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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第22章 塔と祭り

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(1)初日

 アマミヤの塔の第五層にある街では、大々的に祭りが開かれようとしていた。
 折しも、この第五層に初めての冒険者たちが入植してから、ちょうど一年が経とうとしている。
 それを記念してのお祭りだ。
 今回限りで終わりではなく、来年以降も続けることは発表されている。
 そもそも、このお祭り自体は、行政府が発案したものではない。
 もともと街の住人達から行政府へ提案されたものを、行政府が許可した物だ。
 提出されたのが、ちょうど一周年に近かったためそれに合わせるように、行政府が認可したのだ。
 許可が下りてから住人達は、これ幸いとばかりに準備に走った。
 最初は小さな集団が出したのだが、許可が下りた途端、うちもうちもと増えていき、最終的には街全体が関わるお祭りになっていた。
 住人の数が十数万を超えようとしている街が、祭りを通して一つになっているのは、いろんな意味で街にとって良いことだった。
 準備中に何か騒ぎを起こせば、祭り自体が中止になるとほのめかしたせいか、警備隊の手を煩わす前に騒ぎが収まる光景が、あちこちで見られたほどだ。
 この辺は良くも悪くも冒険者の街だという事だろう。
 そんなこんながありながらも、大きな騒ぎも起こることなく、住人の手によって祭りの準備は着々と進められた。
 ほぼ毎日のようにその規模を変えている街だが、これまで祭りのような物は無かった。
 あえて挙げるなら、街に唯一ある神殿での落成式があったが、それは一部の者だけが呼ばれて、街の住人が関わるような物ではなかった。
 そう言った意味では、初めての大きな祭りという事になる。
 そんな祭りが、一日だけで終わるはずもなく、あれよあれよと言う間に三日間連続して行う祭りになってしまった。
 その準備に関わる手間は、それなりの物になったのだが、それでも住人達は楽しそうに祭りの準備に勤しんでいた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 お祭り初日。
 祭りが開かれるとあって、街の住人だけでなく、塔外からも祭りを楽しもうと人々が集まってきていた。
 街のそこかしこで祭り用の出店が開かれている。
 普段食堂を営む店主たちは一か所に集まって、ここぞとばかりにその腕を振るっていた。
 当然このイベントにクラウンの商人部門が出張らないはずもない。
 ありとあらゆる分野の商人がここぞとばかりに張り切って祭りを盛り上げるための店を出している。
 この日から三日間は、宿泊施設以外の店のほとんどは、普段の営業はやらずに祭り仕様となっていた。
 勿論普段の店主たちが頑張るだけではなく、祭り独自のイベントも行われている。
 一番の盛り上がっている見世物は、街の外れに作られている闘技場での大会だ。
 普段はクラウンの冒険者たちが、訓練用に使っている施設を祭りの武闘大会用に開放したのだ。
 そこでは三日に渡って、腕自慢の冒険者が熱い戦いを繰り広げることになっている。
 初日である本日は、まだ予選の段階なのだが、観客席には入りきれない程の人が集まっていた。
 その中の多くは、賭けの参加者たちなのだが。
 こうした賭けも大きな楽しみの一つとなっているのだ。

 街全体が祭りで盛り上がっているため、街を歩いている者達も祭り仕様となっていた。
 具体的に言うと、仮面を付けて歩いている者達があちこちにいるのだ。
 これは、祭りを楽しむために、普段の自分を隠して仮面を付けることを推奨したためだ。
 顔を隠しているからと言って、暴挙に出る馬鹿が出ることも懸念されたが、そんな祭りを壊すような輩はすぐに排除された。
 これは最初は警備隊は難色を示したのだが、祭りの準備段階でのことが評価されたため、最終的には許可が下りたのだ。
 噂では、上からの命令が下って許可が下りたという話もあるのだが、一部の者を除いて真偽のほどは分かっていない。

