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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 スミット王国

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(2)騒ぎ

 執務室で書類の整理を行っていたクリストフは、ひと段落着いたところでため息を吐いた。
 ようやく本日分の最低限必要な処理が終わったのだ。
 あとは少しばかり休みを取った後は、その他の細々とした用事を済ませる予定だ。
 他にも次期国王として学ぶことはまだたくさんあるので、自由な時間と言うのは中々取れないのだ。
 もっとも、側近たちもクリストフも詰め込み過ぎては駄目だという事は分かっているので、適度な息抜きは必ず挟んでいる。
 クリストフ本人が倒れてしまっては元も子もないのである。
 そんな中で取れる少しばかりの休憩時間は、クリストフにとってもとても落ち着ける時間なのだ。
 侍女が用意してくれた飲み物を手に取って飲んだ。
 その飲み物はクトゥールというスミット国の特産品の一つだ。
 ただし、残念ながら独特の風味があったりするので、中々周辺国には受け入れられていない。
 クリストフは幼少と時から馴染んでいる飲み物なので、一番落ち着ける飲み物として好んで飲んでいるのだ。

 そんな束の間の休息をしていたクリストフだったが、慌ただしい音と共に部屋のドアがノックされた。
 緊急事態かと想像出来たクリストフは、一瞬だけ表情を歪ませたが、すぐにそれをひっこめて返事をした。
「入っていいぞ」
 入ってきたのは、城下町の警備を担っている騎士団の兵士だった。
 クリストフは次期国王として認識はされているが、流石に騎士団に関わるような権限はまだない。
 大事があれば国王の元に行くはずなので、何故自分の所に来たのか分からずに首を傾げた。
「どうしたのだ?」
「クラウン支部で騒ぎが起きました」
 その一言でクリストフが表情を引き締めた。
 騎士団の扱いは当然国王の管轄だが、クラウンとラゼクアマミヤ王国に関してはクリストフが受け持っている。
 当然支部に関しての報告は、クリストフにもすぐに上がってくるようになっているのだ。
「どんな様子だ?」
「それが・・・・・・」
 報告に来た騎士が、言いづらそうな表情になる。
「なんだ? 早く報告してくれないと対処のしようがないぞ?」
「・・・・・・転移門を使わせろと、レメショフ伯爵が支部を訪ねてきています」
 騎士のその一言で、クリストフの表情がさっと変わった。
 言葉の内容は穏やかなものになっているが、どういう状況になっているのか一瞬で理解したのだ。
 勿論この騎士がクリストフの元を訪ねて来た理由もだ。
「すぐに行くと支部に伝えろ」
「はっ!」
 クリストフが即決すると、報告に来た騎士はすぐに部屋から出て行った。
 それを見送る間もなく、クリストフはすぐに傍にいる側近たちに指示を出した。
「これからすぐに町に出る。護衛達は必要最低限ですぐに準備をしろ。父王に報告するためにも文官も一人選び出せ。準備が出来たらすぐに知らせろ。・・・・・・では、すぐに準備に取り掛かれ」
 王太子であるクリストフは、気軽に城下町に行ける身分ではない。
 だからと言って、今起こっていることを誰かに任せるという事は出来ないのだ。
 もしここで問題が起こったりすると、今までラゼクアマミヤと築いてきた関係が、一気に冷え込んでしまう可能性がある。
 それだけはどうしても避けなければならないのだ。
「・・・・・・全く、皆どうして理解してくれないのだ?」
 その小さな呟きと共に、クリストフは大きくため息を吐くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 レメショフ伯爵は、スミット国における中級の貴族だ。
 中級と言ってもその中では上位に位置し、ほぼ上級貴族と言って良い立場に位置している。
 スミット国において、上級貴族と呼ばれるのがごく限られた者達であることを考えれば、その立場はかなり強い物と言っていいだろう。
 普通に考えれば、レメショフ伯爵に対して拒否の意思を示せる者はほぼいないと言って良いのだ。
 だが、そのレメショフは現在、そのほとんどあり得ない状況になっていた。
 ちょっとした時間が出来たので、以前から気になっていたクラウン支部にある転移門を試してみたいと考えたのだ。
 クリストフ王太子からは、転移門を使用できるのは一部の決められた者だけだという通達が来ていた。
 だが、レメショフ伯爵は国内においてはかなりの立場にある。
 その自分であれば、転移門は普通に使用できるだろうと考えていたのである。
 だからこそ、転移門を使って噂のアマミヤの塔に行こうと考えたのだが、それを支部の職員に阻まれたのだ。
 気楽に使用できると考えていたレメショフ伯爵だったために、いつもはやらないはずの立場を押し出して強引に話を進めようとしてしまった。
 だが、塔から派遣された支部の職員たちは頑なだった。
 レメショフが何を言おうとも、転移門の使用は出来ませんの一点張りでその言葉を翻すことはしなかった。
 クラウンにとって良かったのか、それともスミット国にとって良かったことなのかは微妙な所だが、レメショフの立場に気付いた職員が、名乗る前に一般の者達がいる場所から会議室のような場所へ移されたのは幸運だった。
 そもそも支部に転移門があること自体公表していないので、押し問答をしているところを見られると非常にまずいことになっていただろう。
 それらの話を支部に向かう移動中に騎士から聞いたクリストフは、深く神に感謝するのであった。

