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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 大氾濫

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(6)成長

 考助がわざわざ結界を張ったのは、逃げ出すモンスターが出ないようにだ。
 要は守るために張ったわけではなく、逃げ出さないように張ったのである。
 その目論見通り、リーダー種の配下のモンスター達は指示を受け取ることも出来ずに、狼達の襲撃を受けていた。
 当然、モンスターも応戦はするのだが、狼達にはかなわない。
 普段から連携している狼達と、リーダー種のカリスマによって統率されていたモンスター達の差がまともに出ていた。
 勿論狼達も全くの無傷で、というわけではないのだが、モンスター達の損害に比べれば微々たるものだ。

 そんな狼達の様子を時折視界に入れながら、ナナも本来の姿に戻って次々とモンスターを葬っている。
 本来の姿に戻っているのは、考助の許可が出ているからだ。
 鋭い爪と牙を使って、せっせと目の前にいるモンスターを倒して行く。
 それはほとんど作業になっていた。
 一矢報いようとするモンスターはいるが、それを全く寄せ付ける様子もない。
 誰かがこの様子を見ていれば、その蹂躙ぶりにモンスターを気の毒に思ったかもしれない。

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 狼達が順調に周囲にいたモンスターを減らしている頃。
 使天童子のソルは、リーダー種と死闘を繰り広げていた。
 ソルの腰以上の太さがありそうな腕から繰り出される鈍器の攻撃を躱しながら、ソルもなんとか一撃を加えようと踏ん張っている。
 だが、リーダー種の外皮の固さは凄まじいもので、中々決定的な攻撃にはなっていなかった。
 むしろ今までの攻撃に刃こぼれすることなく耐えている武器に、ソルは感動さえしていた。
 今ソルが使っている剣は、考助から下賜された物だ。
 ソルが使天童子になった時に、考助が一般のレベルで作れる最高峰の武器を贈ったのである。
 魔道具には詳しい考助でも武器の作成は門外漢であるため、シュミットを通して注文したのだ。
 とはいえ、このままでは折角の武器も持たないだろう。
 どうにか打開しようと色々試しているのだが、どうにも上手く行くような感覚が来ない。
 それでも諦めるという事は考えてもいない。
 考助から目の前の敵を討伐するように指示されたのだ。
 ソルとしては、その期待に応えるよう工夫を凝らして戦闘を続けるだけである。

 そのソルの戦闘の様子をコウヒとミツキの二人が見守っていた。
 二人が討伐する予定だったリーダー種の周辺を固めていた護衛達や、狼達が手こずりそうな高ランクのモンスターは既に倒している。
 後はナナに任せておけばいいだけの状況になっているのだ。
「そろそろ手を貸した方が良いかしら?」
 ミツキが、ソルとリーダー種の戦闘を見ながらそう呟いた。
 その呟きを聞きながらコウヒは、ジッと戦闘を見つめている。
「もう少しだけ待ちましょう。多分もう少しでしょうから」
「もう少し? ・・・・・・ああ、なるほどそういう事ね」
 コウヒの言葉に、一瞬だけ疑問に思ったミツキだったが、すぐにコウヒが言いたいことがわかった。
 確かにあの様子であれば、コウヒの言う通りこの状況を打開するのはもうすぐだろう。
 ソルはこの戦闘で急速に戦闘技術を伸ばしている。
 ソルの考えにその技術が追い付くのは、あと一歩と言う所まで来ているのだ。
 後は、ちょっとしたきっかけさえあれば、山を乗り越えると言う所まで来ているのだ。

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 ソルの考助に対する想いは、十年前にあった時から全く変わっていない。
 それどころか、益々強くなってさえいる。
 考助からゴブリンたちを任せられるようになって既に十年。
 ソルとしては、既に種族的にはゴブリンとは別種と言う自覚もあるが、元が同じだったという記憶もしっかり残っている。
 ゴブリンは、モンスターとしては底辺に位置する代表的な存在だ。
 本人たちもそれを自覚している。
 餌用のモンスターの召喚は、ソルが考助から直接教わったのだが、ゴブリンの中できちんとその意味理解している者達はさほど多くはないだろう。
 だが、考助が餌を用意してくれている、という事だけはしっかりと理解している。
 本能に近い感覚で行動するゴブリンにとっては、飢えないように餌を用意してくれるボスは偉大なのだ。

