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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 スミット王国

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(3)駐在官

 支部での騒ぎを抑えたクリストフは、通達の件を確認するためすぐに城の執務室へと戻った。
 通達の件は、側近に指示を出して確認してもらう一方で、レメショフの処分をどうするか、頭を悩ませた。
 その間に、通達の状況を確認して来た側近が現在の貴族たちの間で広まっている話をある程度調べて戻って来た。
 正確に把握するにはまだ調査は必要だが、何人かの認識を知るだけでも十分だ。
 その側近の話を聞くと、クリストフの予想通りと言う結果になっていた。
 さてどうするか、とひとしきり悩んだクリストフは、ある程度の方針を決めてから父王に面会することを決めた。
 城に戻ってきてから時間が経っているので、今日中に面会を求めるのは難しい。
 翌日の父王の予定を確認したうえで面会をすることに決めた。

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 翌日。
 家族の朝食の席で、面会できそうな時間を聞いてから正式な面会をすることになった。
 親子とはいえ、行政に関わる内容なので、あくまでも立場は上司と部下だ。
 公的な内容に関しては、しっかりと区別がされているのである。
 クリストフとしても家族の時間に仕事の話をしたくはないので、有難く思っている。
「それで? 話と言うのはなんだ?」
 アッサールが余計な話を挟まずにすぐに聞いてきた。
 食事の席でクラウンについての話と言っているので、ある程度は分かっているだろう。
 父王にも昨日の騒ぎの話は、間違いなく伝わっているのだから。
「はい。話としては昨日の件なのですが、それに関しての改善提案があります」
「聞こうか」
 アッサールの短い言葉に、クリストフは一度だけ頷いてから話を続けた。
「まず、レメショフ伯爵の処分は後ほど話すとして、根本の原因を改善しないとまた同様の事が起こると考えました」
「ほう?」
「クラウン支部の転移門についての通達ですが、貴族たちには正確には伝わっていないようです」
 クリストフの台詞に、アッサールは眉を顰めた。
「どういうことだ?」
「転移門を使えないのは一般の者達で、立場や責任のある者であれば使えると誤認されているようです」
 早い話が、平民たちは使えないが貴族であれば使えると思われているのだ。

 クラウンからの商品の納品にはどうしても転移門が欲しかったスミット国は、クラウン側が提示した条件を丸呑みしていた。
 その条件とは、転移門を使えるのはクラウンの許可した者とスミット国が許可した者であること。
 これだけであれば、普通にある条件なのだが、この許可した者だけが利用できるというのが曲者なのだ。
 転移門を使うためには、魔道具のカードが必要になる。
 このカードを発行するためには、どうしてもクラウン側の許可が必要になる。
 早い話が、クラウンが駄目と言い続ければ、スミット国側で転移門を使える者はいないという事になる。
 そして、今現在そのカードを持っている者は誰もいない。
 クラウン側の商人たちは転移門を利用して商品の搬送を行っている状態なのだから、普通の国家同士の交易としてはあり得ない状態なのだ。
 勿論、そんな状態になっているのには理由があるのだ。

 現在の貴族たちに広まる話を聞いたアッサールは、深くため息を吐いた。
「そのような話になっているのか・・・・・・文官たちは何をしている?」
 クラウンとの交渉の席には、文官が複数人出席していた。
 いくらなんでも国王一人で交渉の全てを動かすことなどできない。
「意図的に無視しているのか、あるいは貴族たちの間に広まっている話に気付いているのかはわかりませんが、放置されているのは間違いないようです」
「・・・・・・頭が痛い話だな」
「同感です。まあ、文官たちの行いはともかくとして、現状をどうにかしないといけないわけですから、王の名で今一度通達をお出し願います」
「そうだな。それが良かろう」
 クリストフの提案に、アッサールも頷いた。
 現在の通達は、クリストフの名前で出されている。
 だが、それをアッサールの名で出すことによって今一度周知を図ると共に、国王が通達することによって重要度を上げるつもりなのだ。

