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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第18章 塔と新たな力

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閑話 査察官(前編)

「仮登録組のくせに、生意気なんだよ!!」
 ギルドの受付ホール内で、大きな怒鳴り声が響いた。
 当然その騒ぎの元へ注目が集まる。
 この時間、多くの冒険者が仕事を求めてこのホール内に集まっていたからなおの事だった。
 その騒ぎの中心には、最近何かと幅を利かせている大男・ゲリックと、以前からこの北の街で冒険者としてやっていた中堅クラスの冒険者がいた。
 元からこの街で冒険者をやっている者達は苦々しい表情で、ゲリックの方を見ていた。
 大男は最近この街に流れて来た冒険者で、リラアマミヤの塔で発行した本登録済みのクラウンカードを持っていた。
 対して、リラアマミヤの塔に行けていない冒険者は、ここの受付で発行した仮登録のクラウンカードを使っている。
 クラウンの規定では、特に本登録と仮登録で大きな差はない。
 だが、実際にステータスが表示される本登録のカードは、冒険者たちの間では大きなステータスとなっているのだ。
 最近この街にやってきたゲリックは、それをひけらかすように様々な騒ぎを起こしていたのだ。
 勿論、本登録のカードを持っているのは、ゲリックだけではないのだが、多くの者達は大規模商隊の護衛でリラアマミヤの塔へと戻って行った。
 残った者達で一番ランクが高いのが、自分自身だと分かった途端に、こういった態度に出始めたのだ。

 騒ぎ自体はよくある内容だ。
 そもそも掲示板に張られている仕事は、先に取った者が受けられるという暗黙の了解がある。
 ただ、勿論暗黙の了解であって、クラウン(ギルド)の規定に書かれている物ではない。
 だからこそこういった横暴に出てくる者もいるのだが、ゲリックのやっていることは殊更性質たちが悪い。
 本登録のカードをたてに、後から来た自分が割のいい仕事を奪おうとしているのだから。
 こういった騒ぎには、基本的にはクラウンは不介入である。
 勿論クラウン内で暴力沙汰など起こせば介入したりするのだが、ゲリックはその辺は狡猾でそこまでの騒ぎは起こさない。
 あくまで脅しだけで奪い取ったりするだけなのだ。
 本来であれば、より高位のランクの者が止めたりするのだが、そもそも本登録のカードを持っている者で一番高位のランクの者がゲリックなので、止める者がいないのだ。
 何度も言うが、本登録だろうと、仮登録だろうと、それ自体に差はない。
 登録の際にその説明はきちんとされているはずなのだが、冒険者達の間では既に区別がされ始めているのが実情だった。

 そう言った事情から、いつもであればゲリックに脅されている方が諦めて別の依頼を探すのだが、今日の冒険者は違っていた。
 きっちりと正論を持って言い返した。
「ですが、この依頼は私が先に見つけた物です。権利は私にあるでしょう? それに、仮登録も本登録もそう言ったことに違いはないはずです」
「うるせえ! 本部にも行ったこともないお前に、何が分かる!」
 これはやばい、と騒ぎを見守っていた冒険者たちは思った。
 ゲリックを見れば、既にことを起こしそうな表情になっている。
 そんな状況に待ったをかけた者がいた。

「何の騒ぎですか?」
 カウンター側から、即ちクラウンの職員側から若い男の声が響いた。
 冒険者たちがそちらの方を見て出て来た表情は、また面倒なことに、といった感じだった。
「おや。これはゲリックさんではないですか。どうしましたか?」
「おう。ロドゲル支部長。何、身の程知らずが楯突いてきたんで、道理を教えてやっていた所だ」
「それはいけませんね」
 支部長と呼ばれてロドゲルもゲリックも、にやにやと若い冒険者を見ていた。
 ロドゲルはほんのひと月ほど前に、この北の街の支部長に任命されていた。
 元々はクラウン本部から派遣されていた者が就いていたのだが、この街でも力のある一族であるロドゲルが任されることになっていた。
 だが、はっきり言えば、ロドゲルが支部長に就任したことは、冒険者たちの間では評判は良くなかった。
 そのことは、今の騒ぎを見ていても丸わかりだ。
「取りあえず、貴方には私の部屋に来てもらいましょうか。この騒ぎを起こした責任を取ってもらいます」
 ロドゲルがそう言ったのは、ゲリックではなく若い冒険者に向かってだった。
「私は何もしていません! なぜ、私のせいだと決めつけるのですか!?」
「貴方の意見は今は聞いていませんよ? 私の部屋に来て話を聞かせてと言っています」
 口調だけは穏やかだが、その表情を見れば、明らかに支部長がゲリックの側に付いていることは分かりきっていた。
 成り行きを見ていた冒険者たちも、今はとばっちりを受けないように視線をそらしている。
 若い冒険者もこの支部長のいう事を聞けば、どういったことになるのか理解しているので、ついて行くつもりは毛頭ない。
 だが、ここで支部長に逆らえば、間違いなくこの街では冒険者としてやっていけないだろう。
 諦めて他の街へ移ることを考え始めたが、ここでさらに第三者の声が割り込んできた。