 話がそれたが、ソルはそうしたこともきっちりと理解していた。
 だからこそ考助から今回の話を聞いたときは、いつも以上に役に立とうと気合が入っていた。
 最初は緊張もしていたが、それも戦闘開始と同時にほぐれた。
 だが、折角の機会を与えてもらったのに、今のところ全く役に立っていない。
 この場でリーダー種を抑えているだけでも十分に役に立っているのだが、戦闘中のソルにはそこまで考えが及んでいなかった。
 そのため戦闘中にもかかわらず、考助への申し訳なさが湧き上がってきそうだった。
 どうにもリーダー種への決定打となりそうな攻撃が出来ない。
 どうにか出来ないかと悩むソルが縋ったのは、やはり考助であった。

 考助への畏敬の念と役に立てなさそうな自分の不甲斐なさ、それでもどうにか持ち直そうとする強い気持ち。
 様々な思いがない交ぜになり、最後には考助への想いが全ての想いを上回った。
 その瞬間、ソルは持っていた武器に変化が起こったことを肌で理解した。
 正確には、ソル自身が変わっていたのだが、その延長で武器にも変化が起こったのである。
 今までただの無骨な武器だったものが、淡く赤い光を発していた。

「超えたわね」
 様子を見ていたミツキが、隣にいるコウヒにそう言った。
「ええ」
 それを受けてコウヒも頷いた。
 種族的に進化をしたというわけではない。
 だが、戦闘技術が大きな殻を破って大幅に向上していた。
 具体的には、自身の持つ魔力を武器に載せることが出来たのだ。
 これで格段に武器の性能が上がった。
 今までとは違うほどに切れ味が増すことになる。
 その予想通り、今まで全く傷つけることが出来なかったリーダー種にどんどん傷が増えて行っていた。
 リーダー種もそれがわかっているのだろう。
 決着を焦り、今まで以上に大ぶりの攻撃が増えて来た。
 その隙をソルが見逃すはずもなく、ついに決定打となる斬撃を与えることが出来た。
 具体的には、首を大きく切り裂くことが出来たのだ。
 ソルの与えた傷から血が大量に流れ出す。
 それでもしっかりと反撃してくるところは、流石のリーダー種という事だろう。
 だが、そんな状態も長くは続かなかった。
 もう一度ソルが同じ場所に攻撃を加えて、それが最後の攻撃となった。
 きっちりとリーダー種の首を跳ね飛ばして、長かった戦闘に幕を引くことになったのである。

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 残りの戦闘はミツキと狼達に任せて、コウヒとソルは転移門を使って管理層へと戻って来た。
「お疲れ様」
 考助自ら出迎えてくれたことに恐縮するソルに、考助は気にせず笑顔で話しかけた。
「はっ!」
 畏まって膝をつくソルは、元がゴブリンだとは誰も思わないだろう。
「もう十分働いてもらったから、後はゆっくり休んでもらっていいよ」
「ありがとうございます!」
「ピーチ、済まないけどソルを拠点に送ってやって」
「はいは~い」
 考助に頼まれたピーチが、未だ跪いたままのソルを強引に立たせて転移門へと向かった。
 放っておくと、いつまでも考助に対して傅いているだろう。

 そんなソルを見送った考助は、すぐに視線をコウヒに向けた。
「で、どうだった?」
「ほぼ、目論見通りです。残念ながら進化はしていないようですが、戦闘能力は確実に上がっています」
「そうか。それはよかった」
 考助はコウヒの報告を聞いて、計画通りに行ったことにホッとするのであった。
ソルが一段階強くなりました。
一段階どころではないかも?
ちなみに、自身の魔力を「自由に」纏って戦うというのは、モンスターにとっては上級入りの証です。
魔力を扱える普通の種族は、種族特性で本能的に使っているにすぎません。
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