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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 帰還

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(10)答え

 しばらく動きを止めていたシュレインは、
「・・・・・・こんな簡単なことに気付かなかったとはの」
 と呟いてから、もう一度周囲を見回した。
 そこでは相変わらず子供たちが一心不乱に遊んでいる。
 シュレインは、そんな光景を眩しそうに目を細めながら見詰めた。
「・・・・・・シュレイン様?」
「ああ、いや。なんでもないのじゃ。心配かけたの」
 不安そうな顔で自分を見てくるイネスに、シュレインは安心させるように手を伸ばして、彼女の頭をなでた。

 その手をはねのけようとはせずに、なお同じような顔を続けるイネスに、シュレインはさらに続ける。
「なに。吾にまだ子供はおらぬからの。もしいたらどうなるのかと、少しだけ考えただけじゃ」
「・・・・・・それは、コウスケ様との?」
「うん? 中々敏いの。まあ、そういうことじゃの」
 自分で敏いと言いつつ、わからないはずがないかと思いながらもシュレインはそう答えた。
 そんなシュレインを見ながら、イネスは一応納得したのか、ようやく笑みを浮かべるのであった。

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 イネスと別れて庵に戻ってきたシュレインは、早速考助に報告をした。
「コウスケ。答えがわかったぞ。・・・・・・タブン」
「そこは、断言するわけじゃないんだ」
 急に弱気になったように言葉を濁したシュレインに、考助は苦笑を返した。
 とはいっても、シュレインの目を見る限りでは、大丈夫だろうと考えている。

 そのため、すぐに真顔に戻った考助は、シュレインを見て言った。
「それで? シュレインが見つけた答えはなに?」
「『生きる』ことじゃの」
「へえ?」
 シュレインの答えに、考助は意外そうな顔になった。
「つまりは? どういうこと?」
 あまりに抽象的な言葉だったため、敢えて考助は突っ込んで聞くことにした。
 勿論、いまのシュレインの答えでは、鍵になりえるものではなかったというのもある。
 ただ、完全に間違っているとも思えなかったのだ。

 考助に問われたシュレインは、一度だけ頷いてから続けた。
「吾の知っているヴァンパイアは、あまりにも生に対する執着が薄くなっておる。もっといえば、肉体を伴っての生についてかの」
 いまいる里で見ることができた子供たちの姿は、まさしく生に対する執着だった。
 それは、端的に言えば、いつ自分がモンスターに襲われてもいいように、自らとのつながりを持つ子供を作るということだ。
 生物がごくごく当たり前に持っているはずの本能といっても良い。

 ところが、シュレインの知るヴァンパイアは、そうした部分での執着が極端に低い。
 それがなぜかといえば、考助もよく知るヴァンパイアが持っているとある儀式のせいでもある。
 その儀式とは、言うまでもなく、肉体を捨てて魂だけで存在できていたプロスト一族が行っていたものだ。
 勿論、ミツキによって召喚されたシュレインも同じような儀式を使っていた。
 そうした儀式により、肉体への執着が少なくなってしまったからこそ、次代に命を繋ぐという重要な行為までもが意味を失ってしまったのだ。
 ・・・・・・と、シュレインは分析したのである。

 一通りシュレインの考えを聞いた考助は、ジッと彼女を見ながら頷いた。
「うん。じゃあ、改めて聞くよ。シュレインの見つけた鍵はなに?」
「ヴァンパイア・・・・・・いや。生物にとって一番重要な『子供』じゃの」
 思えば実に簡単なことだった。
 なにしろ、シュレインは里に入ったときから子供の多さを気にしていた。
 錫杖は、シュレインが自分でも気づいていなかった思いを見つけて、この時代へと連れて来たのである。
「子供ね。じゃあ、それは、シュレイン個人の問題? それとも、種族全体?」
「ぬ。それは勿論、両方じゃろう」
 迷うことなくそう言い切ったシュレインを見て、考助は笑みを浮かべた。

