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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 大陸最後の未勢力圏

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(6)会議にならない会議

「いい加減にしろ!」
 特別に用意された会場に、参加者の一人の怒声が響いた。
 怒声を発したのは、北の街の貴族の一人だ。
 その貴族に同調するように、周りに座っている者達も「そうだそうだ」と声を上げている。
 だが、その罵声を浴びせかけられた者達は、どこ吹く風といった表情だ。
 全く堪えている様子はない。

 今彼らがいるのは、北の街にある施設の会議室の一室だ。
 その部屋で、今回のラゼクアマミヤが提示した条件についての説明がされているのだ。
 だが、その説明の途中で我慢が出来なくなったのか、先ほどの怒声が響いたのだ。
 そもそも今回の件は、ラゼクアマミヤ側から何とか譲歩を引き出そうと北の街が企画したものだ。
 自分の運命が掛かっているために、北の街にいる貴族たちが集まっている。
 貴族と言っても下から上までいるので、下に位置する者達はほとんど来ていない。
 逆に、上位に位置する者達ほど集まっていた。
 この会議に今後の命運がかかっているので、それも当然だろう。

 一人の貴族が怒声を発したのは、この会議が始まってからラゼクアマミヤ側の出席者が淡々と条件の説明をしだしたからである。
 少しでも改善があるかと期待した北の街の出席者は、全く改善のない内容にぶち切れた、というわけだ。
 もっとも、ラゼクアマミヤ側からすれば逆切れも良い所なのだが。
 そもそも、今回の会議は趣旨説明であって条件交渉の場ではない、というのがラゼクアマミヤ側の認識なのだ。
 今回の会議で条件が緩和されると勝手に勘違いしたのは北の街側なのだ。
 ラゼクアマミヤの代表者は、騒ぎが静まるのを待ってから再び話始めた。
「何か勘違いされているようですが、私はフローリア女王の名代としてこの場にいます。ですから、条件を変える気は一切ない、というのは女王の意見としてお聞きください」
 代表者がそう言って言葉を区切った。
 それを確認したルーカスが、代表して問いかけた。
「我々上層部を切った後で、どのようにこの街を統治していくのだ?」
「どのようにとは?」
 代表者の問いかけに、そんなことも分からないのか、というヤジが飛んできた。
 ルーカスは、右手を上げてヤジを抑える。
「仮にも我々は長年この街を統治して来た。その我々を排除して上手く統治できるお考えか?」
「勿論です」
 ルーカスの直接的な問いかけに、代表者は即答した。
 その自信ありげな表情に、会場はヤジを飛ばすのも忘れて静まり返っている。

「そもそもどうして上手くいかないとお考えでしょうか?」
「何?」
「統治が上手くいっている街を再統治するのには非常に手間と時間がかかります。下手をすれば反乱さえ起こりかねないです。ですが、統治が上手くいっていない街を作り変えることは意外に手間がかからないと思いませんか?」
 ラゼクアマミヤの代表者は、そう言ってニコリと笑った。
 この代表者は、はっきりと今の北の街の統治が上手くいっていないと言っているのだ。
 そのあけすけな様子に、流石のヤジ要員たちも絶句している。
「この街の統治が上手くいっていないと?」
 こうまではっきりと言って来るとは思っていなかったルーカスが、怒りを抑えながら問いかけた。
「逆にお伺いしたい。これだけ民衆に不満を持たれていながら、どうして統治が上手くいっているお考えですか?」
「何だと?」
 思ってもみなかった方向からの問いかけに、会場がざわめいた。
 それもそうだろう。
 彼らにしてみれば、街の住人達は自分の指示通りに働く者達であって、街の統治とは関係のない存在なのだ。
 街を統治しているのはあくまでも自分たちだという考えなのである。
 比較的今の街の状況を理解できているルーカスでさえ、こういった感覚なのだから他の者達は言わずもがなである。

