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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第12部 第1章 引っ越し

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(11)これから

 自分の話で混乱をしている王族たちを見て、考助はしばらくそのままにしておこうと考えて、スライムの近くへ寄って行った。
 スライムは、考助が近付いて来たのに気付いてすぐにでも逃げようと身動ぎしていたが、ナナの足がピクリと動いたのを見て、ピタリと動きを止めた。
 本来であれば、このスライムはほとんどのモンスターから容易に逃げられるほどの素早さがあるのだが、神獣となっているナナからは逃げられないようである。
 それはともかく、考助もスライムが未だに自分を信用していないことは分かっているので、そっと小動物と相対するようにしゃがみ込んだ。
「……うん。驚かせてごめんね。別に君をどうこうするとかは考えていないから」
 考助は、穏やかに言い聞かせるようにそう話しかけた。
 考助がスーラではなく、直接スライムに話しかけるようにしたのは、スキルを見た段階で《言語理解》を持っていることに気付いたからだ。
 要するに、このスライムは、今までの王の会話もある程度は理解しているはずなのだ。

 もっとも、考助は先ほど話した内容を直接スライムに確かめるつもりはない。
 それよりも、今は逃げられないようにすることのほうが重要だ。
「君がこの先もここで暮らしていけるかは分からないけれど、まずは僕を信用してもらえないかな?」
 考助は、スライムにそう話しかけながら、そっとスライムに向かって右手を伸ばした。
 ちなみに、考助の頭の上では、意図してなのかそれとも無意識なのか、スーラが伸び縮みしたりしている。

 スーラのその動きが効果があったのかどうかは分からないが、スライムは伸ばした考助の手に、そろそろとその体を伸ばしてきた。
 勿論、じっと見ているナナは、それを止めたりはしない。
 考助が何を望んでいるのか、きちんと理解しているのだ。
 自分の手に向かって体を伸ばしてきているスライムを、考助はジッと動かないまま待ち続けた。

 このときの考助は気付いていなかったが、その様子を王族の面々は息を呑むようにして見守っていた。
 テイマーやサモナーがいる世界とはいえ、野生(?)の魔物と直接交流を行う場面など、そうそう見られるわけではないのだから当然だろう。
 ましてや、目の前でそれを行っているのは、神の一柱である現人神なのだ。
 こんな貴重なシーンを見逃すわけには、いかないのだ。

 そんな周囲の視線は気付かないままに、スライムの体は、ついに考助の手に触れた。
 そこからはあっという間の出来事で、考助が触れたと思った次の瞬間には、そのスライムは手のひらの上に乗っていた。
 スライムの大きさは、ちょうど考助の手のひらくらいで、重さは驚くほど軽かった。
「うん。信用してくれてありがとう。これからどうするかはともかく、ここにいる限りは、君を害したりはしないから安心して」
 考助がそう声を掛けると、スライムは安心したのか、のっぺりと体を伸び縮みさせた。

 
 考助とスライムの様子を見ていたシルヴィアとフローリアが、感嘆のため息をついた。
「さすが、コウスケ様ですね」
「うむ。あっさりと常識外のことをやってのける」
 淡々とそう言ったフローリアに、いち早く立ち直ったレオナルドが、悩ましい顔になって彼女を見た。
「いや、常識外とかそんなレベルじゃないと思うのだけれど?」
 通常、テイマーなどが行っているモンスターとの契約は、もっと時間を掛けてゆっくりと行うものだ。
 それが、いくら相手がスライムとはいえ、今会ったばかりの状態で、あっさりと信用されるなどありえない。
 確かに常識外は常識外なのだが、そんな言葉で済ませていいレベルではないのだ。