「お待ちください。今のこの状況で、そちらの方だけを連れて行く意味が分かりません。説明してもらえませんか?」
 ロドゲルにそう言って来たのは、若い女性だった。
 その女性を一瞬見たロドゲルは、一瞥だけして言い放った。
「奴隷身分のお前なんかに、そんなことを説明する必要はない」
「答えになっていません。クラウンでは、奴隷だろうとある一定の保証はされているはずですが?」
 勿論すべての奴隷が保障されているわけではない。
 その対象は、犯罪奴隷がそれに当たる。
 だが、それ以外の奴隷に関しては、功績さえ認められれば、一般の者と同等の扱いを受けるのがクラウンでの流儀になっていた。
「たかが奴隷の分際で、私に楯突くつもりか?」
「貴方がきっちりと支部長としての立場をわきまえていれば、私のような奴隷ごときが口を出すまでもなかったのですが?」
 二人のやり取りに、周囲の者達が息をのんだ。
 既に、ゲリックと若い冒険者のやりとりさえ吹き飛んでしまっている。
「ついでに言えば、貴方には身内だけを贔屓してランクを上げているという噂も立っているようですね?」
 その身内の腕がたつのなら何の問題もない。
 だが、単に身内びいきでランクを上げて行くのは、どう考えても規定違反になる。
 その女奴隷の言葉に、周囲の冒険者が剣呑な雰囲気を出し始めた。
 冒険者にとってランクというのは、それだけ重要な物なのだ。

「・・・フン。身の程知らずというのは、お前のような者のことを言うんだろうな。・・・もういい。おい」
 ロドゲルがそう言うと、その場にいた何人かの冒険者が立ち上がり、女に近寄り始めた。
 だが、その手が女を掴む前に、別の冒険者達がその行動を止めた。
「おっと。悪いが、手出しはさせないぜ? ・・・ゲリックだったか。お前さんもだ」
 その声と共に他の冒険者が、ゲリックの指示に従っていた冒険者の行動を止めた。
「な、何だ、お前たちは!? 私に逆らうのか?」
「いやいや、しょうが無いでしょう? 我々のような者達は、より役職が高い者に従うしかないので」
 女奴隷の前に立った冒険者は、そう言いつつニヤニヤと笑っていた。
「・・・なんだと?」
「ガザーラさん。誤解を生むような言い方をしないでください」
 女奴隷がガザーラと呼んだ名前に、周囲の冒険者たちが反応した。
 アマミヤの塔で高額な素材を持ち込んで一躍有名になった冒険者の一人として、その名前はこの北の街にも伝わっていたのだ。
「いやいや。誤解でもないでしょう? リサ・フローレン査察官」
 ガザーラが呼んだその名称は、北の街のクラウン支部の受付ホールにさざ波のように広がるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 そもそもロドゲルが、北の街の支部長に就くことになったのは、北の街からの強い要請があったからだ。
 勿論、そんな要請などクラウンが一々聞く必要などない。
 要請自体を突っぱねることも出来たのだが、ワーヒド達はあえてその要求を受け入れた。
 獅子身中の虫になることは分かりきっていたのだが、今後のためにあえて受け入れたのである。
 一度受け入れてさえしまえば、その人間は組織の中の一役職の人間でしかない。
 その人間をどういう扱いにするかは、組織の中で決められるのだ。
 その処遇に関して、外から文句は言って来るだろうが、組織の運営に外部の者が口出しをしても何の意味もないのだ。
 例え政治的な圧力をかけて来たとしてもだ。
 双方の思惑がかみ合った結果、ロドゲルの支部長就任という事になったわけだが、結果としてはワーヒド達の予想以上の働きをしてくれた。
 当然ながら悪い意味において、ということなのだが。
 身内びいきから始まって、気に入った者の強引なランクアップ、果ては気に入らない冒険者の排除まで。
 およそ思いつく限りの不正をこの短期間で実行してくれた。
 ある程度の様子を見ようとしていたのだが、結局改善することが無かったので、リサの出番という事になったのだった。
や、やってしまった。
非常に中途半端で終わってしまいました。一話で終わらせられませんでした><
次回に続きます。

ちなみに、最後に名前が出て来たガザーラとリサは再登場組です。
いつ出て来たかは・・・探せますでしょうか?w
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