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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その24)

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(5)唐突な提案

 考助がミツキとともに階層の視察から帰ってくると、転移部屋にエリがいた。
「あれ? エリ、どうしたの? ・・・・・・って、いつもの報告か」
「あっ。コウスケ様、ミツキ様」
 丁度、メイドゴーレムに話しかけようとしていたエリは、転移門から現れた考助の姿に一瞬驚いた表情になって、慌てて頭を下げて来た。
 今も変わらず屋台で料理の販売をしているエリだが、すでに屋台の台数も増えて五台を所有するほどになっていた。
 本当であれば、まだまだ増やせるくらいの売り上げがあるのだが、これ以上屋台だけを増やしても他が伸びないという理由で、フローリアが止めている。
「フローリアだったらこっちにいると思うけれど・・・・・・はて? どこの部屋にいるのかな?」
「考助様。ここで悩んでいても仕方ないのだから、とりあえずくつろぎスペースにでも移動したら?」
「それもそうだね」
「え? あ、あの?」
 管理層にいればメイドゴーレムに聞けば場所はわかるのだが、普段聞くことが無い考助たちは、すっかりそのことを忘れてエリを連れて、くつろぎスペースへと向かうのであった。

 
 幸いにして、転々と部屋を彷徨う必要はなく、フローリアはくつろぎスペースにいた。
「ああ、良かった。やっぱりここにいたのか。フローリア、エリが来ているよ?」
「うん? ああ、そうか。もうそんな時期だったか」
 最近では新しいチャレンジを控えて、味を安定させることを目的にしているために、フローリアがしていることは少ない。
 基本的にはエリかサラサから報告を受け取るだけになっているので、フローリアもすっかり忘れがちになっているのだ。
 それに、資金が足りなくなったなどの問題が発生すれば、いつでも管理層に来るように言ってある。
 考助の後ろについて来ているエリの顔を見れば、緊急事態ではないことはわかるので、フローリアものんびりしたものだった。

 考助に促されてフローリアの傍に近寄って行ったエリは、持っていた書類をフローリアへと渡した。
「これが今回の分になります。売り上げに大きな変化はありませんが、少しずつ並ぶ人の数は減っているようです」
「え? 並ぶ人が減っているのに、売り上げはかわらないの?」
 ずっと屋台の運営には関わっていなかった考助が、エリの報告に首を傾げた。
 書類から一度だけ視線を上げてそれを確認したフローリアは、もう一度視線を書類へと戻した。
「ああ。売り上げが変わっていないのは、いつも仕込み分をすべて売り切っているからだ。あと、並ぶ人の数が減っているのは、他に同業他社が増えているからだろう」
「はい。サラサさんもそう言っていました」
「ああ、なるほど。そういうことね」
 ようやく今の状況が理解できた考助は、納得した顔で頷いた。

 とはいえ、状況に理解ができただけで、納得したわけではない。
「それにしても、なんで同じメニューを提供するところがあるのに、わざわざ売り切れて買えないかもしれない所に並ぶかな?」
 考助がそうこぼすと、書類から顔を上げたフローリアが、わずかに驚いたような顔になった。
「いや、人気のところで買えないなら諦めて他のところに行くだろうが、そうでないならぎりぎりまで粘るだろう?」
「え? あれ? そうなの?」
 フローリアの言葉とエリの顔を見て、自分がずれていることを認識した考助は、首を傾げた。

 これは、考助がモノがあふれている世界から来たための差である。
 考助が屋台と聞いてまず思い浮かべるのは、チェーン展開しているファストフード店だ。
 基本的にファストフード店は、どの地域のどの店に行っても同じ味が楽しめるようになっている。
 ところが、エリたちがやっている屋台は、どちらかといえば人気ラーメン店のようなものだ。
 同じラーメンというものを提供しているのに、味の差がはっきりているために、並んででもその店のラーメンを食べようとする。

 中には諦めて別の店に向かうお客もいるが、それはどこかの店に向かえば必ずラーメンが食べられるということがわかっているからこそ、別の店に向かうという選択もできるのだ。
 だが、エリとサラサが経営している屋台は、まだまだ調理法も含めて世界に広がっているとは言い難い。
 そのため、別の店に向かっても必ず食べられるとは限らず、売り切れるかもしれないことがわかっていても、食べたいものを狙うために並ぶことになるのだ。
 勿論、ぎりぎり並んで残念だと告げる前に、きちんと売り子が今日はここまでですと、区切ったりはしている。
 ただし、中には最後の残り物でもいいから並ばせてくれというもの好きもいるのである。

