挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第12部 第1章 引っ越し

1126/1216

(7)学園の問題点

 頭を抱えているトワを見て、シルヴィアが疑問の表情になっていた。
「少し疑問なのですが、学園ができたばかりの頃はどうだったのですか?」
 学園ができたばかりの頃というのは、ちょうどトワたちが入学したときのことだ。
 生きた体験者であるミアが少しだけ思い出すような顔になりながら答えた。
「確かに多少は専門性を混ぜる教師もいましたが、ここまで露骨な教科書を使う方はいなかったですよ?」
「そうだな。それに、初年度は一応コウスケの監査もどきも入っていたからな」
「「えっ!?」」
 フローリアからの始めて聞いた事実に、トワとミアが驚きの顔になった。

 勿論、監査といってもガッチリ現場に言って、授業の確認などを行ったわけではない。
 フローリアが出した部下やサキュバスからの情報をもとに、きちんとした形態になっているかを確認していたのだ。
 そのうえで、考助から大丈夫だろうとお墨付きを得て、フローリアは二年目以降の運営を続けたというわけだ。
 逆にいえば、考助のチェックが入ったのは初年度だけで、あとはこの世界の住人たちの自由意思に任せたということになる。

 その事実を知ったトワは、ますます落ち込んだような顔になった。
「・・・・・・つまりは、私の運営方法がまずかったということですね」
「いや、そうともいえまい。私も初年度で上手くいったから、それ以降は厳しくはチェックしていなかったからな」
「それに、そもそもトワには明確な学習方法も伝えていなかったんじゃない?」
 初めのうちから専門性を高めて教えるのは駄目というのは、それが当たり前になっていない世界では、なかなか気づきにくい点だ。
 特に、師弟制度が当たり前の世界にとっては、師匠の考えを弟子にそのまま伝えるということが当然なので、基礎だけを教えるという考えにはつながりにくい。
 結果として、低学年の生徒を受け持つことになる教師は、何とか一年で自分の専門分野まで教えようとして、教科書に現れているということになる。

 その考助の推測を聞いていたシュレインが、難しい顔になって腕を組んだ。
「ふむ。とすると、なかなか改善するのは難しいのではないかの? 少なくとも低学年の生徒を受け持つ教師がいなくなってしまうぞ?」
 教師の評価が、自身の研究内容に結びついている以上、どうしても今のような状態になってしまう傾向になる。
 そのため、シュレインが言った通り、低学年の生徒を受け持つのが嫌がられるだろう。

 だが、シュレインの言葉を聞いた考助は、不思議そうな顔になった。
「この世界って、基礎学問を研究している人っていないの?」
「いや、いないわけではないだろうが、かなり少ないだろうな。端的に言えば、評価されることがほとんどないからなりたがる者は、変わり者とみなされる」
 基本的にはこの世界での学者は、スポンサーなりの後ろ盾を得て、各種研究に励む。
 その結果、例えば魔道具の研究者であれば、実用的な製品などを作りださないと資金がストップされるということになりかねない。
 要するに、実用に転嫁できない基礎的な研究は、避けられる傾向にあるのだ。
「なるほどねえ」
 フローリアの説明に、考助は納得の表情になって頷いた。

 実用的な研究が評価されるという傾向は、何もアースガルドに限ったことではない。
 考助が元いた世界でも、すべてではないが基礎学問に企業や国から出される資金が減らされる傾向にあった。
 もっと正確にいえば、資金を減らされるというよりは、集めにくいという問題がある。
 勿論、出来るだけそうならないように、学会などの評価する場などもあったのだが。 
 少なくともアースガルドには、研究内容を学者同士で評価する場などは存在していない。
 だからこそ、すぐ金になるような研究が評価される傾向が高くなる。
 結果として、基礎的な学問を研究する学者は少なくなるというわけだ。