「ラゼクアマミヤにとって民衆とは国家の礎であり何物にも変え難い存在です。その存在をおざなりにするあなた方の存在は、はっきり言って我々にとっては邪魔でしかないんですよ」
 はっきりと言い放った代表者に、もはや反論する者はいなかった。
 ここに集まっている北の街の上層部の人間は、ここにきてようやく理解できたのだろう。
 自分達の価値観とは全く相いれることが無いと。
 ラゼクアマミヤは、はなから自分たちの存在をいない者として扱っているのだと。
 ここまで言われて素直に引き下がるような者達は、ここには集まっていない。
 何しろ甘い汁を吸って生きて来た者達なのだから。
「我々を邪魔だとは何だ!」
「そうだ! こちらが話し合いの場を作ったのに、その態度は何だ!」
 再び会場が騒がしくなる。
 だが、今度はその騒ぎが収まる気配は全く無い。
 ここで引き下がれば、自分たちの立場が無くなることが確定しているのだ。
 本能的にそれがわかっているので、必死にもなるだろう。

 ラゼクアマミヤの代表者は、最初からこうなることがわかっていたのか、特に表情を変えたりはしなかった。
「では、話し合いは終わりという事でよろしいですか?」
 涼しい顔でそう言う代表者に、ルーカスは苦りきった顔になって答えた。
「これ以上はどうしようもあるまい」
「そうですか。では、私達はここで失礼させてもらいます」
 代表者はそう言って立ち上がった。
 彼に付いてきていた者達も同じように立ち上がる。
 罵声を浴びながらそのまま部屋を退出しようとするかに見えた代表者が、最後に気になることを言った。
「我々を責めるのは構いませんが、貴方達は自分たちの足元をしっかりと見た方が良いと思いますよ」
 代表者は最後に、ではこれで、と言い置いて、今度こそ完全にその場から立ち去るのであった。

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 会場の騒めきを後ろに聞きながら、ラゼクアマミヤの代表者は他のメンバーにポツリと漏らした。
「出来ることなら自覚をしてほしかったのですが、やはり無理でしたね」
「フローリア女王の予想通り、と言ったところですか」
 元々こういった状況になることは、ラゼクアマミヤは予想していたのだ。
 といっても、複数ある予想パターンの内の一つなのだが。
 勿論、それらの全てをフローリア女王が予想したわけではなく、優秀な側近たちが考えたのだ。
 その中で一番当たってほしくないパターンが当たってしまった。
 一番当たってほしくないのに、一番当たるだろうと予想されていたのだ。

「あの方たちも、最後の言葉を気にしてほしいですが・・・・・・無理でしょうね」
 代表者は苦笑をしつつそう漏らした。
「この期に及んで自分たちの事しか頭に無いようですからね。気づくとすれば、領主くらいでしょうか」
「ああ、彼なら気づくでしょうね。たった一人で対応できるかは別ですが」
「折角の忠告が無駄になってしまいますね」
 その言葉に、代表は肩をすくめた。
「仕方ありません。ここで足掻けば、まだ道はあるかもしれないんですが・・・・・・まあ、無いでしょうね」
 代表の台詞は、既に北の街の上層部を見切っているうえでの発言だった。

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 収まりのつかない会場の中で、ルーカスは一人で思案顔になっていた。
 どうにも最後にラゼクアマミヤの代表が言い置いて行った言葉が気になっているのだ。
「足元を見ろ・・・・・・どういう事だ?」
 騒がしい会場の中でその呟きを拾ったのは、彼の側近だけだった。
「まさか、本当の足元ではないでしょうが、何のことでしょうね」
「あれは私個人というより、ここにいる者達全体に言っているように感じた」
「私もです」
「では、ここにいる者達にとっての足元とは・・・・・・?! ま、まさか、いや、そんなはずは・・・・・・」
 あることに気付いたルーカスだったが、それはすぐに否定した。
 そのような兆候は、今まで欠片も感じられなかった。
 だが、どうにも湧いてきた不安はそのことを打ち消せないでいた。
 悪い時の予想というのは、得てして当たる物である。
 この日の話し合いから数日たったある日、ルーカスの当たってほしくない予想が現実と化すのであった。
今まで甘い汁を吸いまくっていた上層部の皆さんでした。
ルーカスの悪い予感が何かは、次話になります。

※本日話の設定の見直しをしていて、不備を見つけました。
第19章6話で北の塔の進化の条件を通常のポイントのみと記載していましたが、
その前の第17章3話で<眷属を中級モンスターに進化>と条件を記載しています。
第19章6話の方の修正を行いましたので、ご確認をお願いします。
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