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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 旅(フロレス王国編)

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(9)思惑

 冒険者の私兵の失敗に続き、<影>も失敗した。
 冒険者はともかく<影>については、失敗するなど全く想像もしていなかったアミディオは、予想外の展開に遂に追い込まれたと言って良いだろう。
 たかが一組の冒険者を捕らえるのに、まさか<影>までもが邪魔されるとは、想像もしていなかったのだ。
 冷静に考えれば、<影>の活動を阻害して来た時点で、同じ<影>を使っている事を予想しても良かったのだろう。
 ただ、間の悪いことに、アミディオが信頼していた<影>は、今朝方満身創痍の状態で見つかって、アミディオのところまで報告に来ることが出来なかった。
 その時点で別の者が連絡に来ていたのだが、アミディオが手も足も出なかったという報告を頭から信じなかったのだ。
 たかが冒険者が同じ<影>を使っている可能性があるという報告など完全に無視してしまった。
 己の常識にとらわれ過ぎたのが、アミディオの敗因といえる。
 しかしながらこの時点では、まだアミディオは諦めていなかった。
 最後の手段を取るべく手を打っていたのである。

 エイレンの町の支配者であるアミディオは、町においては絶対の権力者だ。
 当然屋敷内では、自ら頭を下げることなどまずありえない。
 現在アミディオは、そのあり得ないことを行っていた。
 ある物に向かってひたすら頭を下げまくっていた。
 そのある物とは、通信具である通信相手に向かって頭を下げているのだ。
「<影>が失敗しただと?」
「は? はあ。今朝になって我が屋敷の前に打ち捨てられている所が見つかりました。内々に処理はしたので住人には見つかっていないかと」
「そうではない。どうやって<影>を処理したのだ?」
「え? は、いや、それが失敗したとしか報告を受けてませんで、具体的には・・・・・・」
 これはアミディオの嘘である。
 正確には報告を受けていたのだが、怒りの余りすぐに追い返してしまったので、正確なことを聞けなかったのだ。
 もっともそんな事を一々通信相手に教えるつもりはない。
 自分の失敗と取られかねないからだ。
「<影>さえも跳ね除ける冒険者だと・・・・・・?」
 そんなアミディオの様子に気づいているのかいないのか。
 通信相手は、そう呟いた後しばらく黙っていた。
 この間、アミディオから話しかけることはしない。
 あくまで相手が何かを言うのを待つだけだ。
 それほどまでに、アミディオと相手には差があるのだ。

「・・・・・・まあいい。そなたの言う通り、これ以上の失敗は出来ないからな」
「おお、では!」
「よかろう。許可しよう。すぐに書面は送ろう」
「ありがとうございます!」
「ただし・・・・・・!」
 相手の声に、アミディオは身体をビクリとさせた。
「命令だけ出して、屋敷に引きこもっているのは許さん。そなた自ら現場に赴け」
「は? いや、しかしそれは・・・・・・」
 アミディオ自身は、武芸の嗜みはないため行っても役に立たないことは分かりきっている。
 敢えて一緒に付いてく必要性が感じられなかった。
「そなた自身が、その冒険者とやらの顔をしっかりと見てこい!」
「か、かしこまりました」
 話し相手からの指示に、アミディオは頭を下げるしかなかった。
 これで今までの同じように屋敷に籠っているだけには行かなくなった。
 要するに、自分自身で責任を負うことになったのだ。
 だがアミディオはチャンスだと考えた。
 いくらなんでも次の手で失敗するとは思えない。
 それほどの戦力を出すのだ。
 となれば、自分の手柄にすることが出来る。
 そんなことを考えるアミディオであった。

