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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第22章 塔と祭り

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閑話 クラウンの規定

 クラウンにおいて、奴隷の扱いはこの世界では破格の物だ。
 まず真面目に働いている分には、普通の身分と扱いが違わない。
 それどころか、場合によっては、普通の身分の者よりも高い地位に就くことさえできる。
 勿論そうなるためには、相応の働きも必要になるのだが。
 クラウンが立ち上がった初期の頃に比べて、今のクラウンでは奴隷身分の者が高い地位に就くことはほとんど不可能になっている。
 理由は単純で、普通の市民権を持った有能な人材が、クラウンの名前につられて集まってくるからだ。
 もはや奴隷身分の者が、這い上がれるような隙間すらなくなっているのが正しい。
 とは言っても、高い地位に就けないというだけで、その扱いは他と比べて破格の物だった。
 まず、休みがある。
 奴隷になってしまえば、休みなどないのが当たり前。
 かなりいい主人に当たれば、月に数度の休みがもらえる程度だ。
 それが当然の世界なのだが、クラウンに雇われれば、少なくとも週に一度は休みがもらえる。
 さらにその扱いについても普通の市民と変わらない。
 通常であれば、奴隷はあくまで奴隷として扱われる。
 これは当然の事なのだが、クラウンにおいては、ある程度の人権が認められていた。
 まず、奴隷だからと言って不遇の扱いはされないのだ。
 その話は奴隷たちの間を駆け巡っており、もはや奴隷たちにとってクラウンに買い取ってもらえるのは、一番いい条件となっていた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「なるほど、そういう事ですか・・・・・・」
 報告書から顔を上げたリサは、難しい顔をした。
 それをガザーラが見咎めて、リサに声を掛けて来た。
「どうした? 今回はそんなに難しい案件なのか?」
「そうですね・・・・・・。難しいと言えば難しいですし、単純と言えば単純ですね」
「なんだそら?」
 リサの答えになっていない答えに、ガザーラが首を傾げた。
 そして、そのままリサが差し出した報告書を読み始めた。
「ははあ。なるほどねぇ」
 そこに書かれていたのは、奴隷に関しての報告だった。

 内容としては奴隷の扱いがひどいと言う報告だったのだが、問題はその奴隷がクラウン所属ではないという事だった。
 正規登録している冒険者の奴隷だったのだ。
 冒険者が奴隷を持つことはさほど珍しい話ではない。
 パーティを組んでいると報酬の分け方で、揉めることはよくある話だ。
 そうしたことを嫌って、パーティ全員を奴隷で固める冒険者もいるほどだ。
 そのこと自体は問題がない。
 問題があるのは、その扱いだった。

 最近になって南の街の支部で、クラウンに正規登録している冒険者が奴隷と共に活動をするようになった。
 ところがこの冒険者の奴隷に対する扱いが、目に余るそうだった。
 それだけなら支部の者が注意をすればいいのだが、この冒険者は全く聞く耳を持たない。
 そもそもクラウンの奴隷に対する扱いは、あくまでもクラウンに所属している従業員に適応されている物になる。
 冒険者が所有している奴隷に関しては、特に明記されていない。
 普通に考えれば、その冒険者がクラウンに所属している以上、どの奴隷も同じような扱いになると考えるのだが、その冒険者はあくまで個人で持っている物だから関係ないと言い張っているらしい。
 その冒険者も心得たもので、クラウン所属の奴隷に対しては、特にひどい扱いをするわけでもない。
 あくまでも自分の奴隷だけにそう言った扱いをするのだ。
 支部側でも特に冒険者の奴隷の扱いに関して、明記されているわけではないので、その扱いに困っているという事だった。

