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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第17章 塔と代弁者と愚か者たち

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(10) 触らぬ神に祟りなし

 サジバルで起こった出来事は、セントラル大陸の全ての町において一つの不文律を与えた。
 すなわち、現人神である考助には不用意に手を出さない、ということである。
 クラウンにしろ第五層の行政府にしろ、様々な交渉を行ってきているが、それに関して直接的に関わってきたことは無かった。
 だが、その考助本人を対象にした中傷を仕掛けた途端、今回のようなことが起こった。
 触らぬ神に祟りなし、という結論になるのは、当然の結果と言えた。
 さらに加えて、今回の件で転移門が設置されている四つの都市全てが、アマミヤの塔の傘下に入ることを決めた。
 元々ケネルセンは六侯が傘下になっていた上に、ミクセンも最大勢力の神殿が現人神への恭順を示していた。
 残り二つの街が、今回の件で決断したことになる。
 それもある意味当然と言える。
 何しろ転移門という距離を無視できる移動手段が足元にあるのだから。
 しかも塔側は自由に使えて、自分たちは勝手に使えないときている。
 いざというとき、どちらに軍配は挙がるかは、考えなくても分かる。
 ついでに、先の通りミクセンもケネルセンも既に傘下に入っているのだ。
 自分たちは元々それなりの関係を築いているからとは言え、安心できるわけでもなかった。
 それならいっそのこと、他の二都市と同様の関係を結んだほうがいいという結論になったのだ。
 元々そう言う話は出ていたのだが、今回の件でその話に拍車がかかったのは、言うまでもない。

 転移門が設置されている四つの街が、アマミヤの塔への恭順を示したことで、大陸の勢力図も大きく変わることになった。
 そもそもセントラル大陸においては、都市国家というべき存在があるだけだったので、複数の都市を抱える組織など存在していなかった。
 過去には存在していたこともあるのだが、都市間の距離と魔物という存在が、複数都市の支配を難しくしていたのだ。
 だが、その問題は転移門という存在で解消されている。
 物理的な距離を無視して、すぐにでも移動することが出来る転移門は、そう言った問題を一気に解決することになった。
 さらに言うなら、最近になってクラウンが成功させた大規模商隊の存在もある。
 運用に難がある船を使わなくてもいい物流の確保は、セントラル大陸において重要な意味を持っている。
 そう言った物流が確保できるという事は、単に物の移動だけではなく他の者も移動が出来ると考えるのは当然であった。
 アマミヤの塔の支配者である考助がどういった人物であるかは、噂程度の話しか出ていないが、大量の人の移動(・・・・・・・)を考えない為政者はいないだろう。
 勿論考助自身はそんなことは考えていないのだが、それを知る術がないセントラル大陸の各都市の為政者たちがそれに対応するのは、当然と言えた。
 いやむしろ、考助が考えていようといまいと、それに対処するのが為政者として当然なのである。
 もっともサジバルの状況を見た為政者たちが、武力に頼って対抗することを考えることが良いことか悪いことなのかは、判断が分かれる所だろう。
 ともかく今回の一件で、セントラル大陸の各都市で色々な対処を迫られることになったのは、当然と言えた。
 さらに言うなら、海の向こうの各大陸でもその影響が波及していったことも、今回の件が特大の事件だったことを示していた。

