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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 旅(サミューレ山脈編)

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(8)準備

「ではまず、このプロストの棺についての説明をいたします」
 ビアナは、視線を考助に向けたまま説明を開始した。
 傍には、神殿長や歯ぎしりしそうな神官もいるのだが、ビアナの視界には入っていないようである。
「このプロストの棺は、ある儀式を終えたヴァンパイアの魂を管理する物になります」
「魂を?!」
 いきなりとんでもない話が飛び出て来た。
 魂を管理するなど、それこそ神の仕事だと思っていたのだが、目の前にあるプロストの棺はその役目を果たしているというのだ。
 考助の反応を見て、シュレインが補足をした。
「勘違いしてはならんぞ? この棺そのものが魂を操って生死を管理しているわけではないからの」
「というと?」
「ハイエルフ達を思い出してみるといい。あやつらは魂だけで存在していた。それをコウヒが召喚で呼び出したわけだが、本来魂というのはこの世界にとどまったままというのはあり得ない」
「そうです。本来であれば肉体というものがあるからこそこの世界にとどまれるものを、この棺があることによって魂だけでこの世にとどまれるようにしているのです」
「ハイエルフ達がどういう理屈で魂のみでとどまっているかは分からんが、吾らはこの棺があるからこそ魂としてこの世に存在できるというわけだの」
 二人の説明に、考助が納得したように頷いた。
「なるほど。それでプロスト一族についての噂もわかった」
 プロスト一族は、肉体を伴っては存在していないが、このプロストの棺があることによって魂の状態で存在しているという事だ。
 それであるなら、プロスト一族の曖昧な噂についても納得が出来る。
 完全にこの世を去っているわけではないが、肉体を伴って存在しているわけではないので、生存しているとも言い難い。
 大陸に来て、プロスト一族を探しても全く見当たらなかった理由がこれであった。
「あれ? という事は、シュレインも?」
 あることに気付いた考助が、シュレインを見た。
「そうだ。吾も儀式を行って魂だけで存在していた。それをミツキによって召喚されて、再び肉体を得たというわけだの」
「そういう事か」
 その説明で、ヴァンパイアにとってこのプロストの棺が非常に重要な物であることは理解できた。

「過去の我々に対する攻撃で、プロスト一族は肉体を捨てて魂だけで存在することに賭けました。とは言え、流石にこの棺や神殿自体を管理する者がいないと成り立ちませんので、番人となる者が必要となるわけです」
 今代の番人が、いま目の前にいるビアナというわけだ。
 ビアナがずっと見張っていたわけではない。
 ある程度の年数がたつと、魂の存在になっている一族の者の中から選ばれた者が番人になるのだ。
 代々番人となった者は、この場所で管理をしつつ時が来るのを待っていたということになる。
「その時というのが、今というわけです」
 そう言いつつ考助を熱心に見てくるビアナを見れば、考助も彼女が何を言いたいのかを察することが出来る。
「それで、僕に何かをさせたいわけだ」
「半分正解で、半分は誤りです」
「というと?」
「正確には、貴方様とそちらにいらっしゃる方にも手伝って頂きたいのです」
 そう言いながら、ビアナはピーチを見た。
「私、ですか~?」
「はい」
 突然の指名に首を傾げたピーチに、ビアナは大きく頷いた。
「何をするんでしょうか~」
「まずは順番に説明をしますので、<至上の君>へ話をしてもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ~」
 ビアナの確認に、ピーチはあっさりと頷くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 改めて考助へと向き直ったビアナが、話を続けた。
「<至上の君>には、ある物を創ってもらいたいのです」
「やはりそう来たか」
 ビアナの言葉に、シュレインが少しだけ興奮したように頷いた。
「ええと。何を創るのかというのも興味あるけど、その大袈裟な呼び名は何? 非常に面映ゆいんだけど・・・・・・」
 先程から<至上の君>と呼ばれるたびに何とも言えない感覚になる考助。
 しかし、ビアナは気にした様子を見せずに問いに答えた。
「<至上の君>というのは、我々ヴァンパイアにとって非常に重要な神の一人です」
「へ・・・・・・?」
 思ってみなかった言葉に、考助が呆けたような表情になった。
 確かに考助は神だが、ヴァンパイアに崇められるような状況になった覚えはない。
 思わずシュレインを見たが、彼女も首を振った。
「すまないが、吾もそれについてはよくわかっていないの」
 首を振るシュレイン。
 ビアナが考助に対してその名で呼んだことは驚いたが、まさか考助が<至上の君>だとは思っていなかったのだ。
「それは、これから創っていただく物で理解出来るかと」
 ビアナは同族であるシュレインにそう答えた。
 ちなみに、プロスト一族の彼女にとって、ヴァンパイアと真祖ヴァンパイアに上下関係はない。
 あるのは、純然たる力の差だけだ。
 もっとも、それが上下関係を決める一面を持つが、それが全てではない。
「創ってもらう?」
「ええ。これを使って」
 シュレインの確認に、ビアナが懐から手のひら大の球体状の物を出した。

