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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第12部 第1章 引っ越し

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(10)万能な担い手

 考助が作った畑で育てる物は、生産部門統括だったティンに選んでもらっていた。
 正確には、考助が育てたいと言った物の中から、比較的簡単だろうと思われる物をティンが選択したのだ。
 耕した畑のうちの半分は考助が使うことになり、残りの半分はシルヴィアが自前で用意した物を植えていた。
 考助が何を植えるのかとシルヴィアに尋ねたときのシルヴィアの答えは、
「半分は薬草類を育てようと思います。更に残りの半分は香草類、最後に残ったところは、研究用に使おうと思っています」
「研究用?」
 一体なんの研究をするのかと首を傾げた考助に、シルヴィアが頷きながら続けた。
「はい。自生している薬草の中には、生産できない物も多くありますから。そうした物を人の手で育てられるようにできないかと、考えています」
「・・・・・・ああ。そういうことね」
 考助の中では、植物の研究とは品種改良だと考えていたので、そっちの方向もあったかと納得顔になった。

 シルヴィアが薬草を育てるのは、自分で薬を作ったりするためである。
 神殿にはそうした薬の類も置いているので、シルヴィアにとっては専門分野のひとつでもある。
 今更考助がアドバイスできることはなにもないので、そちらは完全にシルヴィア任せになっていた。

 対して考助は、ティンからちょっとしたアドバイスを聞いただけで、あとは手探りで行っていくことになる。
 といっても、完全に自然の成り行き任せにするわけではなく、ある程度の計画表もどきはもらっていた。
 あとはそれに従って、なにか問題が起これば都度ティンに聞いていくつもりではいる。

 
 そんなわけで始まった畑作りだが、ティンから貰った種を植えた二日後には、考助は再び呆然とする羽目になっていた。
「・・・・・・ええと? どうしてこうなるのかな?」
「ふむ。コウスケがなにかをやらかしたとしか、考えようがないと思うのだが」
 驚く考助の横で、フローリアが冷静な顔で突っ込んでいた。
 ふたりの目の前には、素人目にも元気よく見える植物の芽が顔を出していたのだ。
「いやいや。一応種を植えてから、二日は経っているから。これくらいは普通だよ普通」
 確かに種の状態によっては、二日で芽が出る物はあるだろう。
 ただし、さすがにすべての種が、一律で揃って出るというのは、非常に珍しいと言っていいだろう。
「いや、どう考えても普通ではないと思うが? ・・・・・・まあ、コウスケがそう言い張るならそれでもいいのだが」
 芽の状態をつぶさに見ていたフローリアは、呆れ顔でそう答えた。

 ただし、いつもの調子で考助に突っ込んでいたフローリアだったが、どこかいつもと違う調子にもなっていた。
 その理由は、考助とフローリアの目の前でごそごそと動き回っているスライムたちにある。
「・・・・・・これってやっぱり、こいつらのせいかな?」
「・・・・・・どうだろうな? まだ結論付けるのは早いのではないか?」
 考助とフローリアは、顔を見合わせてからお互いに首を傾げた。
 確かにすべての種が、二日で芽を出すことは珍しいが、まったくないわけではない。
 フローリアの言う通り、それだけで決めつけるのはまだ早いだろう。

 さらに、畑を見ていた考助が、不思議に思ったことがある。
「ものの見事に、雑草だけを取っていて、芽は取られていないんだよね」
 昨日は考助ができる範囲の畑の雑草を取っていた。
 今日も引き続き気合を入れて雑草を取ろうとしていた考助だったが、見事にそれらの雑草が消えている。
「昨日取った雑草はどこに置いていたのだ?」
「後で捨てようと、一か所にまとめて置いてあったんだけれどね」
「それが見事に消えていた、と」
「そういうこと」
 考助の返事を聞いたフローリアの視線がスライムに向いた。

 それに合わせるように、考助もスライムを見た。
「なんでもかんでもスライムに結び付けるのは駄目だと思うけれど、結果を見る限りではスライムがやったとしか思えないようねえ」
 考助の言葉にフローリアも頷いたが、別の疑問もわいてくる。
「問題は、スライムがどうやって、出てきた芽が必要なものだと認識しているか、だな」
「そうなんだよねえ」
 考助とフローリアは、揃って頷きながら、綺麗に出てきている芽に視線を向けた。

