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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 大陸最後の未勢力圏

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(4)条件

 目の前で笑顔を見せている男を心の中で殴りつけながら、それでもルーカスは表情を変えずに言葉を発した。
「では、そちらとしてはこれ以上の妥協は無いという事でしょうか?」
「そういう事になりますね。まあ、貴方達がそれ以上を望むのであれば、話には応じます」
 ツラッとした表情でそう言い放つ男に、ルーカスはこれ以上を望んでも無駄だと悟った。
 自分の目の前にいるのは、あくまでラゼクアマミヤ王国のメッセンジャーであって、交渉人ではないのだ。
 いくらここで自分がごねたとしても、どんな譲歩も引き出すことは出来ないだろう。
 メッセンジャーである以上は、ここでどんな話をしても無駄である。
 取りあえずこの場を濁すことにして、目の前の男にはお引き取り願うことにした。
「私どもとしてもすぐに返事は出来かねます。十分に検討させていただきたいと思います」
 その言葉に、目の前の男もルーカスが言いたいことがわかったのか、一つ頷いてからルーカスが望んでいる言葉を言った。
「では、私はこれで失礼いたします。・・・・・・ああ、そうだ」
 部屋を出ようとした男が振り向いて、思い出したような表情になった。
「こちらとしては、いつでも対話のドアは開いておりますので、何かありましたら連絡ください」
 男はそう言って、ルーカスに対して一つ礼をしてから今度こそ完全に部屋から出て行った。

 ラゼクアマミヤのメッセンジャーが完全に去ってから、ルーカスは再度男が持って来た文面に目を通した。
 そして、その内容がやはり間違いではないことを確認した後、ルーカスは握り拳を作って机に叩き付けた。
 ドンという音が部屋に響き、傍にいた側近がビクリと身を揺らした。
「このような条件を本気で飲めと言うのか! やつら、正気か!?」
 激昂するルーカスに、側近が恐る恐る話しかけて来た。
「そこまで、ですか?」
「見てみろ」
 ルーカスは、簡潔にそう言い放った後で、文書を側近へと放った。
 本来であれば、外交文書であるためある程度丁重に扱わなければいけないのだが、そのような気分は完全に失っている。
 文書に目を通していた側近は、さほどの時間も経たずに表情を変えていった。
 表情を消すのが上手い側近なのだが、今はルーカスしかいない上に文書の内容が内容のために、消す努力を怠ってしまったらしい。
「これは・・・・・・本気なのでしょうか?」
 最後まで文書に目を通した側近が、ポツリとそう漏らした。
「本気なのだろうな」
 ルーカスも苦虫を噛み潰したような表情でそう返す。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 側近が持っている文書には、北の街がラゼクアマミヤに傘下入りするための「条件」が書かれていた。
 その中に、普通では飲めるはずのない条件が書かれているのだ。
 周辺の町や村に対しての権利を放棄しそれぞれの町村に対応を任せること、というのはまだいい。
 これに関しては、他の東西南の街でも似たような条件があったと話が流れてきている。
 だが、その他に二つほど北の街からすればあり得ない条件が書かれているのだ。
 その一つが、徴税権に関して全てラゼクアマミヤに帰属する物とする、というものだった。
 それに合わせるようにもう一つの条件もあり得ない物だ。
 それが、北の街に関する為政者の人事権は全てラゼクアマミヤに帰属する、というものだ。
 この二つの条件を飲めば、北の街は完全にラゼクアマミヤに吸収されることになる。
 他の東西南は国家に対する税さえ払えば、以前の通りの権利は認められている。
 ある程度の自治権が認められているといってもいい。
 だが、今回提示された条件だと、完全にラゼクアマミヤへの帰属を求める内容になっているのだ。
 実行するかどうかは分からないが、現在北の街を動かしている貴族たちを全て排除して新たに貴族を置くことさえ可能になる。
 例えそれを無視して、今いる貴族たちが権力を振るおうとしても、その力の元となる徴税権さえ取り上げられているのだから、どうしようもない。
 そのような条件を認められるはずが無かった。
 例えルーカスが良しとしたとしても、この町の貴族たちの反発は免れないだろう。
 何故、このような条件を出して来たのか、ルーカスはラゼクアマミヤの意図が全く読めない。

「これは、あの方たちに知らせるのですか?」
 側近が言う「あの方たち」というのは、権利ばかりを主張する愚か者の貴族たちの事だ。
「・・・・・・見せるしかないだろう。いや、いっそのこと不意打ちで合意した後で見せるか」
 そうしたほうがラゼクアマミヤに対する意趣返しになりそうだなと、ルーカスの頭の中に余計な思考が浮かんできた。
 残念ながら、そんなことが出来るはずもないのだが。
 文書にはしっかりと有力者の同意を得ることも条件に書かれている。
 有力者たちの不意打ちをすることは不可能だった。
「しかし・・・・・・これを見る限りでは、ラゼクアマミヤは北の街が一度崩壊することを望んでいるようですね」
「・・・・・・どういう事だ?」
「この条件を飲んだところで、今の有力者たちの反発は逃れられません。条件を飲まずに今の状態のままで行っても、北の街は衰退していくでしょう」
 北の街のトップであるルーカスを前にして、その側近ははっきりとそう言った。
 不敬だろうが何だろうが、側近は事実を述べているに過ぎない。
 ルーカスもまた同じ認識があるため、側近を責めたてるようなことはしなかった。
「どっちに転んでも、彼の国にとっては同じこと、ということか」
「受ける被害を考えれば、前者の方がましかもしれませんが」
 側近の言葉に、ルーカスは首を傾げた。
「どういう事だ?」
「北の街が条件を飲んで傘下入りした場合は、上手くいけば有力者たちだけの被害で済みますから」
「・・・・・・そういう事か」
 ルーカスもようやくラゼクアマミヤの考えがわかって来た。
 少なくともラゼクアマミヤの上層部は、今の北の街の支配体制が良くないと考えているようだ。
 だからこそ、無茶な条件を突き付けて、傘下入りした際には、まっさらに近い状態から統治したほうが良いと考えていることが透けて見える。
 はっきり言えば、今の北の街の状態は統治者たちの怠慢でこうなっているのだと突き付けているのだ。
 変わらず苦虫を噛み潰したような表情で、ルーカスはため息を吐いた。
「そこまで、あいつらが読めればいいのだがな」
 全く期待していないような表情で、ルーカスはそう呟くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 予想通りというか、なんというか、ルーカスの思った通りに会議は紛糾した。
 出席者は各々好き勝手に言いたいことを言っているが、共通しているのは「こんな条件飲めるはずがない!」と言うものだった。
 それならそれでいいのだが、代替案の一つでも出てくればと思って聞いているが、全くと言って良い程出てこない。
 意見のほとんどが、ラゼクアマミヤを罵倒することに終始している。
 この様子を見て、ラゼクアマミヤが見捨てるのもしようがないかと、ルーカスは内心で頭を抱えていた。
 とは言え、代表としてこの会議に出席している以上、ルーカスとしてはどうにか意見をまとめなければならない。
 騒がしい議場を何とか鎮めて、意見の取りまとめようと奮闘するルーカスなのであった。
苦労人のルーカスです。
こんな輩たちを纏めて街をきっちり(?)統治していたので、実は有能だったりします。
彼の苦労は報われるのか?! ・・・・・・その続きはこれからの話で明らかにされます。
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