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 セントラル大陸のみならず他の大陸にも大きな影響を与えた今回の事件だったが、その中心人物とも言える考助は、それに対して特に何かしようとは思っていなかった。
 余計な手出しをすれば、それが間違ったり曲解されたりして伝わり、余計手が付けられなくなると判断したのだ。
 結論から言えば、いつも通り放置しておくことにしたのだ。
 当然ながら、姿を見せたコウヒとミツキにもこれ以上の手出しはしないように言ってある。
 迂闊に考助に手を出せばどうなるか、愚か者三人組とその関係者の末路で結果が示されたので、それで十分だった。
 考助としては、たかが噂でやりすぎじゃね、と思わなくもなかったのだが、怒れる二人組に口出しする気にはなれなかったのだ。
 町一つを消そうという話が出た時は、流石に止めたのだが。
 勿論その時は、考助だけではなく他のメンバーも必死に抑えたのは余談である。
 考助本人はともかくとして、他のメンバーが決して考助の事を中傷することはすまいと心に誓ったのは言うまでもない。
 現状そんなことをするメンバーはいないのだが。
 ちなみに、外部に対しては放置することを決めた考助だったが、流石にクラウンと行政府には顔を出している。
 顔を全く見せないと、余計なしこりを残しそうだったので、その辺のフォローの為だ。
 特に行政府に関しては、間接的に関わっているので、本来の業務に余計な影響を与えかねないと考えたのだ。
 とは言え、流石にアレクもその辺はわかっていたので、ある程度の手は打っていたようだった。
 更に考助が訪れたことで、何とか業務に悪影響を与えるのは最小限に抑えることが出来たということだった。
 もっとも、行政府で今回の件に関わっていたのは、さほど多い人数ではなかったのだが。
 ともあれ塔内部へのフォローだけは行ったので、後は流れに任せることにして、今まで通りの塔の管理業務へと戻ったのであった。

「そう言えば、ヴァミリニア一族はどうしている?」
 いきなりそう聞いてきた考助に、シュレインがキョトンとした。
「どうしているとは?」
「ああ、いや今回の件をどう受け止めているのかと思ってね」
 塔の階層で生活をしている種族は、現在のところ四種族。
 その内、デフレイヤ一族は今回の件に関しては、既に対処が終わっている。
 エルフ一族は、そもそも外部との接触を一切断っているために関係がない。
 イグリッド族もヴァミリニア一族との関係以外は存在していないので、ほとんど関係が無いと言える。
 ヴァミリニア一族は、転移門を使って塔の外にもいくことがあるので、今回の件の話は伝わっているだろう。
「どうもしないな。流石考助殿、と思っているくらいかの」
「そんなもんなの?」
「そんなものだの。こうしてヴァミリニア城を復活させてもらえた上に、安全な生活まで保障されておる。元々感謝の念しか持っておらんぞ?」
 シュレインにしてみれば、なぜ突然考助がそんなことを言いだしたのかが分からない。
「ああ、いや、そうじゃなくて。コウヒとかミツキとか、色々思う所はあるんじゃないかと思ってね」
「そういう事か。それはちと考えすぎだの。そもそも吾らはある程度、コウヒ殿やミツキ殿の強さは理解しておる。納得する者は居っても、恐れる者はいないの」
「そうなの?」
「ああ、恐れないというのとは、少し違うか。吾等はそもそも強者に対して、畏敬の念を持つからの。むやみやたらに避けるようなことはしないな」
 強いからと言って、むやみに遠ざけたり嫌悪したり否定するわけではなく、強さを認めたうえで対応をする。
 ヴァミリニア一族は古来よりそうして生きてきたのだ。
 今更、コウヒやミツキが目の前に現れたからと言って、何かが変わるわけではなかった。
 ましてや、その二人が常に傍にいる考助に対しても、馬鹿な真似をする者はいないだろう。
 勿論、集団になれば、馬鹿なことを考える者が出てくるのは人でも吸血一族でも同じなのだが。
「吾等の中では、馬鹿なことをしたものだ、という話で終わっていたな」
「それはまた、ずいぶんとあっさりしたもんだね」
 思わず考助は苦笑した。
「吾らには、触らぬ神に祟りなし、という言葉があるからの」
 ヒューマンにも同じ言葉はあるが、今回のように馬鹿なことをやらかす者は出てくる。
 その差は一体なんだろうな、と考助は考えるのだが、結局分からないのであった。
この話で、愚か者話は終わりです。
結局、塔にとって一番いい結果になったのではないでしょうか?
これを機に、どんどんアマミヤの塔の影響力が広がっていくことになります。
第十七章の本編はこれで終わりです。
後数話閑話を挟んで、第十八章になります。
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