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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 塔のあれこれ(その3)

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(7)エルフ

いつもより少しだけ長めです。
 南の塔にあるエルフ達が住む階層には、一本の巨木が存在している。
 勿論その巨木とは、世界樹のことだ。
 その世界樹を中心に、エルフ達は集落を作っている。
 ただし、世界樹を中心にして半径一キロの範囲には、たった一つの施設しか存在していない。
 エルフにとって世界樹は「聖なる樹」であり、世界樹にはむやみに近づかないというのが当然の理念だからだ。
 たった一つだけある建物とその周辺に入れるのは、限られた者しかいない。
 それは、世界樹の巫女であるコレットであり、また世界樹の妖精であるエセナが認めた考助だけだ。
 正確に言えば、その両名が認めれば入ることは出来る。
 考助やコレットが同行しているうえで世界樹に近づくことは、黙認されているというのが現状だ。
 暗黙の了承というやつだ。
 その立入禁止区域に一人のエルフが入ろうとしていた。
 だが、それを見ているにも関わらず止めようとする者はいなかった。
 なぜならコレットが立ち入りを認める通達を出しているからだ。
 そのエルフの名は、シェリル。
 元世界樹の巫女だった。

 シェリルが立入を認められている理由は、単純に彼女が元世界樹の巫女だからだ。
 世界樹の巫女は、エルフ達にとっては時に神の代弁者に等しい権限を持つことがある。
 元とはいえ、一度でも巫女を勤めた者がエルフ達から敬意を持たれるのは当然のことだった。
 当然ながら、現在の巫女程の発言力を持つわけではないが。
 それはともかく、シェリルが現在こうして禁止区域に入れるのは、ある理由がある。
 その理由が、彼女の目の前で横たわっていた。
 その周囲は、世界樹の根が重なるようにして幾重にも張られている場所だ。
 だがそこだけは、根が避けるように張られており地面がむき出しになっていた。
 その地面にコレットが目を閉じたまま横たわっているのだ。
 これが、シェリルが立ち入りを許可されている理由だ。
 コレットは己の力を高めるべく、修行を行っている最中なのだ。

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 世界樹の麓で目を閉じて横たわっているコレットだが、ただ眠っているわけではない。
 いわゆる普通の者達が取っている睡眠とは別の状態だ。
 考助の加護のおかげでより深く精霊と繋がることが出来るようになったコレットだが、まだまだ十分と言えるわけではない。
 その力を伸ばそうとしているのだ。
 はっきり言えば、他の者達と同じように進化しようとしているのだ。
 ピーチに関しては、はっきりと進化したとは言われていないのだが、シルヴィアや考助の態度を見ていればわかる。
 理由が有るために言っていないだろうという事もだ。
 恐らくコレットだけではなく、他のメンバーも同様だろう。
 それを考えると、進化していないのは自分だけという事になる。
 だからと言って焦りがあるわけではない。
 ヒューマンと違ってエルフには長い寿命がある。
 その間に進化すればいいのだが、その寿命に胡坐を掻いていいとも思っていない。
 人よりも長い寿命を持つのは確かだが、時間が有限であることには違いがないのだ。

 目を閉じて横たわっているのは、余計な情報を入れないようにするためだ。
 出来るだけリラックス(?)した状態で精霊たちの情報だけを入れようとしているのだ。
 ただし、精霊の姿を見たり、声を聞いたりするのであれば、これまでと何ら変わりがない。
 エルフでも感覚に敏感な者であれば、出来なくはないのだ。
 だとすれば、コレットが目指しているハイエルフへの進化というのは全く別の物になる。
 横たわるコレットを見ながら、シェリルが虚空に向かって話しかけた。
「どのような様子なのでしょうか?」
 その言葉に応えるように、シェリルの視線の先にエセナが現れた。
 世界樹の近くであれば、考助の傍でなくとも姿を現すことはできる。
 姿を現したエセナは、しばらく首を傾げてから答えた。
「まだ上手くいっていない」
 その返答に、シェリルはため息を吐いた。
「・・・・・・そう」

 コレットがこのような修行を始めてから既に三年が経とうとしている。
 シェリルには、上手くいっているのかいっていないのかも分からない。
 こうしてシェリルが様子を見に来ているのには、彼女の容体に何か変化が起きないかを見に来るためだ。
 最近のコレットは、数日を掛けてこのような状態になっている。
 たまに目を覚ましては、水分を取りまた同じような状態に戻ることを繰り返している。
 シェリルは、こうして容体を見に来るだけではなく、この南の塔の管理も任されている。
 といっても何か新しいことをするわけではなく、大きな変化が起こった場合に知らせてほしいと言われているだけなのだが。
 シェリルとしてもむやみやたらに塔の管理にまで手を出そうとは思わない。
 いくら考助からも了解を得ているといってもだ。
 コレットのしていることを理解しているからこそ手助けをしているが、それ以上は望んでいないのだ。

