが撫でていた首筋のある場所に、モンスターの返り血があるのを見つけた。
「クウ?」
 指摘されたナナが、恥じるようにその辺りを舌でなめ始める。
 その様子を見ていると、飼い犬と全く変わらない。
 とても先ほどまで、縦横無尽に戦場を駆け抜けていた狼とは思えなかった。

 それを見ていたアベラルドが、フローリアに近寄ろうとした。
 だが、ナナはそれを許さないように唸り声を上げた。
 考助の傍にいる普段の様子からは信じられないが、基本的には許した者しか近づけない性格なのである。
「アベラルド、不用意に近づくな」
「は。し、しかし・・・・・・」
「馬鹿者。私がこうしていられるのも、あくまでも普段から『あの方』の傍にいるからだ。下手に動いて刺激しても私には止められないぞ?」
 掛け値なしの本音を言うフローリアに、アベラルドの表情が変わった。
 とてもではないが、目の前の巨狼が本気で襲い掛かってくれば、自分の命はあっという間に刈り取られると分かっているのだ。

「すまんな、ナナ。これ以上は、余計な騒ぎになりそうだ。後はこちらに任せておくといい」
「ワフ」
 アベラルドの様子を見て、周囲の緊張が限界に来ていることを察したフローリアが、ナナにそう提案した。
 それを聞いたナナは、短く返事を返してあっという間にその場から離れて行く。
 とてもではないが、人に追いつけるような速度ではない。
 人々の視線に見守られながら、その巨体を森の中へと躍らせるナナなのであった。

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 ナナが消えた後、混成軍は戦後処理を行うことになった。
 戦後処理と言ってもモンスターの討伐は、ほぼ狼達が行っている。
 混成軍が行うのは、討伐されたモンスターの死体を処理することだ。
 何しろモンスターの素材は、塔にとっての重要な資源である。
 起こったのが氾濫であっても、モンスターから得られる素材が重要であることに変わりはない。
 特に冒険者たちにとっては重要な収入源になる。
 倒されたモンスターの素材の剥ぎ取りと死骸の処理は、主に冒険者たちが行うことになった。

 討伐軍は、その間に氾濫が発生した原因を調査することになった。
 ただ、氾濫が発生した原因は、常に後で調査することになるので、はっきりした原因がわかることは無い。
 過去の冒険者たちの話から、最近この辺りでは冒険者が入り込むことが少なかったことがわかっている。
 そのためモンスター同士での縄張り争いが行われ、その中でリーダー種が誕生してしまったのではないかと結論付けられた。
 あくまでも推測でしかないが、他に原因らしい原因も見つからなかった。
 その他にも塔特有の原因があったのではないかとくまなく調査されたが、特にそれらしいものは発見できなかった。
 はっきり言えば、塔の外で発生している氾濫と比べて何ら違いは無かったのである。

 第四十一層から引き揚げてから数日たってその報告書を確認したフローリアは、これ見よがしにため息を吐いた。
 はっきりとした原因がつかめるとは思っていなかったが、それでも何かの手掛かりくらいは掴めるかと考えていたのだ。
 だが、その結果ははっきり言えば、何もわからないという物だった。
 とは言え、こればかりは部下たちを責めるわけにもいかない。
 考助達も塔側に原因があるかを検証したが、結局分からないという事になっていた。
 出来ることなら氾濫の発生原因がつかめれば、対処もしやすくなると考えていたのだが、そうそううまくは行かないようである。
 セントラル大陸の歴史は、モンスターの氾濫との戦いであると言ってもいい。
 それは、今後も変わることなく続くようである。
 そして、そのフローリアの予想は違えることなく、ラゼクアマミヤ王国の歴史はモンスターの氾濫との戦いであると言ってもいい物になるのであった。
結局モンスターの氾濫の原因は分からずじまいです。
ある程度の予想はたてていますが、それが直接の原因であるとは言い難い物です。
ラゼクアマミヤと氾濫は、歴史上切っても切れない物であるというものになって行きます。
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