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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その24)

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(7)百合之神宮での初の催し(予定)

「ジョヤノカネ、ですか」
「そう。除夜の鐘。簡単にいえば、新年が明ける前に百七回鐘を突くいて、明けてすぐに最後に一回を突いて終わり」
 新年が明けて皆への挨拶が済んだ考助が、なんとなく話したことにシルヴィアが食いついてきた。
「それには、どういった意味が?」
「うーん・・・・・・。さすがに詳しい話は知らないけれど、確か百八ある人間の煩悩を払って新年を迎えるとか言った意味があった気がする」
 微妙に曖昧な説明だったが、所詮は一般人だった考助の除夜の鐘に対する認識は、この程度だった。
 とはいえ、大晦日にはしっかりと意識していた上に、それなりの説明もできるのだから、しっかりと宗教的儀式には染まっていたともいえる。
 例えば外国の人が除夜の鐘を聞いたとしても、ただのうるさい音と認識するかもしれない。
 もっとも、大晦日にあれだけの数を鳴らしているので、なにか宗教的な意味があることくらいは察することはできるだろう。

 なぜか考え込んでしまったシルヴィアをそのままに、今度はフローリアが話しかけて来た。
「百八あるのは意味があるのか?」
「意味というか、いま言った通り、人間の煩悩は百八といわれていたくらいで、それ以外に意味はよくわからないなあ」
「そうなのか」
 実際には諸説あって、これが正解というものはわかっていないのだが、一般的な認識は考助程度のものだろう。
 それに、正確な意味を知らないからといって、除夜の鐘の効果(?)が薄れるわけではない。

「まあ、深く学んできたわけではない者の認識だと、その程度じゃろ」
 シュレインの言葉にピーチも頷いた。
「そうですね~。むしろよく知っている方ではないでしょうか?」
「どうだろ? 僕がいた国の人であれば、知っていて当たり前のことだったからなあ」
 毎年毎年大晦日になると、鐘を突くところが放送されていた。
 そのたびに、聞き流しながらとはいえ、鐘の意味も説明されていたのでほとんどの者は知っていて当然だろう。
 もっとも、最初から最後まできっちり見ている人も少ないだろうが。

 考助は、当時のことを思い出して天井を見ながら目を細めた。
「まあ、細かい宗教的な意味は知っていなくても、あの音を聞けば、ああ年越しだなあとは感じていたかな」
「ふーむ。なるほどな」
「コウスケの元の世界では、年越しは大切な催しだったのじゃな」
 フローリアが納得して、シュレインがそう言うと、考助が頷いた。
「そうかもね。それに、こっちだって新年は祝うだろう? 別にそれとあまり変わらないよ」
「そう? 話に聞く限りでは、こっちよりも重要視していたように思えるけれど?」
 そもそも寿命の違う種族が多いこの世界では、元の暦が大幅に違っていた歴史がある。
 勿論、季節ごとに育てられるものが違うので暦は重要視されるのだが、それ以外ではあくまでも「人族が使っていた暦」でしかない。

 コレットの疑問に、考助は首を左右に振った。
「そんなことはないよ。それに、そもそも国によっても年越しの扱いは違っていたからね。僕がいた国ではたまたまそうだった、っていうだけの話だよ」
 という考助の話に、一応は納得したようなしていないような、曖昧な表情になっていたが、ひとりだけ明らかに違った顔をしている者がいた。
「シルヴィア? さっきからどうしたの? なにかずっと考えているようだけれど?」
「えっ? あ、いえ、すみません。いまのお話を百合之神宮に利用できないかと考えていたのです」
「それって・・・・・・」
 百合之神宮で除夜の鐘を行うということかと聞こうとした考助だったが、それよりも先にフローリアが反応した。
「おお、なるほどな。なんの催しもない神社は寂しいと思っていたのだ」
「そうですね~。催しがあると人も呼べるでしょうし」
 いまの百合之神宮は、聖職者が来るのとあとは熱心な信者がやって来るくらいで、訪れる人が増えているとは言い難い。
 それならば、人を呼べる催しがあればいいというシルヴィアの考えに、ピーチも納得していた。