 一方、そのアミディオの通信相手は、通信を切った後で思考に耽っていた。
「一流の<影>をも退ける冒険者・・・・・・。許可を出したのは失敗だったか? ・・・・・・いや、考え過ぎだろう」
 そう呟いた後で首を振った。
 いくらなんでも一パーティの冒険者で、次の手を防げるとは思えなかった。
 何しろ今度の相手は、正規軍になるのだから。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「お、おい。正規軍がこの街に向かってきているってよ!」
 その情報に、宿の食堂は一瞬騒めいた。
 向かってきている正規軍は、検問所のある砦から向かってきているという。
 正規軍が普段この町に来ることはほとんどない。
 非番の兵士が遊びに行くくらいだろう。
 だが、冒険者が確認した正規軍は、武装しているという事なので、そういった類のものでないことは確実だ。
「・・・・・・と、言うわけだが、どうするんだ?」
 冒険者の一人が考助に聞いてきた。
 正規軍が何のためにこちらに向かっているのかは理解しているのだろう。
 その上で、以前に圧倒的な力を見せつけた考助達に話を聞こうとしているのだ。

 考助はその問いにはすぐには答えなかった。
「向かってきている正規軍は、どれくらいの規模ですか?」
「あ、ああ。歩兵の二個小隊だ」
 フロレス王国においては、歩兵の一個小隊は約五十人で構成されている。
 つまりは、この騒ぎを収めるために約百人を投入してきたことになる。
 それを聞いた宿にいた冒険者たちは、息を飲んだ。
 ミツキやピーチの実力を分かっていても、流石に二個小隊を相手にするのは、と考えたのだろう。
「と、いう事は、正規兵が百人ですか・・・・・・。無駄なことをというか、なんというか」
 対する考助は、苦笑するだけだった。
 ミツキやピーチも苦笑いになっている。
 ワンリに至っては、キョトンとした表情になっていた。

 それを見た冒険者たちは、から笑いをしていた。
 全く気負わない考助達を見て、ある程度今後の事が予想できたのだろう。
 だが、問題が一つある。
「正規軍となると、前みたいな手は使えないが、大丈夫なのか?」
 前と言っているのは、冒険者の私兵が襲って来た時の事だ。
 あの時は冒険者が相手だったので、くだらない誤魔化しで逃げることが出来たが、正規軍が相手となるとそうはいかない。
「そうなんですがね・・・・・・。まあ、正規軍が相手だからこそ使えるようになる手もあるんですよ」
 考助がそう意味深に笑って返すと、冒険者は肩をすくめた。
 ここにいる冒険者たちは、前の事もあって、既に考助達がただの冒険者だとはかけらも考えていない。
 その考助が手はあるというのだから、何かあるのだろう。
 そのことを疑うことはしなかった。
「そうか。ところで、俺たちだが・・・・・・」
 何かを言おうとするその冒険者を、考助は手で遮った。
「すみませんが、今度も手を出さないでくださいね。というか、今度こそ手を出したら庇いきれませんよ? 何しろ正規軍が相手なんですから」
「・・・・・・む」
 考助のいう事ももっともだった。
 変に手を出したりすれば、軍への攻撃とみなされてしまうのだ。
 それは考助達も同じなのだが、考助達自身は庇いきれても他の者達はそうならない可能性がある。
 それ故に、手を出されてしまっては困るのだ。
「すみませんね。本当なら貴方達も暴れたいんでしょうが、状況が状況ですから」
「まあ、それはしょうがないわよ。業務の妨害とか言われて捕縛されたらどうしようもないからね」
 考助達の会話を聞いていた女冒険者の一人が、会話に割って入って来た。
 ちなみにしっかりと足元でナナがモフられている。
「そういうことですね」
 女冒険者の言葉と考助が頷くのを見て、その冒険者も渋々頷いた。
「まあ、あなた方が心配するような展開にはなりませんから。安心して見ていてください」
「いや、済まないが、お前たちに戦闘での心配はしていない」
 きっぱりと冒険者にそう言われて、苦笑するしかない考助であった。
いよいよ次回、正規軍が登場します。
その結果どうなるのか。
考助はどんな手を考えているのか、それは先の話をお待ちください。
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