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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 旅(フロレス王国編)

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(7)風

明けましておめでとうございます。
昨年中は、本作を御贔屓賜りましたことを深く御礼申し上げます。
また本年も「塔の管理をしてみよう」をよろしくお願いします。
 考助が一週間程度と予測してから既に五日が経っていた。
 泊まっている宿への妨害工作は相変わらず続いているが、ミツキ運輸のおかげで特に問題なく宿は開いていた。
「どういう事だ!」
 屋敷の一室で、その声が響き渡った。
 声を浴びせられた者は一度だけ首を竦めたが、特に堪えた様子は無かった。
「どうも奴らは、この町の店以外から仕入れる手段を持っているらしいな」
「馬鹿な! たかが冒険者とみすぼらしい宿屋だぞ! なぜそんな手段がある?! 大体、どこから入ってきているんだ!」
 町に入るためには、四つの門を通らないと入ることが出来ない。
 その全てで検問を行っている。
 それゆえに、入って来た商品がどこへ流れているかは、大体把握することが出来るのだ。
 その全てを抑えているはずなのに、目の前の男は他のルートで仕入れているといった。
「ふん。どうせ町の奴らが裏で渡したりしているのだろう?」
「それはありえないな。宿の者には四六時中見張りを付けているが、町中で仕入れをしている気配はない」
「だったらなぜ、未だに食事を出し続けているんだ!」
 激昂する部屋の主に、向かい合っている男は表情を変えずにある情報を出した。
「噂だが、宿泊客の中に転移魔法を使える者がいて、そいつが仕入れをしているという話だ」
 その台詞に、主は一瞬ポカンとした表情になった。
「は、ハハハ。何を馬鹿なことを。転移魔法だと? 国の一級魔法使いくらいしか使えない魔法だぞ?! それをたかが冒険者が使えるわけないだろう!?」
 このセリフ一つで、部屋の主が冒険者をどういう存在かと考えているか、丸わかりだ。
 否定する材料はいくらでも持っているが、それを言っても効果が無い事は分かっているので、さっさと話題を変えた。
「それで、このまま続けるのか? 時間が無いという話ではなかったか?」
 男の問いに、部屋の主はフンと鼻を鳴らした。
「当然、次の手を打つ。お前はしばらく黙っていろ」
「そうか」
 不遜な態度を取る主に、少しも表情を変えずに男は頷いた。
 雇い主である主が決めたのであれば、口を出すつもりはなかった。
 恐らくその手は全く効果が無いだろうという事は。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 昼間。
 考助達が泊まっている宿は、朝夜とは打って変わって穏やかな空気が流れていた。
 基本的に昼間に討伐なり採取なりに行く冒険者が多く泊まっているこの宿は、当然ながら昼間は閑散としているのだ。
 といってもお客が全くいなくなるわけではない。
 今日は休みと決めた者達が、酒場兼食堂で寛いだりしている姿はちらほらとみられる。
 その中に、考助達一行もあった。
 何気に女性冒険者の間で、ナナの人気が上がっていたのはある意味当然なのかもしれない。
 それを見たワンリが、姿を変えようとして考助に止められていたほどだった。
 今もまた、女性冒険者の一人に背中をモフられていた。
 ちなみにナナの毛は、ふんわりとした柔らかい毛になっている。
 下手をすれば、高級毛皮のコートさえも凌ぐ、というのがある女性冒険者の弁だった。

 そんな穏やかかな空気が流れている食堂で、ナナがピクリと反応した。
「あら? ナナちゃん、どうかした?」
 ほとんど毎日のように撫でているためか、そのナナの変化に女性冒険者が気づいた。
 ナナはそれには答えずに、スッと立ち上がって考助の所へと移動した。
 それを見た考助は、いよいよ来るものが来たかと内心で思った。
 当然のように考助のすぐ傍に、仲間たちが集まって来た。
 それを待っていたかのように、食堂に一人の冒険者が入って来た。
 若干慌てた様子に、食堂にいた冒険者たちも気づいた。
「おい。どうしたんだ?」
 その表情でただ事ではないことに気付いたのだろう。
 入口傍にいた冒険者が、駆け込んだものに聞いていた。
「りょ・・・・・・領主の手下がこちらに向かって来る!」
 その言葉に、食堂にいた一同に緊張が走った。
 ただ、その様子は慌てず騒がずというものだった。
 どちらかといえば、来るものが来たという感じだった。
 彼らもこうなることは予想していたのだろう。
 いつ来るのかというのは、分かっていなかったとしても。
 人数が少なくなる昼間を狙ってくることも当然予想していたのだ。

「予想通り一週間以内だったな」
 考助の傍にいた冒険者の一人が、ニヤリとした表情になった。
「どうして日付まで予想できたのか、聞いてもいいのか?」
 その問いに、考助は肩をすくめた。
「いえ。多分ですが、今日のこれは本命ではないでしょうね」
「ん? どういう事だ?」
 考助は、首を傾げる冒険者には答えずに、駈け込んで来た冒険者に質問した。
「こっちに来ているのは、私兵ですか?」
「え? あ、いや。普段から囲っている冒険者たちだった」
 その答えで、何人かの冒険者がなるほどと頷いた。
 考助の隣にいた冒険者もその一人だった。
「そういう事か」
「まあ、騒ぎは起こすけれど、あくまでも冒険者内での揉め事だとしたいんでしょうね」
 考助の台詞に、冒険者の何人かが顔を歪めた。
 下手に手を出せば、それを口実に捕らえられることがわかったのだ。
 しかも、捕らえられるのは、こちら側の人間だけになるのだろう。