 だからといって、低学年の子供たちに専門知識を植え付けるのはいいことではない。
 であれば、そうならないような評価の方法を考えればいいだけなのだ。
「そもそも、有名な学者だけを学園で使おうというのが間違えなんだよね」
「えーと、どういうことですか?」
 考助の言葉に、今後をどうするべきか悩んでいたトワが首を傾げた。
「専門性が高くなる学年はともかくとして、低学年の教師は研究内容で評価するのではなく、どれだけの良い生徒を育てたのかを評価すればいいんだよ。まあ、良い生徒(・・・・)というのをどういう基準にするのかという難しさはあるけれど」
 そもそも生徒をどういう風に育てるべきかというのは、その子供が進むべき道によって変わってくる。
 一概に、テストの点数を高くすることだけが、評価の対象にすべきでないところが、教育・・の難しいところだ。

 考助の言葉を聞いて、トワは再び深く考え込み始めた。
 それを見ていたミアが、助言するように言った。
「いっそのこと、低学年と高学年を分けて考えたらどうですか?」
「どういうことかな?」
「話を聞く限りでは、どう考えても低学年と高学年で同じ教師を使い続けるのは、無理があると思います。だったら、いっそのこと、教師自体を分けたらどうかと思ったのですが?」
 ミアのその言葉を聞いていた考助は、内心でニヤリと笑っていた。
 ミアが言ったことは、まさしく考助が考えていた対処法そのものだったのだ。
 それが、余所の世界のシステムを知っている自分からではなく、この世界に生まれたミアの口から出たというのは、少なくとも考助にとっては大きかった。

 その考助を余所に、トワが頷きながらミアに応じた。
「なるほどね。低学年と高学年で、教師の評価方法自体を変えてしまうのですか。・・・・・・城に帰ってから、文官たちと検討してみましょう」
 ここで自ら決断を下さないのは、トワの国王としての資質だ。
 別にトップダウンでトワから強引に変えてしまってもいいのだが、そんなことを続けると、ただの上からの指示を待つだけの操り人形が出来かねない。
 そんなことはまったく望んでいないので、トワとしては持ち帰って検討するということになる。

 そんなトワを横目で眺めながら、フローリアが満足気に頷いた。
「そうするといい。それよりも、教科書の問題はすぐにでもどうにかしないとならないぞ?」
「そうだの。このままだと、せっかくの学園というシステムが無駄になるからの」
 シュレインの無駄という言葉は言い過ぎかもしれないが、授業に付いていけなくなって学園自体が嫌いになる生徒も増えてくるだろう。
 そうなると、せっかく根付き始めている学校制度が崩壊しかねない可能性もある。

 ふたりの言葉に表情を引き締めたトワが、小さく頷いた。
「はい。それはすぐにでも手を付けます」
 とりあえず教師の評価を脇に置いておいたうえで、きっちりとしたシステムを作り上げればいい。
 トワとしても年という時間を掛けるつもりはないので、それで十分対応出来るはずだ。
 決心したような顔になったトワを見て、考助は内心でホッとしていた。
 先ほどまでのトワの落ち込みようは、これまでになかったほどだったのだ。

 
 ここで、周囲の空気がいつもの緩んだ感じになったことを察したルカが、少しばかり的の外れたことを言ってきた。
「ここに自分が呼ばれたのって、教科書の確認をするためだけ?」
 そんなルカに、考助がわざとらしく笑みを浮かべて首を左右に振った。
「そんなわけないじゃない。折角だからルカには急いで、初年度用の教科書を作ってもらおうかと思ってね」
「うわっ! 藪蛇だった」
 自ら余計な仕事を増やしたルカに、その場に集まった皆の笑い声が降り注ぐのであった。
今回のルカは、落ち要員w

今回の話は、これで学園のすべての問題が解決できるというわけではありません。
あれこれ問題点を出したり、それを解決して行ったりと、少しずつ改善していくことになるのでしょうね。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