 フローリアと話しながら何となく認識のずれを埋めた考助が、今度は納得した顔で頷いた。
「なるほどね。まあ、ぎりぎり最後まで粘りたくなる気持ちはわからないわけでもないけれど・・・・・・なんというか、そこまでするかと言いたくなるね」
「まあな。だが、そういった者たちがいるからこそ、売り上げに影響がないともいえるからな」
 考助の言葉に、フローリアも苦笑しながら頷いた。
 お嬢様育ちのフローリアは、狙った食べ物のために並ぶということ自体が信じられないことだったのだが、いまとなってはそういうこともあるということはよくわかっている。
 それもこれも、考助に連れ出されて(?)いろいろなところを旅している影響だろう。
「ということは、当分、屋台の売り上げは安泰かな?」
「油断は禁物だが、まあ、そうだろうな」
 同業他社が徐々に増えてきているとはいっても、先駆者の有利があるため今のままでも当分はつぶされることはないとフローリアも考えている。

 フローリアの返事を聞いた考助は、何かを考えるように天井を見た。
「うーん。そうか。・・・・・・それだったら、そろそろエリとかサラサには後継者を育ててもらって、ゆくゆくは屋台から手を引いてもらうかな?」
「なん「えっ!?」」
 なんだと? と言おうとしたフローリアに、エリの驚きの声が被った。
 唐突すぎる考助の提案に、ついに首になったかと考えたのだ。

 流石に考助がそんなことを言っているわけではないとわかっているフローリアは、エリの肩をポンと叩いた。
「落ち着け、エリ。コウスケは別に首だと言っているわけではないからな?」
「首って! そんなことするわけないよ!」
 自分の言葉が誤解を招く言い方だと気付いた考助は、慌ててそう付け加えた。
 これほどまでに自分のためにと働いてくれているエリにそんな真似をするつもりは、考助はまったく考えていない。
「そうじゃなくてね。エリもサラサもこれまで十分に働いてくれているからね。どうせだったら、あとはのんびり管理層か好きな階層で過ごしたらどうかと思ってね」
 はっきり言えば、両者ともに奴隷とは思えないほど稼いでいるため、今後の暮らしにはまったく問題が無いのだ。

 ふたりが働き続けているのは、あくまでも考助に対する恩を感じ続けているからこそだ。
 考助もそれがわかっているのでこれまで好きにさせていたが、そろそろいいのではと思っていたのだ。
「ただ、エリがまだ働きたいと思ってくれているなら、管理層の管理業務とかでもいいしね」
 また変な誤解をされてはたまらないと考えた考助は、すぐにそう付け足した。
 そして、その考助の考えを聞いたフローリアも考えるように腕を組んだ。
「・・・・・・なるほど。確かに、それはいいかもな」
 なんだかんだいって最近の考助は、というよりも管理層で生活メンバーは、管理層を空けることが多くなってきている。
 メイドゴーレムがいるために、完全に無人になることはないのだが、それでも誰かがいた方がいいのは確かなのだ。

 いつものように(?)突然すぎる提案に、エリはやっとのことで口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・考えさせてください」
「ああ、いや。ただの思い付きだから、そんなに考え込まなくていいから! 大体、屋台の引き継ぎだって、そんなすぐに終わるわけじゃないよね」
 悩めるエリの顔を見た考助は、慌ててフローリアを見た。
「それはそうだ。エリ、いまの話は、あくまでもそういう道もあるということだからな。まあ、屋台のことも、あとでいろいろ考えてみようか」
「わかりました」
 フローリアの言葉に、エリはホッとした表情になって頷くのであった。
いつも通り思い付きで行動する考助でしたw
考助の気分としては、長年働いてきてきっちりと勇退させてあげたいという思いがあったりします。
ただし、エリを含めた今も残っている奴隷たちは、いつまでも考助のために働いていたいと思っています。
フローリアはどちらの気持ちもわかっているので、時間を置くように提案しましたw
この先の話は・・・・・・少し先になるでしょうか。(タブン)
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