「そう言うわけですから、貴方達は手を出さずに見ていてください」
 考助の台詞に、その場にいたほとんどの者が驚きの表情になった。
「おい! それは・・・・・・」
 慌てる冒険者の一人に、考助は手を上げて遮った。
「こっちは大丈夫ですから。それよりも、こちらの騒ぎに乗じて宿に火を付けたりする者が出ないかしっかりと見張っていてください」
 全く気負わずに平然としている考助を見て、冒険者達は静まり返った。
 今この場に残っている冒険者は、それなりに腕が立つ者達だ。
 そうでなければ、こうして昼間から休むことなどできない。
 その者達が、考助達からくるプレッシャーを感じ取ったのだ。
 それを見て満足した考助が、一つ頷いてから笑い返した。
「まあ、見ててください」

 しばらくしてから噂の集団はやって来た。
 数にして三十人以上いるだろう。
 宿から離れずかと言って近すぎない場所に、彼らは陣取った。
 最初、もっと近づこうとしていたのだが、考助達が宿から出てくるのを見てその場で止まったのだ。
 宿から出てくる考助を見て、中央の男がニヤリと笑った。
 最初に考助にいちゃもんを付けて来たあの男だった。
「観念して出てくるとはいい心がけだ。安心しろ。女どもは俺がしっかり躾けてやる」
 以前のことで、ピーチの実力はある程度分かっているはずなのに、味方の人数の多さに気が大きくなっているようだった。
 考助はそれには答えず、ミツキとピーチに話しかけた。
「それじゃあ、予定通りお願いね」
「分かったわ」
「はいは~い」
 二人はそれだけ答えると、すぐに行動を開始した。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 その時のことを、現場にいた冒険者の後にこう語った。
「そこだけ強い風が吹いたようだった」
 考助が一歩一歩集団に近づいて行くごとに、立っている男たちの数がみるみる減って行った。
 中央の男がそれに気づいたときには、既に遅かった。
 考助に注目していたためだけではない。
 全くその動きに気付けなかったのだ。
 二人の女は、最初に見た時には確かに考助の両隣にいたはずだ。
 だが、考助が一言何かを言った次の瞬間には、姿が見えなくなり、仲間たちが次々と倒れていき、自分一人が残った時には、考助の両隣に戻っていた。
 信じられなかった。
 何が起こったのかは一目瞭然だ。
 だが、とても信じがたい出来事に、男は呆然とすることしかできなかった。

 呆然と突っ立っている男に考助は近づいて行き、剣の射程圏内まで入ってからわざとらしく首を傾げた。
「あれ? お仲間さん、強い風にでもやられたんですか? 立ち上がれないみたいですが、大丈夫ですか?」
 その台詞に男は顔を真っ赤にした。
 何が起こったのか、誰が何をしたのかは言わなくても分かっているだろう、と。
 怒りのあまり言葉が出てこない隙に、宿から様子を見ていた冒険者の一人が、突然大声を出した。
「おやおや~。風でやられちまったんだったら、しょうがないよなあ」
 ニヤつきながらそんなことを言って来た。
 考助の目的に気付いたのだろう。
「ふ、ふざけ・・・・・・!!」
 ふざけるな、と激昂しようとした男にかぶせて、さらに他の冒険者がさらに煽って来た。
「それとも何か? これだけの人数揃えて、あっという間にやられたってか?」
 そう言った冒険者は続けて大声で笑った。
 その段階で、見ていた冒険者も何をしようとしているのか分かったのだろう。
 同じように笑いながら、それはねーよな、とか、そんなの恥かしすぎるだろ、などと囃し立て始める。
 騒ぎの様子を見ていた中には、冒険者ではない一般の者もいたが、そうした者達は本当に何が起こったのか分かっていない者もいた。
 それほどまでに、あっという間の出来事だったのだ。
 勿論考助の作戦に乗っている冒険者たちは、何が起こったのかはっきりと分かっている。
 目で追うのでやっとという所だったが、それでもミツキとピーチの二人がこれだけの集団を秒殺したのだと。

 男たちの集団の中でただ一人だけ立っている男は、顔を赤くしたり青くしたり忙しかった。
 冒険者達に煽られてようやく状況を理解できたのだろう。
 考助達が自分達に手を出して倒されたというのであれば、今は何も出来なくても捕縛なり何なり出来るだろう。
 だが、この状況ではそれも難しかった。
 何故なら考助達の手で倒されたのだとすれば、数分も掛からずにこれだけの仲間たちが倒されたことを喧伝することになる。
 今自分に向かって煽っている冒険者たちが、噂という形であっという間に広めてしまうだろう。
 領主は、女二人に数分で倒されてしまうような手下しか雇っていないと。
 例えその後で自分達を解雇したところで、その噂はついて回ることになる。
 普段であれば、そんなことは気にもしなかっただろうが、今この時期はまずかった。
 何より自分たちがこのタイミングで動くことになった理由があるのだ。
 かと言って実際に風で倒されたと領主に報告するわけにもいかない。
 男は完全に板挟み状態になってしまった。
 頭の中はパニック状態でまともに考えられる状態ではない。
 そんな中で考助が一言。
「怪我で済んでいるうちに、さっさと引いた方がいいんじゃない?」
 勿論その言葉は、他の者達には全く聞こえていない。
 だが、男にとってはそれだけで十分だった。
 ようやく起きだして来た男たちに向かって「引くぞ!」と言って、自分たちの拠点へと戻って行ったのであった。
良い区切り場所が見つからずに、ずるずると長くなってしまいました。

そして、やっぱり戦闘にはなりません。
これでようやくピーチの実力の一端が出せました。
このために一緒に旅に連れて来たと言ってもいでしょうw
この後さらに・・・・・・(意味深)。
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