 考助は、シュレインが種族全体の問題としてすり替えて、個人の問題としては無視することもあり得ると考えていたのだ。
「それじゃあ、どうすればその問題は解決できるかな?」
「さて・・・・・・それが最大の問題じゃの。こればかりは、やってみないとわからない・・・・・・というか、そこまで必要なのかの?」
 考助たちが知るヴァンパイアに問題があるとして、それを解決しようにもいま自分たちは過去にいて手を出すことができないのだ。
 いかにいい解決法を見つけたとしても、シュレインが言った通りここで話をしていても机上の空論でしかない。
「それもそうだね。それじゃあ、これでいいか」
「・・・・・・なんともあっさりとした答えじゃの」
 考助の軽い返答に、シュレインは若干あきれたような視線を返した。

 そのシュレインに、考助は肩をすくめてさらに答える。
「それは仕方ないよ。元の時代に戻るための鍵は、あくまでも錫杖が決めたものだからね。というよりも、シュレインがそれが答えだと思えばそれで決まりだよ」
「そんなものなのか?」
「そんなものだよ。勿論、ある程度の方向性はあるけれどね。今回は、ヴァンパイアという種族に問題があるとシュレインが気付けばよかったんだと思うよ」
 生への執着が薄れたことにより、生物としての根幹である子をなすということに問題が生じていたヴァンパイア。
 そのことにシュレインが気付くことができれば、あとは実際に元の時代に戻ったところで、問題の解決に向かって動けばいいのだ。
 それは、いまこの場ではっきりとした答えがでるものではない。

 考助の言いたいことが理解できたシュレインは、一度だけ頷きながらもすぐに首を傾げた。
「それは良いのじゃが、では、どうすれば元の時代に戻れるのじゃ?」
「それは簡単だよ。シュレインが見つけた答えを、錫杖に教えてあげればいい」
「いや、教えるといってもの」
 いままでさんざん錫杖を持ちながら答えを話していたのだ。
 それに反応をしていないのだからどうすればいいのかは、シュレインにはわからない。

 戸惑ったような表情を浮かべるシュレインに、考助は小さく笑いを返した。
「まあ、それはあとで教えてあげるから心配しなくても大丈夫だよ。それよりも、まずやっておくべきことがあるよね?」
 突然そんなことを言い出した考助に、シュレインは首を傾げた。
「やること、じゃと?」
「こらこら。いくら切羽詰まっていたからって、大事なことを忘れたら駄目じゃないか。長老たちにお世話になったお礼をしないと」
「あ・・・・・・」
 完全にそのことを失念していたシュレインは、思わず顔を赤くしてしまうのであった。

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 場所を変えて長老の庵にて。
 考助とシュレインから話を聞いた長老は、深くため息をついた。
「そうか。あるべき場所へ戻られるか」
 主に話をしたのはシュレインだが、未来に帰るということははっきりと言っていない。
 だが、長老もなんとなく察してはいるようで、深く聞いてくることはなかった。
 下手につついて問題が起こる可能性についてもわかっているのだ。

 残念そうな表情を浮かべる長老に、シュレインははっきりと頷き返した。
「うむ。きちんと試してみないとわからぬが、恐らく大丈夫じゃろうからの」
「寂しくなりますが、致し方ありませんな。こうしてお話しできただけでも望外の幸運だったと思うことにしましょう」
「そう言ってくれると吾も嬉しいの」
 長老の言葉に、シュレインも笑みを浮かべた。

 一通りの話をしたあとは、このあとにするべきことを話していったん借り受けている庵へと戻ることになった。
 いままでお世話になった人たちに話を通すまで、しばらく時間がほしいと長老が言ってきたのだ。
 勿論、シュレインもそれを無下にするつもりはないので、改めて挨拶をしようということのなったのである。
やっと(?)シュレインが答えを見つけました。
これで元の時代に戻る準備はできたので、あとはお別れの挨拶をするだけです。
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