 このままでは、本当に除夜の鐘が「神社」で実行されかねないと思って、考助が焦ったようにさらに説明を続けた。
「いやいや、ちょっと待って。除夜の鐘は神社でやる催しとは違うからね! まったく別の宗教!」
「別の宗教というのは? 神が違えば、祝い方も違うのは当然ですよね?」
「あ、あーと・・・・・・えーと?」
 きょとんとした表情でシルヴィアから言い返された考助は、説明しようとして首を傾げてしまった。
 そもそもアースガルドは、信仰対象となる神が違うだけで、いわゆる「宗教」としてはひとつしかない。
 建物に関しても神社や神殿があるが、別の宗教だから違うというわけではないのだ。
 神によって好みはあるが、どちらかといえば種族や地方による違いのほうが建てる建物が違っていたりする。

 考助は、宗教の違いをどう説明しようかと頭を悩ませた。
 そもそも神道と仏教の違いなど、それぞれ違う体系の神を祀っているということくらいしか知らない。
 ましてや、日本での仏教は、神道の神も混ざっていたりするので、余計ややこしくなっている。
 そのため宗教の違いを、もともとバラバラの神を信仰することが当たり前の世界の人間に、どうやって説明すればいいのかがわからなかったのだ。

 どうにか上手く説明しようとすることを諦めた考助は、ごく簡単に説明することにした。
「簡単にいえば、僕がいた世界では、それぞれの地域や歴史によって、祀っている神々が違っていたんだけれど、それは完全に別系統の宗教として別れていたんだ。だから神社を使っていた宗教と除夜の鐘を突いていた宗教は、別のものだったんだよ」
「・・・・・・違う宗教があったということはわかりました。ということは、コウスケ様は神社を使う宗教を信仰されていなかったということでしょうか?」
 考助が神社を好んで使っていることを知っているシルヴィアは、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「あ、いや、そういうことじゃないんだけれど・・・・・・とにかく、僕がいた国では、歴史的背景もあって主にふたつの宗教が信仰されていた、かな?」
 こちらの世界でいうところの信仰というほど深く神々を崇めていたわけではないので、考助の言葉も曖昧になってしまう。
 日本人の宗教観は、元の世界でも独特だったので、納得するように説明することは困難なのだ。

 悩める考助を前に、シルヴィアが斜め上の提案をしてきた。
「別にそこまで悩む必要はないと思うのですが? 百合之神宮はコウスケ様のためのお社なのですから、思ったままのことを行えばいいと思います」
「それは違うような・・・・・・って、あれ? そうなの?」
 シルヴィアの言葉を聞いた周囲の反応に、考助が戸惑うような顔になった。
 考助とシルヴィア以外の面々は、その通りだと言いたげな顔になっていたのだ。
 そこで、考助の顔を見たフローリアが助け舟を出すようにして言った。
「コウスケ、元は其方の思い出の催しだとしても、そこまで以前の慣習などに縛られる必要はないと思うぞ? 何しろここは、コウスケが以前いた世界とは、別の世界なのだから」
「なるほど。そう言われてみれば、そう、なの、かな?」
 なんとも説得力のあるお言葉をフローリアから頂いた考助は、いまいち納得しきれない顔でそう言いながら頷いた。

 結局、このあとでシルヴィアたちに押し切られるままに、百合之神宮で除夜の鐘と初詣(なぜか途中で話に上って追加された)の催しが開かれることになるのであった。
神社で除夜の鐘w
ちなみに、アースガルドには、お寺やモスクなども存在しています。
ただし、位置づけとしては本文中にあるように、あくまでも建物の歴史で違っているだけで、中の神様が神殿とかと違っていたりはしません。
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