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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 帰還

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(9)気付き

 シュレインとの話し合いを終えた翌日、考助はクラーラとの交神を行っていた。
『そう。きちんと伝えたのね』
「ああ。それが正解だったんだよね?」
 実は、考助もクラーラからはっきりと鍵については聞いていなかった。
 ただ、シュレインとの話し合いの最中に気付けたように、それとなく正解にたどり着けるような言い回しは受けていた。
 クラーラがはっきりとした答えを言わなかったことは、考助はどうこう思っていない。
 ただでさえ過去に来ているという状況なのだから、下手に直接的な答えを言うことは、世界の管理に支障をきたすということは予想ができる。
 慎重に慎重を期すのは当然のことだと、考助も考えている。

 そんなことを考えていた考助の耳に、クラーラの笑い声が届いた。
「クラーラ?」
『あら。ごめんなさいね。でも、考助は、少し難しく考えすぎよ?』
「え? いや、でも、そうしないと時間軸がおかしく――」
 なる、と続けようとした考助だったが、クラーラが言葉で遮ってきた。
『だから、それが考えすぎってことなのよ』
「・・・・・・ええと? どういうことかな?」
 考助としては、無理やりな感じで過去に割り切んできたと考えている。
 だからこそ、不用意な行動をしては駄目だと考えているのだ。
 現に、初めてクラーラと交神をしたときの彼女の安堵は、嘘ではなかったはずだ。

 考助がそんなことを素直に疑問を述べたあとのクラーラから返答は、これだった。
『それはね。勿論、私たちも、考助たちが消えたときは焦ったわよ? なにしろ、どこに行ったのか、まったく影も形もつかめなかったのだから』
 考助たちが過去に飛んだときは、確かにアスラを始めとして、女神全員が考助たちを見失っていた。
 だからこそ、慌ててクラーラを管理層という限定的な場所に降臨させてまで、考助探しを実行したのだ。
 それは、いまの状態で考助を失ってしまえば、それは神域にとっても多大な損失になるためである。
 その上で、考助の居場所が特定できた状況となったいまとなっては、女神たちはさほど焦ってはいなかった。
 なぜなら、ずっと考助が過去に居続ける、という未来は存在しないからである。

 逆説的な考え方だが、ある意味で納得できる説明に、考助は思わず納得してしまった。
 だが、それと同時に、別の疑問も浮かんできた。
「あれ? ということは、未来は確定しているってこと?」
『少なくとも、いまのところは、と言ったところかしらね。でも、考助もシュレインもミツキも、そこまで迂闊なことはしないでしょう?』
 タイムパラドックスが本当に発生するのかどうかの是非はともかくとして、考助たちがわざわざそんな行動を取るとは思えない。
 そう断言するクラーラに、考助は確かにと内心で頷いていた。
 下手に行動すれば、自分がこの世界アースガルドに来なかったという未来になってしまう可能性だって十分あり得る。

 いまとなっては、そんな未来は考助だってごめんなのだ。
 それは、シュレインやミツキも同じだろう。
 だからこそ、考助は自信を持って頷いていた。
「まあ、それはそうだけれどね」
『そうよね。まあ、とにかく、あまり心配せずにことを進めましょう? といっても、あとはシュレインの頑張り次第だけれど』
「それはそうだね」
 すでに先ほどの話し合いで賽は投げられている。
 あとは、シュレインが、正しい答えを見つけることができるかどうかである。
『でも、考助は信じているのでしょう? シュレインのことを』
「それは当然だよ」
 まったく悩むこともせずに、考助はあっさりとそう答えるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 考助とクラーラが交神を行っているそのとき。
 話題に上がっているシュレイン本人は、庵を出て散歩がてら里を歩き回っていた。
 シュレインの目に映るのは、どこの里でも見られるような光景でもあり、また見たこともないような光景でもある。
 その理由は、あまりにもごく普通の光景すぎて、ヴァンパイアの里としてはあり得ないというものだった。
「――――――まさか、この期に及んで普通の光景に憧れを持つとはの・・・・・・」
「はい? なにか仰いましたか?」
 ごく小さな声で呟かれたシュレインの声は、完全にはイネスには届かなかったらしく、首を傾げながら聞き返してきた。
 イネスは、シュレインが庵を出たところでばたりと出会い、せっかくなのでということでついて着たのである。