 その噂の事実を知っている一部の者達が、祭りでにぎわう街の中を歩いていた。
 全員で十人にもなるその集団は、全員が仮面を付けている。
 人数がかなり多いとは言え、複数のパーティーで祭りを楽しむ冒険者たちもいるため、さほど目立っている様子はない。
 顔は見えないので分からないが、服装や雰囲気から一人だけが男性で後は女性だと分かる。
 その集団のなかには、狼の従魔も一匹含まれているため、完全に冒険者の集団だと周りには認識されていた。
 勿論その集団の正体は、このアマミヤの塔を管理している考助を中心としたメンバーたちだ。
 仮面を付けて練り歩くアイデアは、考助達から出されたわけではない。
 純粋に祭りを準備していたグループから出されたのだ。
 だが、やはり警備上で問題があると却下されそうになっていた所を、その話を知った考助が待ったをかけたのが真相だった。
 その情報源は、デフレイヤ一族からもたらされていた。
 そんな情報をどこから聞きつけたのかと、アレクが内心で頭を抱えたらしいが、兎にも角にも仮面舞踏会ならぬ仮面祭りは実行されることになったのだ。
 折角の祭りなので、正体を隠して参加したかったのである。
 考助の顔は、神殿の落成式で見せたくらいなのだが、それでも祭りという事で、内外からそれなりの地位の者も集まっている。
 どこでばれるか知れたものではないので、この仮面のアイデアは渡りに船だったのだ。
 考助が神威を完全に抑え込めるようになったからという事情もあるのだが。

 その考助は現在、出店で買った串焼きのような物を従魔に与えていた。
 勿論その従魔も小型化したナナだ。
 当然串ごと与えるような事はせずに、きちんと肉は取り外して与えている。
 もっとも串ごと与えてもナナのことなので、串から取り外して食べるだろう。
「まだ初日だというのに、盛り上がっているのう」
「そうですね~。話では、二日目三日目の方が外からのお客様は多いらしいですが、初日は街の住人達らしいですね」
「なるほど。だから盛り上がっているとも言えるのか」
 ピーチが言う通り、塔の外からのお客は、二日目三日目が多くなると見込まれている。
 イベントが多くなるのが最終日なのだから当然なのだが、初日がここまで盛り上がっているのは、イベントに駆り出される住人が今のうちに楽しんでいると言える。

「お父様、あれは何ですか?」
 ある出店に出されている物を見つけたハクが、考助に聞いていた。
 その視線の先にある物を見て、考助も嬉しそうに目を細めた。
「おー。こっちにもあったのか。買って来るから待っててな」
 考助の予想と同じ物であれば、甘い食べ物のはずだった。
 その出店に近づいて行き、見た目とにおいで間違いないと確認した考助は、出店の店主に声を掛けた。
「おっちゃん、これ綿あめか?」
「おうよ。買うかい?」
「一つ頂戴。しかし、こんな魔道具あったんだな」
「ああ、この街じゃ珍しいかもな。まあ祭り自体が初めてだからしょうがないか。だが、祭りにはつきものだからな。無理やり仕入れた」
「はは。そのおかげで僕たちも楽しめるわけだ」
「おう。存分に楽しんでいってくれ」
 会話をしつつも店主は、器用に白い綿をまとめていった。
 その様子をハクが目を丸くして見ていた。
「はは。嬢ちゃん、綿あめは初めてかい? ほらよ」
 そう言って、ハクへ直接渡した。
 考助は礼を言いつつ、支払いを済ませた。

 綿あめを持ったまま戸惑っているハクに、考助は助言をしてあげた。
「白い部分を食べてごらん」
 食べると言われて一瞬驚いたハクだったが、言われたとおり口に含んだ。
「あっまーい」
 一口食べたハクが、驚きを口にした。
 それを聞いたワンリも興味を惹かれたのか、ハクに一口ねだっている。
 その様子を見ていたシルヴィアが、ふと考助に小声で聞いた。
「綿あめは、元の世界にもあったんですね」
「ああ。驚いたよ。前の世界ではそこまで歴史は古くないはずだったんだけどな。こっちにあって逆にびっくりだったよ」
 そもそも甘いものは、こちらの世界ではそれなりに高価だったはずなのだが、まさか祭りで出せるほどの出回っているとは思っていなかった。
「魔道具も材料となる原料も普通に買えばそれなりなんだがな。祭り用と言えば融通してくれるようになっていたはずだ」
 考助の疑問に答えたのは、フローリアだった。
「そうなの?」
「ああ、大人たちもそうだが、基本的に子供が喜んで食べる物だからな。生産地が祭り用に確保してあるんだ。国も後押ししてたはずだ」
 そうして国の評判を上げているんだと告げた。
「なるほどねえ。まあ僕らはそれを有難いと思っていた方が幸せかな?」
 実害がない限りは、その国の政策に文句を付けるつもりはない。
 何しろおかげで祭りを楽しめるのだから。
 この世界の意外な綿あめ事情に、考助は理解を示しつつこの後も祭りを楽しむのであった。
最後に無理やり入れたので、綿あめの話は窮屈になってしまいました><
綿あめ出そうと思いついて検索してみたんですが、思ったより歴史が浅くて出そうか悩みましたが、結局出しました。
魔道具万歳w

最後締めっぽいですが、祭りの話はまだ続きます。
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