 支部に案内されたクリストフは、すぐにレメショフ伯爵がいる部屋へと通された。
 諦めて帰っていればそれでもよかったのだが、残念ながらレメショフ伯爵はまだ粘っていたらしい。
 部屋に入って来たクリストフを見て、慌てたように表情を変えて立ち上がった。
「クリストフ王子! なぜこのような場へ?」
 そう言ったレメショフ伯爵を、クリストフは睨んでしまった。
「そなたらしくもなく、権力を振りかざしていると聞いてな」
「そのようなことは・・・・・・!」
「ない、というのか? 私はしっかりと通達を出したはずだ。ここにある転移門は特別なことが無い限りは使う事が出来ないと。それとも自分だけは特別だと勘違いしたのか?」
 先程まで伯爵としての地位を振りかざしていたレメショフは、押し黙ってしまった。
 クリストフが来たことで、今までのやり取りで上がっていた熱が収まったらしい。
 それを見たクリストフは一つため息を吐いた。
「大体、ここに転移門があることは知られてはならないと言ったであろう。このような場所で騒ぎを起こして、もし民たちに知られたらどうするつもりだった?」
 クリストフの叱責に近い言葉に、レメショフは身を小さくした。
 その表情も若干青くなっている。
 冷静になって、自分がしたことが理解できたのだろう。
「・・・・・・申し訳ありません」
 絞り出すような謝罪に、クリストフはそれまであった怒りを鎮めるのであった。

「それにしても、そなたらしくない。なぜこのようなことをしたのだ?」
 クリストフの問いかけに小さくなったレメショフは、反省したように述懐し始めた。
「完全に頭に血が上ってしまっていました。申し開きもございません」
「いや、それはいいのだ。・・・・・・いや。良くはないか。処分は後ほど受けてもらうとして、そなたがこのような騒ぎを起こす方が信じられないのだが?」
 そもそもレメショフは、中級貴族の下位だったのを自身の力だけで信用を勝ち取って来た貴族だ。
 このような不用意な真似をする者ではなかったはずだ。
「・・・・・・最初は好奇心でした。それが中々通らずに、つい・・・・・・」
「だが、転移門は通常は使えないと通達は出していただろう?」
 レメショフは、クリストフのその言葉に、初めて聞いたように目を瞬いた。
「使えないのですか? 私が聞いたのは、一般の者は使えないという言葉だったのですが?」
 レメショフの認識では、貴族、それもある程度の高位の者であれば使えるというものだったのだ。
 その台詞を聞いたクリストフは、思わず頭を抱えた。
 何となくこの騒ぎの原因が分かったような気がする。
 すぐに城に帰って、自ら出した通達がどのように伝えられているのかしっかりと調査しないといけないと思うクリストフであった。
馬鹿貴族の一人のように出したレメショフですが、実は有能な人です。
今回は敢えてこういう事を起こさせました。
最後にちらりと書きましたが、通達が原因になっています。
それに対して、クリストフがどういう対処をするのか・・・・・・その話は次回です。
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