 昨日考助が取った雑草だけをスライムが夜のうちに片付けたのだとしても、彼らがどうやって出て来た芽が、考助が必要としている芽だと区別したのかがわからない。
 こういうときは、スライムがなにを考えているのか、直接聞く手段がないことが悔やまれる。
「・・・・・・いつまでも考えていても仕方ないか」
 あまりにも判断する材料が少なすぎるために、はっきりとした答えを出すことはできない。
 そう結論付けて言った考助の言葉に、フローリアも頷いた。
「そうだな。・・・・・・スライムに関しては、こうなることが多い気がするが」
 スーラが管理層で暮らすようになってから、同じようなことを繰り返しているので、フローリアが苦笑気味にそう言った。
「そうなんだけれどね。まあ、スライムの不思議な生態ってことでいいんじゃないかな?」
 スライムの不思議に関しては、無理に突き止める必要はないと考えている考助がそう答えた。

 考助とまったく同意見のフローリアは、考助の言葉には頷くだけに止めて、別の話題に変えた。
「ところで、このあとの作業はどうするのだ?」
 そもそもフローリアが考助と一緒にいるのは、作業を手伝うために来ているのだ。
 だが、考助はフローリアの言葉に、困ったような視線を周囲に向けた。
「いや、本来だったら雑草を取って行こうと思ったんだけれどね。この状況だから、必要なくなったんだよね」
 考助が見る限りでは、種を植えた範囲の畑は、全て雑草が無くなっている。
 今日予定していた作業を、すべて(恐らく)スライムに取られてしまった形になる。

 
 考助が、さてどうしようかとあたりを見回すと、シルヴィアが戸惑ったような表情で近付いてくるのが見えた。
 そして、考助が管理する予定になっている畑を見ると、納得したように頷いていた。
「やはり、こちらも同じですか」
「ああ~。シルヴィアがそう言うってことは、向こうも同じ状況になっているってことか」
 シルヴィアの発した一言で状況を察した考助が、やはりという顔になった。

 ここまで来れば、犯人はスライム以外にいないと思うしかない。
「なんというか、コウスケが何かに手を出すと、必ずそれに付随して予想外のことが起こるな」
 感慨深げにフローリアがそう言うと、考助は渋い顔になった。
 さすがにここで反論することはできないと判断したのだ。

 それに、今回は考助が直接何かしたというよりも、眷属であるスライムのことなので、否定のしようがない。
「いいのではありませんか? どうせでしたら、どこまでスライムに任せていいのかを調べるのも面白いと思います」
 すっかりスライムを当てにし始めているシルヴィアに、考助も渋々と頷いた。
「それはそうなんだけれどね。どうにも最初に考えていた農作業と違ってきている気がするなあ」
 考助としては、色々と苦労してようやく食べられるものを収穫するという喜びを味わいたかったのだが、このままいけばほとんど手を掛けなくてもよくなってしまいそうな気がしている。
 文句があるというわけではないのだが、どこか寂しい気がするのも確かなのだ。

 そんな考助の思いを見抜いたのか、フローリアが笑いながら考助を見た。
「どうしてもというのであれば、どこかの限定した場所だけは手を出さないように指示しておけばいいと思うぞ?」
「そうですね。スライムたちは、コウスケさんの指示にはしっかりと従っているようですし」
 スライムたちが、畑として耕している場所以外には一切手を付けていないことを考えれば、シルヴィアの言葉は正しいだろうと推測できる。

 今度からはそうしようと決めた考助は、この日は新たにもう一面畑を作って、そこだけは手(?)を出さないようにスライムに指示を出した。
 そして後日に、両者の違いが如実に出ることになるのだが、それを考助たちが知るのはまだ先のことなのであった。
タイトルの「万能」は、畑仕事に関してはという意味です。
というわけで、一連のスライムお役立ち話は一旦ここで終了です。
このあともちょこちょこ結果報告としては、話が出てくると思いますが、それはそれということでw
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