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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第12部 第1章 引っ越し

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閑話 経験者と未経験者

 王の寝室の秘密がわかってから一週間後。
 既に考助たちは管理層(新拠点)に戻っているが、フローリアだけはレオナルドに呼ばれて城に顔を出していた。
 ただし、城といっても公的な場所ではなく、普段レオナルドが過ごしている私室になる。
 他の王族たちは別の場所に離宮なり別荘なり持っているのだが、王太子であるレオナルドだけは城で過ごしているのだ。
 それは、王太子だからという理由の他にも、実質現在の実務を取り持っているのがレオナルドだからという理由もある。
 そんな立場のレオナルドだけに、例え親しい間柄であっても私室に招くということはほとんどないのだが、なぜかフローリアはその私室に呼ばれている。
 これは、レオナルドがフローリアと公にはならない個人的な会話をしたいと言っているのに等しい。
 要するに、この場で話したことは、断りが無い場合は他言無用といっていることになる。

 そうした暗黙のルールを十分承知しているフローリアは、わざとおどけた様子でこう切り出した。
「それで? わざわざわたくしめを呼び出して、一体どういったご用でしょうか、王太子殿下?」
「・・・・・・・・・・・・なにかこう、フローリアにそんな言い方をされると、微妙に鳥肌が立ってくる気がするのだが?」
 実際に腕をさする動作をしながらそう言ってきたレオナルドに、フローリアはフッと笑って返した。
「随分とひどい言い草だな。まあ、それは私も同じだが」
 自分と同じように腕をさする仕草を見せたフローリアに、レオナルドは声を上げて笑うのであった。

 レオナルドの笑いが収まるのを待ってから、フローリアが真面目な表情になって言った。
「それで? わざわざ呼び出すなんて珍しいじゃないか。一体、なにがあった?」
 ここで例のスライムに何かがあったとは、フローリアは聞かない。
 もし、スライムに問題が出たのだとすれば、わざわざフローリアではなく、直接考助に聞くことが分かっている。
 そうではなく、フローリアだけを呼んだということは、別の用事があるのだということは、呼ばれた時点でフローリアも察していた。

 レオナルドもフローリアがそう考えていることは十分理解しているうえで、頷きながら話し始めた。
「いや、そんなに急を要するような話ではないのだけれどね。・・・・・・折角だから酒でも飲まないか?」
 レオナルドはそう言いながら、準備よくテーブルの下からお酒の瓶を取り出した。
 流石にこれにはフローリアも驚きを示した。
 ただし、時間的に早すぎるとかそういうことで驚いたわけではない。
 王太子であるレオナルドは、わざわざ自分で用意しなくても、傍にいるはずの侍女に一声かければ、いくらでも私室にお酒くらいは持ってくるだろう。
 そうしていないということは、本当の意味でふたりだけで話をしたいと言っているのと同じことなのだ。
 一体に何があったのかとフローリアが考えるのも無理はないだろう。

 戸惑ったように動きを止めているフローリアに、レオナルドは別の勘違いをして言ってきた。
「お相手が厳しいのであれば、フローリアは別の飲み物でも構わないのだが?」
「ああ、いや、そうではない。・・・・・・私ももらおうか」
 言外にお酒を飲みながらでなければ話せないような内容だと察したフローリアは、首を左右に振りながらレオナルドが用意したコップを受け取った。
 考助は、別にこのくらいのことで怒りだすような性格をしていないのだ。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 しばらくは他愛もない話をしていたフローリアだったが、そろそろ十分にお酒が回っただろうと思われた頃になって、ようやく切り出した。
「それで? もう一度聞くが、何があった? 私に聞いてほしいことでもあるのだろう?」
 敢えてこの時点でフローリアから切り出したのは、レオナルドの背中を押す意味があった。
 わざわざお酒まで持ち出しているのだから、素面では言えないような内容だということはわかっている。
 もっとも、目の前で変わらずにお酒を口にしているレオナルドは、表面上はさほど酔っているようには見えない。
 フローリアが酔いが回っていると判断したのは、あくまでも勘でしかない。

