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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 大陸最後の未勢力圏

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(2)北の街

「過去の栄光に縋るだけの者は敗れるのもやむなし、か」
 北の街の領主であるルーカス・グレヴィリウスは、自室の窓から街を見ながらそんなことを呟いた。
 北の街にとってこの十年は、順風満帆とはいかなった。
 具体的な境界線は存在していないのだが、それでも北の街の影響力にあった周辺の町や村は既に半分以下になっている。
 北の街自体もかろうじて人口を維持し続けることは出来ているが、それも北大陸からの援助があっての事だ。
 援助と言っても食糧ではなく、嗜好品と言った日々を豊かにする品物だ。
 食料に関しては、流民などを出さないようにするためか、ラゼクアマミヤから十分に供給されている。
 勿論対価を払った上での供給なのだが、その対価を払うための稼ぎは北大陸からの輸入品に頼っている。
 北の街自体は、特に大きな特産品などがあるわけではない。
 周辺に出るモンスターの素材などの加工品もあるにはあるが、それだけで三十万近い人口を支える稼ぎを出すことなどできない。
 これまでは、セントラル大陸に北大陸の影響力を残したい教会が援助という形で様々な商品が北の街に入ってきていた。
 だが、そのようないびつな関係がいつまでも続くはずもない。
 全ての町や村にそういった物を行きわたらせることなど出来るはずもなく、十年を掛けて半分以上の町や村が離反していったのだ。
 このままで行けば、他の町や村も例外ではないだろう。

 頼みの綱の信仰心も陰りが見えている。
 ラゼクアマミヤの建国に関わったとされている現人神を、北の大陸の教会は信仰の対象とはしていない。
 流石に神として認めないとまでは言ってはいないのだが、教会として崇める対象とはしていないのだ。
 こうしたことは別に珍しいことではない。
 信者が少なかったり、そもそも忘れられているような神が教会から信仰の対象から外れることはよくあることなのだ。
 そのこと自体は、神々も認めているとされているのだ。
 もっとも、教会自体が信仰を認めなかったとしても、民衆の間で信仰が広まってしまえば後に教会が認めるという事も往々にしてあることだ。
 現人神に関しては、最初のうちは新しく誕生したばかりの神という事で、民衆には広まっていなかった。
 現人神の信仰は、、ステータスカードという武器を引っ提げて登場したクラウンという組織の冒険者たちから徐々に広まって行った。
 ラゼクアマミヤという国家に関しては、その基盤となっている街がアマミヤの塔にあることから民衆にも支持されていった。
 現在では、現人神を信仰すれば、対モンスター戦に置いて有利になるとさえまことしやかに囁かれている。
 その真偽は不明だが、そもそも信仰において事実かどうかなどは大した問題ではない。
 信仰する者がやっぱりそうだったと言えば、事実になるのが信仰なのだから。
 そう言う意味では、教会も似たり寄ったりの事をやっているので、責めることなど出来ないのである。

 そうした背景のため既に北の街の有力者でさえも、平然とラゼクアマミヤへの傘下入りを口にする者が出てくるようになってきていた。
 本音を言えば、ルーカスも同意見なのだが立場上、そんなことを言えるはずもない。
 援助もそうだが、北大陸との取引で北の街が維持できているのも本当の事だからだ。
 ラゼクアマミヤへの傘下入りをするという事は、北大陸からの援助を断るというのと同じ意味なのだ。
 教会の力が強い北大陸の場合、教会の援助を断れば取引自体がされなくなってしまう可能性もある。
 そうなってしまえば、例えラゼクアマミヤへの傘下入りをしたとして、北の街の強みが無くなってしまう。
 東西南の街は、それぞれの大陸との取引が続いているからこそ、国家の中の一都市として埋没するわけでもなく栄え続けることが出来ているのだ。
 北大陸との取引をなくした北の街が、同じように発展できるとはルーカスはかけらも考えていないのである。

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「結局、こういう事になるわけか」
 北大陸から届いた報告書を見て、ルーカスはため息を吐いた。
 その書面には、北大陸からの支援の減額が書かれていた。
 支援と言っても、お金そのものが送られているわけではなく現物がほとんどなのだが、その品物がいつもの年より大幅に減っているのだ。
 その額を見て、北大陸で何かがあったのかと考えるほどルーカスも愚かではない。
 十教会の中でも北の街への援助を打ち切るべきだという意見が出ていたことは知っている。
 今回はその意見が多数を占めたのだということは、考えなくともわかる。
 問題は、この減額の話を北の街の有力者にどう話すかという事だ。

「普通に話せば、間違いなく離反してラゼクアマミヤに付くことを望むでしょうな」
 同じ部屋にいた側近の一人が、ポツリと言った。
「まあな」
 ルーカスもラゼクアマミヤにすり寄ること自体を反対することは無い。
 ただし、ラゼクアマミヤに傘下入りした後の事が問題なのだ。
 出来うることなら北大陸との取引を続けたままラゼクアマミヤに組み込まれることが出来れば、北の街としては十分にメリットが考えられる。
 だが、それを北大陸が許すかどうかは微妙な所だ。
 減額したとはいえ、今回も援助を出してくれている教会もある。
 ラゼクアマミヤ側につくことは、その教会に対する裏切りでもある。

「支援を拒否した教会は分かっているのか?」
 ルーカスの問いかけに、側近の一人が首を振った。
「残念ながら・・・・・・。教会への寄付金から出ているために、金の流れがつかみにくいのです」
「加えて、十教会も余計な情報は流さないようにしているらしく・・・・・・」
 支援を打ち切ったとはいえ、北の街を利するような情報を流すことはしないということだ。
 ついでに、十教会が秘密主義というのも拍車をかけている。
 例え内部で対立していたとしても、余計な情報が外に漏れることはほとんどないのだ。
 そのことが今まで十教会という勢力を維持して来た事は、彼ら自身がよくわかっているのだ。
「そうか。離反した後で、打ち切った勢力との取引を続けたいと思ったのだがそこまで甘くはない、という事か」
 どうやら大きな決断をしないといけないと思い、ルーカスは重いため息を吐くのであった。

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「そろそろ届いた頃か」
 青の教主は、自室にある椅子に座りながらそう呟いた。
 北の街への援助に関する報告書が、そろそろ届いたはずなのだ。
 あの後、いくら青の教主が取引を持ち掛けようが、援助の増額は取り付けることが出来なかった。
 結局、大幅に減額した値を送ることしかできなかったのだ。
 このことにより、北の街がどういう結論を出すのか、青の教主にとっても他人事ではない。
 もしここで北の街がラゼクアマミヤに与することになれば、十年の援助が無駄になってしまうのだ。
 青の教主にとっては、そのことは絶対に認められる物ではない。
 だが、北の街にとって今の立場を続けるメリットが無いこともよくわかっている。

 青の教主としての立場は、北大陸の一部にしか影響力が無いが、それでも北の街から近い場所は勢力圏内だ。
 だからこそ援助にもこだわってきたのだが、十年という年月が他の教主たちの北の街への興味を薄れさせてしまった。
 もし北の街が北大陸から離反するとなればどういう事になるのか、それは青の教主にも分からない。
 だが、今まで通りの状態が続くとも思えなかった。
 ラゼクアマミヤが建国してから十年。
 北大陸にとっても大きな変化が訪れようとしているのであった。
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