 そのレオナルドに、フローリアは肩をすくめて答えた。
「レオナルド。前も言ったと思うが、コウスケと付き合うということは、こういうことはいくらでもある」
 きっぱりとフローリアがそう宣言すると、レオナルドは頭を抱えて、ミリアムはクスクスと笑い出した。
 そのミリアムが、同じように楽しそうな表情になっているマクシム国王を見て言った。
「さて、王。いかがなさいますか? あれはあくまでもかの方だから出来ることだと思われますが?」
「うむ。そうだの。だが、さほど危険はないのであろう?」
 後半のマクシム国王の言葉は、考助に投げかけられたものだ。

 マクシム国王に問われた考助は、少し考えてから答える。
「さて、それはどうでしょうね? スライムとはいえ、魔物は魔物です。いまはろくに攻撃する手段は持っていませんが、いずれは持つようになるかもしれませんよ?」
 考助としては、限りなくその可能性は低いと考えているが、それはあくまでも想像の範囲内でしかない。
 進化の過程など、今もってまったくわかっていないのだから、考助にも答えようがないのだ。

 ただし、その考助にもひとつだけ答えられることはある。
「まあ、もしこのスライムが手に負えなくなるようでしたら、私が責任をもって処理しに来ますよ」
 まだ、マクシムはこのスライムをどうするとは言っていないが、敢えて考助はそう答えた。
 それが、フロレス王国の王家にとっては、黄金の価値がある言葉だとわかっていても、である。
 何しろ今の考助の言葉は、現人神が、スライムを間に挟むことになるとはいえ、ずっと繋がりを持ってくれると宣言したことになるのだ。
 そのことに気付かないようでは、長い間一国の王などやっていられるはずもない。
 当然だが、今の考助の言い回しには、レオナルドやミリアムも気付いている。

 考助の言葉に驚いたような顔になったマクシムだったが、すぐにフッとその表情を緩めた。
「……そうですか。ならば、私が言う答えはひとつしかありませんね。――レオナルド」
「はっ」
「この件に関しては、其方に一任する。いずれこの部屋は其方が使うことになるのだからな」
「――畏まりました」
 マクシムのその言葉に、レオナルドは一瞬だけ動きを止めた後に頭を下げてそう答えるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 これ以上マクシムに負担を掛けては駄目だろいうことで、それ以外の者は部屋から出た。
 ただし、スライムだけは今まで通りにしていていいと言って、その場に残っている。
 といっても、これからもベッドの下なり家具の後ろなりに隠れて過ごすことになるのだろうが。
 とにかく、マクシムの決断によって、スライムはこれまで通りにあの部屋で生きていくことに決まったのだ。

 席に落ち着いたレオナルドは、ひとつ大きくため息をついてから言った。
「――なんというか。一気に進みすぎて、話についていけませんでした」
「何を言っているのですか。貴方も十分楽しんでいたのでしょう?」
 ミリアムはそう言って、実の息子の言葉を否定した。
 言葉と顔が一致していないということは、こういうことをいうのだと、考助にもわかった。

 そんなふたりに、フローリアが笑いながら言った。
「あのスライムをどう扱うかは其方に任せられたわけだが、無碍な扱いをすれば、どうなるかは言わなくてもわかっているのだろう?」
「それは勿論」
 フローリアのほうを見て頷いたレオナルドは、あえて考助を見ていなかった。
 彼女が何を言いたいのかは、わざわざ言葉にして聞かなくても十分に理解はしている。

 別にスライムの一体や二体を王家の人間に殺されたからといって、考助が直接どうこうすることはない。
 だが、そもそもあのスライム自身の価値は十分高い者であることに加えて、必要以上に現人神から反感を買うような真似はするつもりはないのだ。
 こうして、一連の騒動は落ち着くところに落ち着いたわけだが、このあとあのスライムがどういうことになるのか、それを知る者は誰もいないのであった。
何となくそれっぽく締めましたが、あのスライムはこれからも、特に大きな事件もなくのほほんと過ごしていきそうな気がしますw
王は、スライムがいることは知りましたが、だからといって調子に乗って調教などしようとすれば、逃げ出してしまうことなども含めて、どうなるかは分からないですからね。
下手に手を出すよりは、今までと同じ関係をずっと続けることを選択すると思います。
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