「それは?」
「あっ・・・・・・!」
 それを見たシュレインは首を傾げたが、今度は考助が反応を示した。
 その様子を見て、ビアナが嬉しそうに頷いた。
「流石ですね。見ただけでこれが何か理解されましたか」
「そりゃまあ、散々調べて分からなかった物だからね」
「コウスケ?」
 前もって知っていたかのような反応に、シュレインが問いかけた。
「分からない? シュレインの城にも似たような物があるじゃない」
「まさか、ヴァミリニア宝玉ですか~?」
 ピーチが先に気付いて、首を傾げた。
 シュレインが気づかなかったのは、ヴァミリニア宝玉その物とはだいぶ様子が違ったためだ。
「正確には、ヴァミリニア宝玉になる前の段階と言った感じかな? もっと言うと、同じような処理をしてもヴァミリニア宝玉にはならないけど」
 考助が以前にヴァミリニア宝玉を調べた時、どうしても分からなかった部分があった。
 その部分がそのままビアナが持っている球体に当てはまるのだ。
 もっとも、ビアナが持っているのはヴァミリニア宝玉そのものではない。
 かといって、プロスト宝玉そのものでもない。
 今ビアナが手にしているのは、プロスト宝玉になる前段階の物だ。
 その宝玉は、山の神であるクラーラ神から渡されて、長い間本来の姿になるために力をビアナを含めた管理者たちに力を注ぎ込まれている物になる。

 考助の言葉にビアナも頷いた。
「その通りです。<至上の君>には、これを使ってこの神殿の宝玉を作っていただきたいのです」
「・・・・・・へ?」
 思ってもみなかった言葉に、考助は思わずキョトンとした。
 もう考助は、このアルキス神殿がヴァミリニア城と同じ理屈で出来ている物だと疑っていない。
 そのヴァミリニア城の宝玉と同じようなものを作ってほしい、というのであれば分かるのだが、ビアナは神殿の宝玉を造ってほしいと言っているのだ。
「それに関しては、口で説明しても分かりづらいところがあるかと思いますので、ちょっとした方法で伝えます。シュレイン、でしたか。伝達の儀を行いますが、よろしいですか?」
 伝達の儀と聞いたシュレインは、すぐさま頷いた。
 それは、ヴァンパイアに伝わる契約の儀式の一つだ。
 当然その目的も理解できる。
「勿論かまわぬ。むしろお願いしたいくらいだの」
「では早速始めましょう」

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 伝達の儀自体はすぐに終わった。
 要は、ビアナが持っている知識を他者に伝える事ができるのが伝達の儀ということだった。
 勿論、知識を与える側も受け取る側も、どちらにも一人ずつ儀式を知っている者が必要なのだが、この場合はシュレインがいたので特に問題はなかった。
 そのシュレインを中継するように、考助達にもその知識が伝えられたのである。
 当然ながら、既に話について行けなくなっている神殿長と神官は別だ。
 その知識を与えられた一同は、納得すると同時に思わず唸っていた。
 一番戸惑っているのは手伝ってほしいと言われたピーチだった。
「こ、こんなこと本当に出来るんですか~?」
 最後の最後までそんなことを言っていたのだが、プロスト一族の為にもどうしても必要なことだと説き伏せられた。
 勿論それには考助も加わった。
 結果として、ピーチは「失敗しても文句は言わないでくださいね~」と言いつつ渋々頷くのであった。
というわけで、プロスト一族の現状とそれを解決するための前準備&説明でした。
魂で存在しているわけなので、当然大陸を探しても見つからなかったというわけです。

ちなみに、神殿長・神官たちは蚊帳の外です。
既に考助の正体も分かってきているので、敢えて口出ししてこないというのもあります。
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