 結局この日のコレットは、目を覚ますことなくシェリルもいつものように集落に戻るのであった。

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 そんな変わらない日々を過ごしていたある日。
 遂に変化が訪れることになる。
 管理層を訪れたシェリルは、ついにシルヴィアの子が誕生したとシュレインから聞いた。
 前に目を覚ましたコレットには、シルヴィアが妊娠していることを伝えてある。
 考助と会う前に、冒険者として組んでいたシルヴィアに子供が出来たと聞いたコレットは、非常に喜んでいた。
 流石にその時ばかりは、修行を打ち切って本人に会いに行っていた。
 そのシルヴィアが無事に出産したという話は、一番聞きたい話だろう。
 前に眠りの状態に入ってからかなりに日にちが経っているため、そろそろいつ目を覚ましてもおかしくはない。
 コレットが待ち望んでいた情報を胸に、世界樹の麓へ行こうとしたシェリルは、意外な人物に止められた。
 誰かと言えば、ハイエルフの三人組である。

「どうかされましたか?」
 滅多に姿を現さないハイエルフが三人そろっていることに驚きつつ、シェリルはそう聞いた。
「気付いていないのか? いや、まだ戻ってきていないのか」
 シェリルの質問には答えず、リストンが一人納得するように頷いている。
 それを見たゼパルが苦笑するように助言をした。
「それでは、答えになっておらんぞ? ・・・・・・巫女がやりおったぞ。すぐに様子を見に行くといい」
「私達はここで待っていますから、出来るだけ早く連れてきてね。祝福をしたいですから」
 ゼパルの後に、セーラがそう付け加えた。
 巫女というのが誰かというのは、今更言うまでもない。
 少なくともハイエルフの三人から巫女と呼ばれる者は、一人しかいないのだから。

 ハイエルフの三人に頭を下げてから慌ててコレットの元へと向かったシェリルは、横たわる彼女が光っていることを確認した。
 よく見るとコレット自身が光っているわけではなく、彼女の周囲を祝福するように精霊たちが飛び回っているのがわかった。
 シェリルが近づくと、すぐにその光が消えた。
 自分が近寄ったためとシェリルは勘違いしたが、単にコレットが目を覚ましたために精霊たちが多少離れたのだ。
「・・・・・・ん? シェリル?」
「コレット! やったのね?」
 自分の周りを飛び回る精霊の光を眩しそうに見つめるコレットに、シェリルが飛びついた。
 自分が巫女だった時にはできなかった快挙だ。
 間違いなくコレットは、ハイエルフへと進化していることがシェリルにも分かった。
 だが、そのコレットはちょっとだけ困ったような表情になった。
「あ、うん。進化は出来たんだけど、どうもハイエルフとはまた違った種族になったみたい」
「・・・・・・え?!」
 予想外の言葉に、シェリルは驚いた。
「じゃ、じゃあ、何になったの? というか、どうして知ったの?」
「目を覚ます前に、スピカ神が夢で教えてくれたの。無事にスピリットエルフになれたって」
 コレットの言葉を聞いたシェリルは、一瞬頭が真っ白になった。
 そのコレットは、相変わらず困ったような表情で頬を掻いていた。

 スピリットエルフとは、エルフともハイエルフとも違う原初のエルフと言われている種族だ。
 ただし、言われているといってもその存在は、ようやく神話になって出てくるような存在だ。
 人によっては、眉唾物だと笑い飛ばす者さえいる。
「な、なんてこと」
 真っ白になった頭から復活したシェリルは、事の大きさに愕然とした。
 スピリットエルフになったコレットを、この階層にいるエルフ達が何かをするわけではないが、間違いなく崇拝の対象になることはわかる。
 下手をすれば考助を超えてしまうかもしれない。
 そんな懸念をコレットが見通したのか、笑って言った。
「大丈夫よ。コウスケはそんなことは気にしないわ。それに、私もエセナもそんなことを許さないわよ」
 シェリルが懸念したのは、エルフ達が考助からの庇護を離れると言い出すことだ。
 全てのエルフ種にとって、スピリットエルフの存在は神にも等しいのだからそう懸念することは、間違いではないのだ。
「そう。そうよね」
 だが、何よりエセナがそんなことは許さないだろう。
 勿論コレットも自身が語ったように、そんなことを許すはずもないのであった。

 こうしてコレットがスピリットエルフに進化したことにより、緩やかだが確実にエルフの集落にも変化が訪れるのであった。
コレットファン(いるのか?w)の皆様お待たせしました!
ようやく最後のコレットも進化を果たしました。

最後それっぽい終わり方でしたが、この先エルフ達が考助に対して何かをしたりすることはありませんw
そもそもエセナを裏切るようなことをエルフが選択するはずもないので、完全にコレットやシェリルの杞憂です。
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