「今の話で、昨日の原因も何となく予想できたが、処分はどうするのだ?」
 通達の件に関しては、同意を得たので、次はレメショフの処分についてだ。
 クリストフから切り出そうかと思った所、先にアッサールから話を出して来た。
「レメショフ伯爵については、駐在官になってもらいます」
「駐在官だと?!」
 通常、駐在官というのは、国外に滞在する外交官のような者を差す。
 国の意向を他国に伝える役割を担っているので、高位の役職になる。
 中級貴族であるレメショフにしてみれば、どちらかと言えば昇進と言って良いことになる。
 だが、驚いた表情を見せたアッサールは、しばらく考えた後でニヤリと笑った。
「なるほど、そういう事か。確かに今回の罰としてはいいかもしれぬな」
 クリストフの意図を完全に理解したアッサールは、傍に控えていた側近にある書面を持ってこさせる。
 それは国王が発行できる命令書で、国内の者達でこの指示を拒否できる者はいない。
 その場で国王の署名と印が入った命令書を受け取ったクリストフは、アッサールとの会談を終えて自身の執務室へと向かった。

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 執務室へと向かう途中でレメショフを呼び出したクリストフは、書類整理をしながらレメショフを待った。
 さほど長い時間を待たずに、レメショフはやって来た。
 昨日の事があるので、呼び出されるのを待っていたのだろう。
 表情からも処分されることがわかっているのか、暗い表情になっていた。
 その様子からわざわざ前置きをする必要が無いと察したクリストフが、すぐに用件に入った。
「用件は分かっているようなので、すぐに昨日の処分について申し渡す」
 クリストフの言葉に、レメショフは無言のまま礼の形を取った。
 言うのはクリストフでも、処分の決定は国王の物だというのをきちんと理解しているのだ。
 手元に先ほど王からもらった命令書を用意して、クリストフはその命令書の内容を読み上げた。
「レメショフ伯爵。其方を駐在官の任に処する」
「はっ! ・・・・・・は?」
 その命令を聞いたレメショフは、思わずと言った感じで目を瞬きクリストフを見た。
 駐在官になる命令書が今回の件の処分と結びつかなかったのだ。
 戸惑うレメショフに向かって、クリストフは何食わぬ顔で話を続けた。

「任務地は、アマミヤの塔の街だ」
 それを聞いたレメショフは、ようやく状況を理解した。
 一瞬だけ顔を歪めた後で、すぐに表情を戻して頭を下げた。
「・・・・・・お受けいたします」
 スミット国がラゼクアマミヤと取引をするようになってそれなりの年月が経っている。
 ただ、これまでの間、二つの国の間に駐在官はたててこなかった。
 スミット国側にあるのは、クラウン支部なので厳密には両国の間には大使館のような物はないのだ。
 ラゼクアマミヤはそれでも構わない。
 何しろいざとなれば転移門を使ってすぐにこの国に来れるのだ。
 実際に何度か、転移門を使ってラゼクアマミヤの文官たちがやって来たことがある。
 だが、転移門を自由に使う事が出来ないスミット国側は、どうしてもクラウン支部を間に通して連絡するしかないのだ。
 駐在官を塔側に置けば、その問題は解決できるのだが転移門を使わずに移動をするにはかなりの日数がかかるために、駐在官になりたがる者がいなかったのだ。
 早い話が、今のスミット国の認識ではラゼクアマミヤの駐在官に任じられるという事は、左遷とほぼ変わらない扱いになる。
 ラゼクアマミヤとの関係が重要だという認識はあるのだが、位置的な問題で駐在官になることを敬遠されてきたのである。
 クラウン支部で騒ぎを起こしたレメショフに対して、ある意味で最適な処分と言える。
 結果として、レメショフが腐った態度で任務に就く可能性もあるが、その場合はさらに重い処分も下すことが出来る。
 レメショフとしては、ラゼクアマミヤの駐在官として何としても実績を上げなければいけない立場になったといえるのだ。

 支部でレメショフが騒ぎを起こしたのが当人にとって良かったのか悪かったのか、周りの評価は二分される。
 このレメショフの駐在官就任が、今後の二国間の関係を大きく決定づけることになるのは、任命した国王でさえまだ予想していないのであった。
今までいなかったのか! と言われそうですが、いませんでした。
気軽に元国王が出入りしているフロレス王国でさえも大使館的な物はありません。
距離の問題がやはり大きいのと、そもそも武力で相対することがほぼ考えられないので、そう言った物がすぐに必要だという認識が無いためです。
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