 そのフローリアの後押しが効いたのか、レオナルドはグラスを傾けながらフッと笑みを見せた。
「まったく・・・・・・。やっぱりフローリアには敵わないね。それとも、あのお方の傍にいるから伸びたのかな?」
「さて、どうだろうな。成長しているのは確実だと言えるが、かの方のお陰かと言われると微妙な気もするぞ?」
 そう言ったフローリアの顔は、誰がどう見ても惚気ているようにしか見えなかった。
 当然そのことに気付いているレオナルドは、クスリと先ほどとは違った笑顔を見せた。
「やれやれ。まさかここで惚気られるとは思わなかったな」
「話を振ったのはお前じゃないか。いいからさっさと話をしてしまえ」
 呆れたような顔になって言ってきたレオナルドに、フローリアはわざと突き放すような言葉で言った。

 そのフローリアに、レオナルドはもう一度笑ってから話し始めた。
「まったく。変わっていると思えば、やっぱり変わっていないじゃないか。まあ、それはいいか」
 そう前置きをしたレオナルドは、ふと真顔になって続けた。
「そう・・・・・・だね。誰かに聞いてもらいたくて、この場を用意したんだ。折角だから聞いてもらおうかな?」
「ああ、そうしたほうがいい。だが、その前に、少し待て」
 自分から早く話すように促したのに、待てと言ってきたフローリアに、レオナルドはいぶかし気な表情を浮かべた。

 だが、そのレオナルドの疑問はすぐに解消することになる。
 フローリアが懐に入れた右手から何かを取り出すと、ごそごそとそれをいじりだして、次の瞬間には強固な結界が張られていたのだ。
「・・・・・・随分と準備がいいな」
「当たり前だろう。わざわざ私を呼び出したんだ。これくらいの用意はするさ」
 馬鹿にするなと言いたげなフローリアに、レオナルドはそれもそうかと頷いた。

 
 フローリアが結界を張ってからしばらく口を噤んでいたレオナルドだったが、やがてぽつりと言ってきた。
「私はいずれ父上の後を継ぐだろう。だが、息子がある程度成長すれば、王の座を譲るつもりだよ。・・・・・・なにせ、あの方と何度も会ってしまっているからね」
 重々しい雰囲気で言ってきたレオナルドに、フローリアは間を開けることなくすぐに答えた。
「そうか」
「・・・・・・いや。そうかって、それだけかい!?」
 実際に王の座にも着いていないレオナルドが、さっさと息子に譲ると言ったのだ。
 当然驚くだろうと考えていたレオナルドだったが、予想外すぎるフローリアの反応に、目を剥いてそう言ってきた。

 そんなレオナルドに、フローリアは少しだけ苦笑してから答えた。
「何を言っているんだ。私は経験者なんだぞ?」
 その全てを理解していると言いたげなフローリアの返しに、レオナルドは一瞬言葉を詰まらせた後で、大きく頷いた。
「・・・・・・・・・・・・そうか」
「そうさ。別に、驚くようなことではないだろう?」
「ああ、そうだね」
 そう言いながら小さく頷いたレオナルドは、自嘲気味に笑った。
「あーあ。なんだか、悩みに悩んでから言ったのが馬鹿みたいだな」
「それは同意する」
「そこは、多少考えるとかしてよ!」
 電光石火のごとく返してきたフローリアに、レオナルドはそう言いながらも笑っていた。

 この日、色々な笑顔をフローリアに見せたレオナルドだったが、それは間違いなく何かに吹っ切れているような顔だった。
王になった者とこれからなる者の会話でした。

最後のレオナルドの重大な告白がどういう思いで言われたのかは、敢えて文章にしませんでした。
一応考えてはいたのですけれどね。
ある程度はフローリアとの掛け合いで想像できるかと思います。
あとは、読者の皆様のお好きに想像して見てください。m(__)m
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