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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 帰還

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(7)感じる違和感

 シュレインが意外な(?)弱さを見せた翌日。
 考助たちは、いつものように里へと繰り出していた。
 今日は子供たちの様子を見るのもそうだが、もう一度市の様子を見に来たのだ。
 小さな集落なので、見るものが固定されてしまうのは、致し方のないことである。
「やはり、何度も見ても、ごく普通の光景じゃの」
 ぽつりと呟かれたシュレインの言葉に、考助は首を傾げる。
 シュレインの顔を見て、単にそう思っているだけではなく、別の意味が隠れているのではと察したのだ。
「どういうこと?」
「うむ。・・・・・・もっと、分かり易くするには、頭にヴァンパイアでなければ、とつければよいじゃろ?」
「・・・・・・ああ。そういうこと」
 シュレインの言いたいことを察した考助は、ため息をつくように答えた。

 シュレインが言っているのは、以前から何度も繰り返していることと同じことだ。
 未来の、自分たちが知っているヴァンパイアは、ここまで「普通の」活動は行っていないのだ。
「それがヒントになっていることはわかっておるのじゃが、では、なぜその普通がなくなったのかと言われるとの」
「見当がつかない、か。・・・・・・いや、本当にそうなのかな?」
「コウスケ・・・・・・?」
 ふとなにかを思いついたような顔になる考助を見て、シュレインは首を傾げた。
 と、同時に、考助が考えこむ前に、言わせてしまおうという意図もある。
 考助は、自分の言葉に自信がないときには、飲み込んでしまう癖があるのだ。
 それが本当に間違っているのかどうかはわからないのだから、言ってほしいというシュレインの考えがある。

 そんなシュレインの意図に応えて、考助は自分の中で思い浮かんだ考えを整理するように、言葉を口にしはじめた。
「いま僕らの目の前には、ごく普通のヴァンパイアとしての生活があるよね?」
「うむ」
「でも、僕らの知る時代には、こうした営みはほとんどなくなってしまっているか、縮小してしまっている?」
「そうじゃの」
「となれば、どこかのタイミングでこうした営みが薄れていったということになる」
「その通りじゃ」
 考助の言葉に、シュレインは一々相槌を打っていく。
 ここまでの考察は、すでにシュレインも何度も行っていることだ。

 考助の言葉を聞いているシュレインは、自分の知るヴァンパイアの歴史を思い浮かべながら一緒に考えていた。
「それはいつからそうなったのかな? 単に偶然で薄れていったのか、それともなにか理由があってそうなったのか・・・・・・」
「おそらく原因があってのことじゃろうの」
「それは、なぜ?」
「なぜって、それは・・・・・・」
 考助の問いに、シュレインはハッとした表情になった。
「それを知るために、吾らはこの時代に飛んできたのじゃろう?」
「うん。まあ、それだけじゃなさそうだけれど、それも鍵のひとつというわけだよね」
 これは、先日のクラーラからの通信でわかったことだ。
 だからこそ、考助とシュレインは里の営みを見ながら頭を悩ませているのだ。

 だが、ここまで悩まずに話していた考助だったが、どこかに違和感を覚えて首を傾げた。
 先ほどの思い付きからどこか話がずれている気がしたのだ。
「コウスケ・・・・・・?」
「あー、いや、うん。なんだろう? なにか喉に刺さっているような感じがして、気持ち悪いんだよねえ」
 腕を組んで頭をひねる考助を見て、シュレインも同じように首を傾げた。
 考助の感じている違和感がなんなのか、シュレインにはさっぱりわからなかったのだ。

 ここで、それまで黙ってふたりのやり取りを聞いていたミツキが、言葉を挟んできた。
「考助様が、違和感を覚えたのは鍵の部分? それとも時代? それよりももっと前の話で?」
 ミツキにも考助がなにに引っかかっているかはわかっていない。
 だからこそ、敢えてそれがなにかを聞き出そうとしたのだ。
「それは、鍵・・・・・・じゃなくて、時代・・・・・・あっ! そうか!!」
 突然ポンと手を打ち鳴らした考助に、シュレインとミツキは顔を見合わせた。

 不思議そうな顔をしているふたりに、考助はさらに質問を続けた。
「里のことに気を取られていて忘れていたけれど、僕らが飛ばされた、というよりも錫杖が選んだのは、この時代だけじゃない。もうひとつあるじゃないか!」
 すっかり興奮した様子で話す考助に、ミツキもなるほどという顔になった。
「どうみてもここはセントラル大陸ではないものね」
「そう! それを考えれば、理由がわかるんじゃない? 場所というよりも、なぜこの里じゃないと駄目だったのかとか」
 その考助の言葉に、シュレインはなにか衝撃を受けたような顔になった。
「この里じゃなければならなかった理由か・・・・・・なるほどの」
 ひとりで納得して頷くシュレインを見て、考助はにやりと笑った。
「なにか思いついたみたいだね」
「ああ。恐らく・・・・・・間違いないじゃろうな」
 ため息のようにそう言ったシュレインの顔は、どこかスッキリとした顔になっていた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 立ったままでは落ち着かないので庵に戻ろうというシュレインの提案を受けて、考助たちは市から戻ってきた。
 その間、シュレインは自分を落ち着かせるためか、あるいは納得させるためか、ずっと黙ったままだった。
 考助も敢えてその間は、なにかを問いかけたりするようなことはしていない。
 シュレインの中で整理する時間が必要だと考えたためだ。

 庵の中に入って腰を落ち着けてからすぐに、シュレインはいままでまとめていた内容を話し始めた。
「この里に来たばかりの頃、吾が長老に話したことを覚えておるかの?」
「長老に・・・・・・? うーん・・・・・・」
 シュレインの問いかけに、考助は当時のことを思い出すように天井を見上げた。
「・・・・・・・・・・・・確か、長老がやっていることは間違っていないとか、そんなことを言っていたような・・・・・・?」
「そうじゃ。それで合っておる」
 確認するような考助の言葉に頷いたシュレインは、プロスト一族の過去について話し始めた。

 そもそもプロスト一族が、考助たちの知るヴァンパイアの源流と言われているのには、きちんとした理由がある。
 それは、一族の中に始祖と呼ばれるような種族がいたのもあるのだが、それよりも、もともとあったヴァンパイアから別れて、とある基礎となる儀式を生み出したことにある。
 その儀式というのが、考助が知る結晶石を作るためのもので、それがあったからこそプロスト一族は、他種族に対して吸血行為をしなくても済むようになったと言われているのだ。
 シュレインは、それを知っていたからこそ、あの助言を長老に対して行ったのである。
 勿論、シュレインが知っているのは伝承のひとつとしてであり、それが本当に正しいのかは賭けだったのだが、長老の反応を見る限りでは正しかったと考えていた。

 シュレインから話を聞いた考助の顔には、理解の色が広がっていた。
「・・・・・・なるほど。シュレインは、そのことが今回の件と関係していると思っているんだね?」
「そうじゃ。というよりも、それ以外に考えられないの」
 思い付くまではまったく考えてもいなかったのだが、一度確信してしまえば、それしかないという思いになっている。
 なんとも都合のいいことだが、それ以外に思いつかないというのも間違いではないのだ。
 なによりも、その歴史的事実は、ヴァンパイアにとってはなによりも重要なものだった。
 シュレインがそう考えるのも、ある意味では当然のことなのであった。
ようやっと話が前に進みそうです。
長かった過去話もあともう少しです! (・・・・・・だといいなぁ)
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