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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第12部 第1章 引っ越し

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(7)スライムの活躍

 柔らかい光が降り注ぐ中、考助は健康的に土を耕していた。
 例によって思い付きで家庭菜園をやることに決めた考助は、結界内の区画でちょうどよさげな場所を畑にしようとしているのだ。
 といっても他に誰かが来るわけでもなく、モンスターは結界があるため入ってこれないので、きっちりとした仕切りがあるわけではない。
 考助が適当に場所を決めて、そこを掘り起こしているのである。
 ちなみに、土地を掘り起こすために使っている農具は、考助が自作したものだ。
 いきなり鍬を創りだした考助を見たシルヴィアとフローリアは、そこまでするかと呆れていたが、考助は今まで作ったことが無い物を作れたことで多少テンションが上がっている。
 お陰で、柄部分から刃床部まで、モンスターの素材で作りだしたあり得ないほどに高級感あふれる鍬になっている。
 もっとも、その鍬を見たのはシルヴィアとフローリア、それに眷属たちだけだ。
 もし考助のことをまったく知らない第三者が鍬を見て、材料となっている素材のことを聞けば、卒倒することは間違いないだろう。
 幸いにして、そんな存在は近くにいないので、考助は現在、快適に作業を進めている。

 気分よく土の掘り起こし作業をしていた考助は、ピタリと手を止めた。
「おっと。あまり近付くと危ないから、適当な場所で離れてるんだよ?」
 周りには護衛のミツキ以外にいないのに、考助はそう声をかけた。
 その相手が誰かといえば、スーラと一緒に何かをしているスライムたちだ。
 彼らがなにをしているのかは、考助にはわからない。
 いきなり考助の傍に近寄ってきて、そこに鍬が当たってしまえば大事件になるので、一応考助は彼らのことを気にしつつ作業を進めている。
 別に時間的に急いでいるわけではないので、スライムたちを気に掛ける余裕があるのだ。

 考助に声を掛けられたスーラたちは、それをきちんと認識しているのかいないのか、それ以上近寄って来ることはしていない。
 ただ、どういう意味があるのかはわからないが、考助が耕した土の上をなぜか行ったり来たりしている。
「・・・・・・うん? 手伝ってくれているのかな?」
 考助にもスライムたちがやっている意味はわかっていないが、なんとなくその動きが可愛らしくて、笑顔になった。

 
 スライムと戯れながらサクサクと考助が作業を進めていると、シルヴィアが近付いて来た。
 ・・・・・・なぜか、作業着に着替えて。
「お手伝いしますよ。コウスケさん」
「え? えーと・・・・・・。それは嬉しいんだけれど、やったことあるの?」
 考助が少しだけ驚いてそう聞くと、シルヴィアが笑いながら頷いた。
「勿論ありますよ。巫女の修行の一部には、薬草を育てるための畑を作ったり、自分たちが食べるための野菜を育てたりすることもありますから」
「ああ、そうか」
 シルヴィアの説明に、考助も納得の表情になった。

 どうにも見た目のせいでお嬢様育ちという感覚が抜けないシルヴィアだが、実際には厳しい巫女修行を潜り抜けてきているのだ。
 神殿が広い土地を持っていて、そこでいろいろな物を育てていることは、誰でも知っている事実である。
 シルヴィアは早いうちから高位の巫女になっていたと思い込んでいるので、そうした重労働は行っていないというイメージを考助は持っている。
 だが、修行の一環といわれれば、シルヴィアがそれに対して手を抜いているはずがないということも理解できる。
 そう考えれば、農作業に関しては、素人に毛が生えた程度の考助よりは、シルヴィアのほうが遥かに知識も経験もあるといえるだろう。

 シルヴィアの手には鍬が握られている。
 いつの間に用意したのかと思った考助だったが、すぐにそれが予備用として準備していたものだと思い出した。
 まだまだ耕す場所は残っているので、シルヴィアには好きにさせればいいと考えて、考助は続きの作業を行おうと先ほどまでの地面に向き直った。
 そこで、シルヴィアの不思議そうな声が聞こえてきた。
「――――あれ?」
「うん? どうかした?」
「いえ。随分と土が良いような気がしますが・・・・・・いえ、気のせいではなく、良いですね。何かやりましたか?」
 自分を見てそう言ってきたシルヴィアを見て、考助は首を左右に振る。
「いや? ただ単に耕しただけだよ? というか、土の改良ができるほどの知識なんてないし」
 考助が知っている土を良くする方法なんてものは、せいぜい森林の中から腐葉土を持ってくることくらいだ。
 ましてや、いまはまだ単純に鍬を入れただけなのに、土を良くするための作業なんてできているはずがない。

 まったく思い当たりが無い――そう続けようとした考助だったが、ひとつだけ思い当たることがあった。
 考助は、その思い当たりを見るのと同時に、シルヴィアも同じところを見たことに気が付いた。
 考助とシルヴィアの視線の先には、五匹くらいで戯れているスライムが、相変わらずなにをやっているのかわからない動作をしている。
「えーと・・・・・・。これは、もしかしなくても、もしかするのかな?」
「・・・・・・いまの状況を考えればそうなるのでしょうが、さすがに信じられませんね」
 いくらなんでもまさか、と言いたげなシルヴィアに、考助も同意するように頷いた。
「そ、それもそうかな? まあ、結論付けるのはあとにして、いまは作業を続けようか」
「そうですね」
 とりあえずふたりは、スーラたちの行動を見なかったことにして、作業を始めることにした。

 
 考助とシルヴィアは、一日がかりで予定していた範囲の土を耕し終えた。
 かなり時間がかかったように思えるが、考助が見積もりしていた範囲がそれなりの広さになっていたので、思った以上に時間がかかったのだ。
 それに、のんびり休み休みやっていたことも、その要因のひとつとなっている。
「ふう。とりあえず、今日はこんなものかな?」
「そうですね。まずはこれでいいのではないでしょうか」
 まだまだ種を植えられるほどに耕してはいないが、とりあえず畑とする予定の場所の土は、掘り起こすことができた。
 初日の成果としては、まずまずの結果だろう。

 辺りを見回しながら満足げに頷いている考助に、シルヴィアが同じような表情になっていた。
 そして、そのふたりの視界に、相変わらず作業をし始めた頃と変わらない動きをしているスーラたちがいた。
「・・・・・・うーん。結局、最初から最後まで土をいじっていたなあ」
「そうですね。私たちがやっていることがわかっているのでしょうか?」
「どうだろう? もしかしたら、これもスライムの生態のひとつなのかもね」
 管理層にいたときのスーラは、誰が教えたわけではないのに、部屋中の汚れを取るように動いていた。
 だが、本来のスライムの働きは、こっちが主なのではないかというのが、考助の考えだった。

 考助の言葉に、シルヴィアが首を傾げた。
「畑は人の手が入っている証拠だと思うのですが?」
「ああ、いや。違う違う。そっちじゃなくて・・・・・・自然の中で余計な物を排除して、よりよい環境にするってことかな?」
 考助が言いたかったのは、要するに食物連鎖の微生物的役割のことを言いたかったのだが、そんな認識はこの世界にはないので微妙な言い回しになってしまった。
 それでもシルヴィアは、考助が言いたいことが理解できたのか、何度か小さく頷いた。
「まさしく『お掃除屋』ですね」
「まあ、そういうことだね」
 考助の言い回しをこの世界の常識にあてはめて言ったシルヴィアの言葉に、考助は訂正することなく同意しながら頷くのであった。
こっちが本来のスライムの役割です。
ただし、スーラが考助の耕した範囲内だけを土作りするように、他のスライムに指導(?)していますw
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