「で? どうするんだ?」
 ガザーラがリサにそう聞いてきた。
 そもそもリサ自身が奴隷なので、その冒険者たちの奴隷を放っておくことはしないだろうと考えている。
 だが、いくら査察官といってもクラウンの規定に無いことで冒険者を処罰することは出来ない。
「どうもこうもありません。きちんと規定に従って処罰しますよ」
「へえ? そんな規定あったか?」
 あっさり言ったリサに、ガザーラが目を丸くした。
「まあ強引と言えば強引ですがね。クラウンの規定の趣旨からは、外れていないかと」
「そいつは楽しみだ」
 ガザーラは敢えてそう言った。
 こういった場合は、その場でどういう裁きを下すかは聞かない事にしているのだ。
「まあ、微妙なことも確かなので、一応ワーヒド様の承認をもらってきます」
「それはまた珍しい」
 リサは、査察官としてかなり高い権限を持っている。
 だが、場合によってはその権限が及ばない場合、あるいはリサ個人では判断がつかない場合もある。
 そういった時には、ワーヒドから承認を伺うことになっている。
 といっても、リサがワーヒドからの承認を伺うことなどほとんどない。
 ただし、今回に関しては色々微妙なことがあるので、念のため伺うことにした。
「必要ないかもしれませんが、一応念の為です」
 リサはそう言って、与えられた自室から出て行った。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「何だてめーは! 俺の奴隷をどう扱おうが、俺の勝手だろう?」
 南の街のクラウン支部の建物内に、そのがなり声が響いた。
 その声を発したのは、報告書にあった冒険者である。
 その声で、その場にいた冒険者の注目を浴びてしまった。
 正確に言えば、元々いくらか注目を集めていたのだが、その声で余計に視線が集まったのだ。
 ちなみに今のところガザーラは、手出しをしていない。
 ガザーラの出番は、冒険者が暴力的な手段に訴えた場合だ。
 報告書にあった通りの対応に、リサは予定通り話を進めることにした。
「そんなことはありませんよ。貴方が奴隷を購入した時点で、その奴隷に対する責任が生じています」
「はん! 話にならねーな。だからその責任において、しつけをしてるんだろーが!」
「いいえ。違いますよ。この場合の責任と言うのは、クラウンに対する責任です。いえ、義務と言っていいでしょうか」
「何だと?」
 今までの対応とは違う話に、冒険者はいぶかしげな表情になった。

「貴方もご存知の通り、クラウンは奴隷に対して通常の扱いを求めています。これはクラウンに所属する者の義務になっています。それは冒険者でも変わらないのですよ?」
「はっ! 馬鹿馬鹿しい。そんなことどこに書かれている?」
「いえ。どこかに記載されている話ではありませんね。常識の範囲内の話です」
 リサが、「常識の範囲内」と言った瞬間、ガザーラがプッと吹き出した。
 確かに冒険者がクラウンに所属するうえで、奴隷に対する扱いを細かく書いているような規定はない。
 しかしながら、「常識の範囲内で行動するように」という規定は確かにあるのだ。
「てめー。何が可笑しい?」
「いやいや。確かにお前の奴隷に対する扱いは、「常識の範囲外」だなと思っただけだ」
「ああ? あほかてめーは。俺は俺の常識に従って行動しているだけだ。それをてめーらにどうこう言われる筋合いはねえ!」
 そう言いきった男に、リサが頷いた。
「なるほど。畏まりました。では、貴方はもうクラウン、リラアマミヤに所属する気はないという事ですね?」
「は? なぜそうなる?!」
「簡単な話です。クラウンに所属する規定に関しては、先ほど話した通りです。ですが、貴方はその規定を守るつもりはないと仰いました」
 リサの台詞を引き継いで、ガザーラがさらに続けた。
「早い話が、俺たち冒険者はクラウンの規定に従って契約しているわけだ。その規定を守れないという事は、当然契約破棄、クラウンの退会になるってことだ」
「ば、馬鹿な! そんな話・・・・・・!」
 男は、周辺を見回したが、その視線を受け止める者は誰もいなく、逆に視線をそらされるだけだった。

「だ、大体、てめーにどんな権限があって、俺を首にするってんだ!!」
「ああ、失礼しました。私は、クラウンの査察官をやっていますリサと言います」
「これも早い話が、あんたを首にする権限をこの娘さんは持っているってことだ。まあ、大体五年もすればまた再登録できるんじゃないか?」
 追いつめられた男が最後のあがきをしたが、これもあっさりと退けられてしまった。
「まて、待ってくれ! 奴隷の扱いがダメだってんだったら、ちゃんと直すから取り消しだけは勘弁してくれ!」
「あのなあ。今まで散々窓口で注意を受けて来ただろうが。それでも直さなかったお前が、直せるとは思えないから俺たちがわざわざ出張ってきたんだぞ?」
 窓口に視線を向けた男に向かって、更にリサが続けた。
「もしこのことで、報復とかを考えているのでしたら、よした方がいいでしょう。大陸の外に行かない限り、クラウンの力が及んでない所は無いですから」
「どこに行ってもお前の行き場所はなくなるな。まあ盗賊にでもなるってんだったら話は別だが」
 過去にも逆恨みで、受付嬢をどうこうしようとした輩もいなくはなかったが、その結果に関しては冒険者達にしっかりと叩き込まれている。
 男も同じだったので、先ほどの態度もすっかり色あせて、若干青褪めた表情になっていた。
「そう言うわけですから、諦めてこのまま受付へ行ってください。退会の手続きはここでもできますから」
 最後にリサがそう言うと、男はガクリと膝をついたのであった。
これで第22章は終わりです。
明日からは第23章になります。

「常識の範囲内」最強の文言ですよね。
どんなことでも、これがクラウンとしての常識ですと言われれば、それが義務になってしまうという事ですから。
ただし、クラウン側はこれを使って無茶なことを押し付けるつもりは、当然ながらありません。
そんなことをすれば、あっという間に人が離れて行ってしまいますので。
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