 イネスの問いかけに、シュレインは首を左右に振った。
「いや。なんでもないのじゃ」
 憧れといっても里全体の雰囲気についてではない。
 具体的になにかと言われれば、はっきりはしないのだが――――――。
「――――いや。いまさら自分を誤魔化しても仕方ないか」
 今度こそイネスには聞こえないように呟きつつ、シュレインは諦めた表情になった。

 先ほどからシュレインの頭を悩ませているのは、元の時代の戻るための鍵がなんであるのか、ということに以上に、時々目の前で駆け抜けていく子供たちの姿だ。
 なぜ、そんなにも子供の姿に惹かれているのか、すでにシュレインも気が付いている。
 いままでは「他種族だから」と誤魔化してきた自らの気持ちも、こうまではっきりとそうではないことを見せつけられて、動揺しているのである。
 考助と話し合うまではそれが抑えられていたが、なにかの箍が外れたようにいまになってその気持ちが溢れて来ていた。
 もう、ここまで来てしまうと「考助の子供が欲しい」という自分の気持ちは誤魔化すことはできなくなっている。

 そんなことを考えていたシュレインは、大きくため息をついた。
 そのシュレインの様子を見ていたイネスは、はっきりとは見えていないにしろなにかを感じ取ったのか、心配そうな顔になった。
「どこか具合でも悪いのですか?」
「ああ、いや。そういうことではないのじゃ。だが・・・・・・そうじゃの。いささかこの里の子たちの元気さに中てられたやもしれぬの」
 冗談交じりのシュレインの言葉に、イネスはクスリと笑った。
「里の子供たちは元気ですからね」
 だが、そう言ったイネスの顔が一瞬陰った。

 そのイネスの顔を見逃さなかったシュレインは、首を傾げながら問いかけた。
「なんじゃ? 子供が元気で問題でもあるのかの?」
「いいえ! そういうことではなくて・・・・・・。すみません。無邪気な子供はいいなと思っただけです。・・・・・・こんなことを考えるなんて、まだまだ私も子供ですね」
「フフ。まあ、そう言うな。自ら子供だと認められるようになれれば、すでに大人になる第一歩を踏み出しているといっても良いじゃろう?」
「そんなものですか?」
「そんなものじゃ」
 そう軽く言ってきたシュレインに、イネスは「そうかもしれませんね」と返した。

 そんな会話の最中も、シュレインの視線は遊んでいる子供たちを追っている。
 それに気付いているのかいないのか、イネスも同じように子供たちに視線を向けながらポツリとこぼした。
「いずれはあの子たちも生きるために必死になることを覚えて行くのでしょうね」
 里の中である程度安全に遊べている子供たちは、なかなかモンスターの脅威というものに触れることはないのだ。
「それはそうじゃろうの。いや。子供たちもそれは肌で感じておるのではないかの?」
「そうでしょうか?」
「うむ。だからこそ、ああやって毎日を一生懸命生きて・・・・・・」
 おるのじゃろう、と続けようとしたシュレインだったが、不意にその言葉を切った。
 その様子にイネスが訝し気な表情を向けて来たが、シュレインはそれに気付くこともなかった。
 なぜなら、いま自らが発した言葉の中に、帰還のための重要なヒントが隠れていることに気付いたのである。
最後の最後まで引っ張りますよ~。
まあ、次話で鍵が何であるのかは分かるわけですがw

長かった過去編(?)もそろそろ先が見えてきました。
もう少々お付き合いください。
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